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第六章 盗み聞きのシロツメクサ
01 深淵を覗く者は
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テストの後片付けを手伝ってくれた夏凛に礼を言い、今夜はもう部屋へ引きあげようとしたその時だった。
「あー。すみれ。ちょっと」
夏凛に呼び止められ、すみれは廊下で立ち止まった。
微かに、雨の音がした。夜から天気が崩れるという予報は当たったようだった。
「はい? 何でしょう?」
「うん。あのね、ごめん。明日は私、お休みを頂くから。勝手で申し訳ないんだけど、貴女も休みにしてあるの。シフトは他の子に埋めてもらったわ。事後報告でごめんなさい」
夏凛が、少し疲れたような目をして微笑み、言った。
(……あれ?)
先刻まで溌剌としていた夏凛なのに、今は廊下の淡いセピア色の光のせいだろうか、どこか力無く見えた。
お茶出し業務に携わるのが可となったとはいえ、すみれはまだ新米だった。普段の仕事は、教育係を任されている夏凛と常に組んで行う。
とはいえ、その夏凛が体調不良などで休みの時は、鞘人や佐古に指示を仰いで仕事をこなす時もあったのに、休日扱いになったのはこれが初めてのことだ。
「でも……この前みたいに、鞘人さんに指示を仰いで仕事しますよ?」
何気なくそう申し出ると、夏凛がまた困ったように笑んだ。
「……ごめん。鞘人も、明日は休みなのよ」
「え……」
「ちょっと、行くところがあってね。あーあ。明日も雨ね……ったく、よりにもよって……」
夏凛は小さく呟き、窓外へ目をやった。
その美しい横顔が、あまりにも暗く沈んでいる。気のせいではないようだった。
「大丈夫、ですか、夏凛さん」
すみれが、夏凛の腕にそっと手を添え呼びかけると、我に返ったように夏凛が目を瞠った。
「あ、あぁ……うん。大丈夫。私は」
(私は?)
すみれは胸の中で夏凛の言葉を反芻した。
それではまるで──大丈夫ではない人が、他にいるようで。
鞘人と、何処へ行くのだろう。安易な発想でいえばデートだが、そんな楽しげな雰囲気は、夏凛の横顔に微塵も見つけられない。
「……風邪ひかないように、あったかくして行ってくださいね」
何処へいくのかも、何のための休みなのかもあえて聞かずにそっと囁いたすみれに、夏凛はふと、やさしい目をした。
「……ありがとう、すみれ。……明日はね、命日なのよ」
「命、日……」
さすがに思いもかけぬ言葉に、すみれは息を呑んだ。
「うん。私と鞘人が仕えていた、元の主……圓成湖示様とその娘・理愛様のね、命日」
(──あ)
そういえば、とすみれは思い出した。
数日前、自分と鞘人の間柄を腐れ縁だと語った夏凛は、微妙に圓成家から出たいきさつを語るのを避けていた。
今、正にその話題に夏凛は触れているのだ。
「……亡くなって、おられたんですか……」
「うん……あなたにとっても少しツライ話題で、ごめんね。交通事故だったの」
びくりと一瞬、すみれの肩が揺れた。
交通事故、というフレーズは未だにすみれの心を震えあがらせる。
理不尽に、何の心準備もなく、大切な命をある日ふっつりとこの世から奪い去る、交通事故という名の悪魔。
ここにも、そんな悪魔に身近な人間を奪われた者たちが居たのだ。
「ちょっと……悲惨な事故でね。その後、すぐに奥方様も、後を追うように自殺したのよ」
「……そんな……」
「圓成家はご長男が継がれたんだけど、理愛様付きの使用人は随分解雇されちゃってね。私も当然解雇だったし、鞘人に至っては自分から退職したわ」
