平凡な薬師が勇者に負けた魔王様を拾ってしまった。

わしお

文字の大きさ
38 / 38
【番外編】

【番外編】12本のバラ

しおりを挟む
 いつものようにリアムたちと会議をした後、人の姿で街に出たルカは、花の香りが妙に濃いことに気が付いた。
 通りを歩くと、至るところに花を持った男性の姿がある。賑わう花屋の様子を見て、今日が人間にとって大切な日であったことに気が付いた。
 エマがこういった行事を気にするとは思えないが、たまには想いを形にするのも悪くない。そう思ったルカは花屋に足を向け、立ち並ぶ花々を観察した。

 ルカはこれまで、意識して花屋を避けていた。花を見ると、どうしてもイヴァンを思い出してしまうからだ。
 イヴァンは己の力を「役に立たない」と言っていた。しかし誰も傷つけることのないその力に、多くの者が元気づけられた。その力が、笑顔が失われてしまったことに、ルカは未だに強い怒りを感じている。
 エマに出会わなければ、こうして花屋に立ち寄ることなど一生なかったかもしれない。

 贈り物の定番は赤いバラだと聞いた。ルカには花の美醜がわからず、下手に選ぶより王道にした方がいいだろうと判断した。
 店員に注文すると、「何本にしますか?」と聞かれた。本数にも意味があるのだろうか。
 困惑するルカの様子を察したのか、店員はバラの花束は本数によって意味が異なるのだと教えてくれた。

(一本、九本……。いや、十一本でもいいな)

 エマが本数の意味に気づくことはないと思うが、こちらが思いを込める分には自由だ。ルカは『最愛』を意味する十一本にしようと思った。

 しかし十二本の意味を知り、どちらにしようか心が揺れた。
 もう恋人なのだから、十二本は意味を成さないかもしれない。しかしもう一歩関係を進めるのならば、意味は大いにある。
 これ以上の関係は、世間的には認められないだろう。そもそも人間ではないルカが、この関係を望んでいいのかもわからなかった。

(……望むだけなら自由か)

 この望みをエマに伝えるつもりは、今のところない。しかし心に秘めておくことくらいは許されるだろう。
 ルカは店員に、バラを十二本包むように頼んだ。店員はみずみずしい新鮮なバラを選び、美しい花束にしてくれた。

「頑張ってください」

 会計し花束を受け取ったとき、店員にそう言われた。きっと深い意味はなかったのだと思う。今のルカは誰から見ても、ただ恋人に贈る花束を買いに来た普通の人間だ。
 しかし人間から「頑張れ」と言われることに、ルカは少し不思議な心地がした。
 ルカが魔族の姿だったら、きっと店員はそう声を掛けることはなかっただろう。それどころか、花を売ってもくれなかったと思う。
 けれどもルカは少しだけ、世界が変わったような感覚がした。

(お前が望んだのはこのような世界か?イヴァン)

 花束に顔を近づけると、かぐわしい香りが鼻を通り抜ける。胸焼けするほどに甘いのに、不思議と嫌な感じはしない。
 親友が背中を押してくれているような気配を感じながら、ルカは軽やかな足取りで、愛しい恋人の元へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...