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【番外編】
【番外編】12本のバラ
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いつものようにリアムたちと会議をした後、人の姿で街に出たルカは、花の香りが妙に濃いことに気が付いた。
通りを歩くと、至るところに花を持った男性の姿がある。賑わう花屋の様子を見て、今日が人間にとって大切な日であったことに気が付いた。
エマがこういった行事を気にするとは思えないが、たまには想いを形にするのも悪くない。そう思ったルカは花屋に足を向け、立ち並ぶ花々を観察した。
ルカはこれまで、意識して花屋を避けていた。花を見ると、どうしてもイヴァンを思い出してしまうからだ。
イヴァンは己の力を「役に立たない」と言っていた。しかし誰も傷つけることのないその力に、多くの者が元気づけられた。その力が、笑顔が失われてしまったことに、ルカは未だに強い怒りを感じている。
エマに出会わなければ、こうして花屋に立ち寄ることなど一生なかったかもしれない。
贈り物の定番は赤いバラだと聞いた。ルカには花の美醜がわからず、下手に選ぶより王道にした方がいいだろうと判断した。
店員に注文すると、「何本にしますか?」と聞かれた。本数にも意味があるのだろうか。
困惑するルカの様子を察したのか、店員はバラの花束は本数によって意味が異なるのだと教えてくれた。
(一本、九本……。いや、十一本でもいいな)
エマが本数の意味に気づくことはないと思うが、こちらが思いを込める分には自由だ。ルカは『最愛』を意味する十一本にしようと思った。
しかし十二本の意味を知り、どちらにしようか心が揺れた。
もう恋人なのだから、十二本は意味を成さないかもしれない。しかしもう一歩関係を進めるのならば、意味は大いにある。
これ以上の関係は、世間的には認められないだろう。そもそも人間ではないルカが、この関係を望んでいいのかもわからなかった。
(……望むだけなら自由か)
この望みをエマに伝えるつもりは、今のところない。しかし心に秘めておくことくらいは許されるだろう。
ルカは店員に、バラを十二本包むように頼んだ。店員はみずみずしい新鮮なバラを選び、美しい花束にしてくれた。
「頑張ってください」
会計し花束を受け取ったとき、店員にそう言われた。きっと深い意味はなかったのだと思う。今のルカは誰から見ても、ただ恋人に贈る花束を買いに来た普通の人間だ。
しかし人間から「頑張れ」と言われることに、ルカは少し不思議な心地がした。
ルカが魔族の姿だったら、きっと店員はそう声を掛けることはなかっただろう。それどころか、花を売ってもくれなかったと思う。
けれどもルカは少しだけ、世界が変わったような感覚がした。
(お前が望んだのはこのような世界か?イヴァン)
花束に顔を近づけると、かぐわしい香りが鼻を通り抜ける。胸焼けするほどに甘いのに、不思議と嫌な感じはしない。
親友が背中を押してくれているような気配を感じながら、ルカは軽やかな足取りで、愛しい恋人の元へと向かった。
通りを歩くと、至るところに花を持った男性の姿がある。賑わう花屋の様子を見て、今日が人間にとって大切な日であったことに気が付いた。
エマがこういった行事を気にするとは思えないが、たまには想いを形にするのも悪くない。そう思ったルカは花屋に足を向け、立ち並ぶ花々を観察した。
ルカはこれまで、意識して花屋を避けていた。花を見ると、どうしてもイヴァンを思い出してしまうからだ。
イヴァンは己の力を「役に立たない」と言っていた。しかし誰も傷つけることのないその力に、多くの者が元気づけられた。その力が、笑顔が失われてしまったことに、ルカは未だに強い怒りを感じている。
エマに出会わなければ、こうして花屋に立ち寄ることなど一生なかったかもしれない。
贈り物の定番は赤いバラだと聞いた。ルカには花の美醜がわからず、下手に選ぶより王道にした方がいいだろうと判断した。
店員に注文すると、「何本にしますか?」と聞かれた。本数にも意味があるのだろうか。
困惑するルカの様子を察したのか、店員はバラの花束は本数によって意味が異なるのだと教えてくれた。
(一本、九本……。いや、十一本でもいいな)
エマが本数の意味に気づくことはないと思うが、こちらが思いを込める分には自由だ。ルカは『最愛』を意味する十一本にしようと思った。
しかし十二本の意味を知り、どちらにしようか心が揺れた。
もう恋人なのだから、十二本は意味を成さないかもしれない。しかしもう一歩関係を進めるのならば、意味は大いにある。
これ以上の関係は、世間的には認められないだろう。そもそも人間ではないルカが、この関係を望んでいいのかもわからなかった。
(……望むだけなら自由か)
この望みをエマに伝えるつもりは、今のところない。しかし心に秘めておくことくらいは許されるだろう。
ルカは店員に、バラを十二本包むように頼んだ。店員はみずみずしい新鮮なバラを選び、美しい花束にしてくれた。
「頑張ってください」
会計し花束を受け取ったとき、店員にそう言われた。きっと深い意味はなかったのだと思う。今のルカは誰から見ても、ただ恋人に贈る花束を買いに来た普通の人間だ。
しかし人間から「頑張れ」と言われることに、ルカは少し不思議な心地がした。
ルカが魔族の姿だったら、きっと店員はそう声を掛けることはなかっただろう。それどころか、花を売ってもくれなかったと思う。
けれどもルカは少しだけ、世界が変わったような感覚がした。
(お前が望んだのはこのような世界か?イヴァン)
花束に顔を近づけると、かぐわしい香りが鼻を通り抜ける。胸焼けするほどに甘いのに、不思議と嫌な感じはしない。
親友が背中を押してくれているような気配を感じながら、ルカは軽やかな足取りで、愛しい恋人の元へと向かった。
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