「自分から、ですか……」
「……ま、ショックだったんでしょうよ。執事だって人間だから。理愛様のことも幼いころからずっと見守ってきたわけで……私、当時の鞘人は、後追い自殺するんじゃないかって、ずっと思ってた」
「──」
あぁ、とすみれは重い息を吐いた。
最初に鞘人はすみれと顔を合わせた時言った。主を愛せるか、と。
(きっと、鞘人さんは、湖示様のことも理愛様のことも……)
深く愛し、忠節を尽くしていたのだろう。
鞘人にとって、二人を同時に失うという悪夢は、生きる意味すら失う出来事だったのかもしれない。
「司様はあの後、必死に圓成家をバックアップしたけど……なんせ後継ぎの御長男がいわゆるボンクラでね。どうしようもなかった。今じゃ、圓成家は見る影もないわ」
「……それで、鞘人さんと二人で、青龍家に?」
「ん……そう、ね」
尋ねたすみれに、夏凛は少しだけ言い淀み、俯いた。
「いろいろ……本当に、いろいろ、あったんだけど」
「……はい」
「最終的には、司様が、鞘人を呼んだの。その時に鞘人が、私と一緒に抱き合わせで雇うことを条件にしてくれたから、私も雇われたってわけ」
「……鞘人さん、夏凛さんを頼りにしてたんですね」
何気なく言ったすみれの言葉に、一瞬夏凛は目を見開き、珍しく照れたように笑った。
「……ま、メイドの中にも繋がりのある人間が一人いたほうが、新しい環境でも執事としてやっていきやすいからね」
などと尤もらしいことを言いながらも、夏凛の表情から先刻までの暗さが一瞬消えた。
おや? とすみれは思う。乙女の勘が微妙に働いた。
鞘人と夏凛の二人は、しょっちゅうぶつかりあったりしている割にはスムーズな意思疎通ができていると、普段から思ってはいたのだが──やはり芯のところで解り合っているのだろう。
「つ・ま・り、頼りにしてるってことですね」
夏凛の顔を覗き込み、暗い雰囲気を払うようにすみれが笑って見せると、夏凛がちらと眉を上げた。
「ま、当然よね。並のメイドの三倍は役にたつもの、私」
と腕組みして自分で言って見せても、夏凛なら許せてしまう。実際そうなのだから。
佐古が定年を迎えれば、夏凛が次のメイド長だろうと噂されていることは、ここに来てまだ日の浅いすみれでも知っていた。
「明日は、旦那様もいないわ。貴女は羽を伸ばしてよ」
窓枠から身を起こし、夏凛がひらりと手を振る。
「あ、はい……お疲れさまでした」
「貴女もね。ミルクの件はファインプレーよ! 胸の空く想いがしたわ! じゃね」
夏凛はそのまま、メイドたちの宿舎である別館へと帰るべく、本館裏口を出ていった。
あ、と小さくすみれは声を上げた。外は、雨だ。
「──夏凛さん、傘は!?」
暗い雨の降りしきる戸外へと、既に夏凛は躊躇いもせず歩き出していた。従業員用の傘はきちんと用意されているのにも関わらず、その傘には手を出さずに、だ。
夏凛が振り向かぬまま、雨に打たれるに任せたその白い手を、ひらひらさせた。
大丈夫よ、おかまいなくとでも言いたげに。
茫然とそれを見送り、やがてすみれは少し重たくなった心を持て余し、息をついた。
夏凛と鞘人が、二人してかつて仕えていた主は、既に亡くなっていたのだ。しかも娘まで一緒に。
(……多分、あれ以上は話したくないんだろうな……)
夏凛が自分から詳細を話すならともかく、そうでないのなら、この件に関してはこれ以上、詮索すべきではないのだろう。
そっとしておこう、とすみれは心に決めた。
それは思いやりからでもあったが──そもそも過去の、夏凛と鞘人の話だ。
自分には関わりのない事だ、という意識もあった。
そう、まさか、二人の過去が己にも関わってくるなどと、その時のすみれは思いもしなかったのだ。
風が、少し強くなっていた。吹き込む雨を防ぐべく、そっと裏口を閉め、本館の東の端へとすみれは歩き始めた。
部屋に戻るには、東館と接する一番端の螺旋階段を三階まで登らなければいけない。
エレベーターも無論設置されているのだが、いつも使わない。少しでも運動量を増やして身体の線を保ちたいという乙女心からだ。
そんな運動欲求をあますことなく満たしてくれるこの邸は広すぎて、簡単には自室へ辿りつけない。
足音を消すほどに柔らかな絨毯をひたすら踏みしめ、螺旋階段の登り口まで辿りついたその時──ふと、すみれは人の声に気付いて歩みを止めた。
曲がり角の向こうは東館だ。
司の居住エリアであり、プライベートな空間という扱いだから、用のある者以外は立ち入り禁止である。
淡い間接照明が照らすその東館の、曲がり角から──
『…………になりな……すみれは、『彼女』じゃない』
突き放すようなその声が、響いてきた。
司の声だと気付いてそれでも立ち去るには、すみれはすでに司を意識し過ぎていたといっていい。そうでなくとも自分のことが話題にされていたのだ。気にならぬはずが無かった。
螺旋階段の手すりに縋りついたまま、すみれは息を殺して立ちつくしてしまったのだった。
(しまった……何してるの……私……!)
まるきり、これでは盗み聞きである。
*
すみれは、『彼女』じゃない。
当たり前の事実だ。解っているのに。
「もう……2年になるね。明日だ」
司が囁く。無言で鞘人は頷いた。
二人は、東館一階の廊下に立ちつくしたまま、その雨音を聞いた。
降り始めた雨はまたたく間に強さを増してゆく。
低く、遠く、空が鳴った。
そう、明日がその日だ。
まるで二年前を再現するつもりかのような皮肉な雨音に、鞘人の心は掻き乱され、軋んだ。
司のことを怨んでなどいないと言いながらも司に勝手な期待を寄せ、それが上手く実る気配を見せないとなると苛立つ──そんな器の小さい己を苦く思う時、鞘人の胸に去来するのはいつも、二年前の光景だった。
「あー。すみれ。ちょっと」
夏凛に呼び止められ、すみれは廊下で立ち止まった。
微かに、雨の音がした。夜から天気が崩れるという予報は当たったようだった。
「はい? 何でしょう?」
「うん。あのね、ごめん。明日は私、お休みを頂くから。勝手で申し訳ないんだけど、貴女も休みにしてあるの。シフトは他の子に埋めてもらったわ。事後報告でごめんなさい」
夏凛が、少し疲れたような目をして微笑み、言った。
(……あれ?)
先刻まで溌剌としていた夏凛なのに、今は廊下の淡いセピア色の光のせいだろうか、どこか力無く見えた。
お茶出し業務に携わるのが可となったとはいえ、すみれはまだ新米だった。普段の仕事は、教育係を任されている夏凛と常に組んで行う。
とはいえ、その夏凛が体調不良などで休みの時は、鞘人や佐古に指示を仰いで仕事をこなす時もあったのに、休日扱いになったのはこれが初めてのことだ。
「でも……この前みたいに、鞘人さんに指示を仰いで仕事しますよ?」
何気なくそう申し出ると、夏凛がまた困ったように笑んだ。
「……ごめん。鞘人も、明日は休みなのよ」
「え……」
「ちょっと、行くところがあってね。あーあ。明日も雨ね……ったく、よりにもよって……」
夏凛は小さく呟き、窓外へ目をやった。
その美しい横顔が、あまりにも暗く沈んでいる。気のせいではないようだった。
「大丈夫、ですか、夏凛さん」
すみれが、夏凛の腕にそっと手を添え呼びかけると、我に返ったように夏凛が目を瞠った。
「あ、あぁ……うん。大丈夫。私は」
(私は?)
すみれは胸の中で夏凛の言葉を反芻した。
それではまるで──大丈夫ではない人が、他にいるようで。
鞘人と、何処へ行くのだろう。安易な発想でいえばデートだが、そんな楽しげな雰囲気は、夏凛の横顔に微塵も見つけられない。
「……風邪ひかないように、あったかくして行ってくださいね」
何処へいくのかも、何のための休みなのかもあえて聞かずにそっと囁いたすみれに、夏凛はふと、やさしい目をした。
「……ありがとう、すみれ。……明日はね、命日なのよ」
「命、日……」
さすがに思いもかけぬ言葉に、すみれは息を呑んだ。
「うん。私と鞘人が仕えていた、元の主……圓成湖示様とその娘・理愛様のね、命日」
(──あ)
そういえば、とすみれは思い出した。
数日前、自分と鞘人の間柄を腐れ縁だと語った夏凛は、微妙に圓成家から出たいきさつを語るのを避けていた。
今、正にその話題に夏凛は触れているのだ。
「……亡くなって、おられたんですか……」
「うん……あなたにとっても少しツライ話題で、ごめんね。交通事故だったの」
びくりと一瞬、すみれの肩が揺れた。
交通事故、というフレーズは未だにすみれの心を震えあがらせる。
理不尽に、何の心準備もなく、大切な命をある日ふっつりとこの世から奪い去る、交通事故という名の悪魔。
ここにも、そんな悪魔に身近な人間を奪われた者たちが居たのだ。
「ちょっと……悲惨な事故でね。その後、すぐに奥方様も、後を追うように自殺したのよ」
「……そんな……」
「圓成家はご長男が継がれたんだけど、理愛様付きの使用人は随分解雇されちゃってね。私も当然解雇だったし、鞘人に至っては自分から退職したわ」
「自分から、ですか……」
「……ま、ショックだったんでしょうよ。執事だって人間だから。理愛様のことも幼いころからずっと見守ってきたわけで……私、当時の鞘人は、後追い自殺するんじゃないかって、ずっと思ってた」
「──」
あぁ、とすみれは重い息を吐いた。
最初に鞘人はすみれと顔を合わせた時言った。主を愛せるか、と。
(きっと、鞘人さんは、湖示様のことも理愛様のことも……)
深く愛し、忠節を尽くしていたのだろう。
鞘人にとって、二人を同時に失うという悪夢は、生きる意味すら失う出来事だったのかもしれない。
「司様はあの後、必死に圓成家をバックアップしたけど……なんせ後継ぎの御長男がいわゆるボンクラでね。どうしようもなかった。今じゃ、圓成家は見る影もないわ」
「……それで、鞘人さんと二人で、青龍家に?」
「ん……そう、ね」
尋ねたすみれに、夏凛は少しだけ言い淀み、俯いた。
「いろいろ……本当に、いろいろ、あったんだけど」
「……はい」
「最終的には、司様が、鞘人を呼んだの。その時に鞘人が、私と一緒に抱き合わせで雇うことを条件にしてくれたから、私も雇われたってわけ」
「……鞘人さん、夏凛さんを頼りにしてたんですね」
何気なく言ったすみれの言葉に、一瞬夏凛は目を見開き、珍しく照れたように笑った。
「……ま、メイドの中にも繋がりのある人間が一人いたほうが、新しい環境でも執事としてやっていきやすいからね」
などと尤もらしいことを言いながらも、夏凛の表情から先刻までの暗さが一瞬消えた。
おや? とすみれは思う。乙女の勘が微妙に働いた。
鞘人と夏凛の二人は、しょっちゅうぶつかりあったりしている割にはスムーズな意思疎通ができていると、普段から思ってはいたのだが──やはり芯のところで解り合っているのだろう。
「つ・ま・り、頼りにしてるってことですね」
夏凛の顔を覗き込み、暗い雰囲気を払うようにすみれが笑って見せると、夏凛がちらと眉を上げた。
「ま、当然よね。並のメイドの三倍は役にたつもの、私」
と腕組みして自分で言って見せても、夏凛なら許せてしまう。実際そうなのだから。
佐古が定年を迎えれば、夏凛が次のメイド長だろうと噂されていることは、ここに来てまだ日の浅いすみれでも知っていた。
「明日は、旦那様もいないわ。貴女は羽を伸ばしてよ」
窓枠から身を起こし、夏凛がひらりと手を振る。
「あ、はい……お疲れさまでした」
「貴女もね。ミルクの件はファインプレーよ! 胸の空く想いがしたわ! じゃね」
夏凛はそのまま、メイドたちの宿舎である別館へと帰るべく、本館裏口を出ていった。
あ、と小さくすみれは声を上げた。外は、雨だ。
「──夏凛さん、傘は!?」
暗い雨の降りしきる戸外へと、既に夏凛は躊躇いもせず歩き出していた。従業員用の傘はきちんと用意されているのにも関わらず、その傘には手を出さずに、だ。
夏凛が振り向かぬまま、雨に打たれるに任せたその白い手を、ひらひらさせた。
大丈夫よ、おかまいなくとでも言いたげに。
茫然とそれを見送り、やがてすみれは少し重たくなった心を持て余し、息をついた。
夏凛と鞘人が、二人してかつて仕えていた主は、既に亡くなっていたのだ。しかも娘まで一緒に。
(……多分、あれ以上は話したくないんだろうな……)
夏凛が自分から詳細を話すならともかく、そうでないのなら、この件に関してはこれ以上、詮索すべきではないのだろう。
そっとしておこう、とすみれは心に決めた。
それは思いやりからでもあったが──そもそも過去の、夏凛と鞘人の話だ。
自分には関わりのない事だ、という意識もあった。
そう、まさか、二人の過去が己にも関わってくるなどと、その時のすみれは思いもしなかったのだ。
風が、少し強くなっていた。吹き込む雨を防ぐべく、そっと裏口を閉め、本館の東の端へとすみれは歩き始めた。
部屋に戻るには、東館と接する一番端の螺旋階段を三階まで登らなければいけない。
エレベーターも無論設置されているのだが、いつも使わない。少しでも運動量を増やして身体の線を保ちたいという乙女心からだ。
そんな運動欲求をあますことなく満たしてくれるこの邸は広すぎて、簡単には自室へ辿りつけない。
足音を消すほどに柔らかな絨毯をひたすら踏みしめ、螺旋階段の登り口まで辿りついたその時──ふと、すみれは人の声に気付いて歩みを止めた。
曲がり角の向こうは東館だ。
司の居住エリアであり、プライベートな空間という扱いだから、用のある者以外は立ち入り禁止である。
淡い間接照明が照らすその東館の、曲がり角から──
『…………になりな……すみれは、『彼女』じゃない』
突き放すようなその声が、響いてきた。
司の声だと気付いてそれでも立ち去るには、すみれはすでに司を意識し過ぎていたといっていい。そうでなくとも自分のことが話題にされていたのだ。気にならぬはずが無かった。
螺旋階段の手すりに縋りついたまま、すみれは息を殺して立ちつくしてしまったのだった。
(しまった……何してるの……私……!)
まるきり、これでは盗み聞きである。
*
すみれは、『彼女』じゃない。
当たり前の事実だ。解っているのに。
「もう……2年になるね。明日だ」
司が囁く。無言で鞘人は頷いた。
二人は、東館一階の廊下に立ちつくしたまま、その雨音を聞いた。
降り始めた雨はまたたく間に強さを増してゆく。
低く、遠く、空が鳴った。
そう、明日がその日だ。
まるで二年前を再現するつもりかのような皮肉な雨音に、鞘人の心は掻き乱され、軋んだ。
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