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第十一章 シロツメクサは語らない
02 メイドが犠牲にしたものは
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「『この丘には、幸運の妖精が棲んでいるのよ』、と」
「……っ」
その瞬間、すみれはびくりと身を震わせ、司を見上げた。
目があった司が、くすっと微笑む。
「子供心に、可愛いことを言う母だと思いながらもね、俺もどこかでそれを否定できずにいたんだよ。時々ね、光るものを見かける時があったんだ」
「……司さん、も……?」
うん、と司は頷き、丘を見渡した。
「ここには幸運の妖精が棲んでいるから、絶対にここだけは潰しちゃだめだと、母が必死に言うから、俺も母に加勢した。父は笑ったよ。当時すでに病気がちだった母が、投薬のせいで頭までおかしくなっているのかもしれないとまで言った。でも、なんとかこの丘は守り抜いた」
「……そう、だったんですね……」
すみれはゆっくりと立ち上がり、眼前に広がるクローバーの丘を見つめた。
司の母によってこの丘は守られた。
その恩返しとして、青龍家を守り続けてきた──クローバーの精霊だか妖精だかは確かにそう言ったはずだ。
(本当、だったんだ……)
司が丘の頂きへと足を踏み出す。そのまま丘の頂きまで登る司に手を引かれ、すみれも続いた。
そこにはやはり、墓石というにはシンプルすぎる台形の大理石が、夏の白っぽい光を受け、丘の頂きで静かに光っていた。
「母は、死んだらここで眠りたいと……そう何度も言っていたんだよ。だから骨の欠片だけでもせめてと思ってね。こっそり欠片だけここにね、埋めた」
「……」
言葉もなくすみれは静かに頷き、そっと手を合わせた。
司ははっきりとは言わないけれど、父親との間は必ずしも良好な関係とはいえなかったのかもしれない。だが、少なくとも母親と司の間には確かな絆があったのだろう。
司が、母を大切に想う気持ちは、この場所を見ればわかる。
「……祈ってくれるの? ありがとう」
目を細め、司が微笑む。
ふと日が陰った。見ればいつの間にか、雲が多くなってきている。日差しが遮られ、じりじりと肌を焼く暑さがふわりと失せた。
司が、ゆっくりと日傘を降ろした。丁寧な仕草でそれを畳みながら、さて、と囁く。
──どくり、とすみれの心臓が鳴った。何故かはわからないままに。
「……君は、十七年前の俺を、助けた。それはもう揺るぎない事実だ。五日前の夜、君は携帯をバラ園に置き忘れ、どういう訳かそのままここまで走ってきた。カメラにその途中までの記録はある」
「……は、い」
すっと足元に血が落ちてゆく気がして、すみれは微かに震えた。
そうだ。そういえばこの四日間──いや、倒れた当日も入れれば五日の間、司とそのあたりの話をしたことがなかった。
過去の話──あの工場地帯での思い出話は何度もしたくせに、当日、すみれが過去へ旅立ったその瞬間の話は今の今までまったく話題にしなかった司だ。
今から思えば、そう、不自然なほどに。
「君は、ここにきた。そしておよそ科学的とは言い難い何らかの力によって、過去に飛んで俺を助け、また戻ってきたんだ。間違いないね」
「……はい……」
「ん。じゃぁ、どうして過去に君が飛んだのか、教えてもらえるかな」
不意に司がにこっと笑って尋ねた。すみれの怯えを察したように。
「俺はどんな非科学的なことを言われても、今なら受け入れられる自信があるよ。教えてほしい。十七年、どんなに考えても解らなかったんだ」
「……」
すみれは少し考える。あの晩、精霊との間で交わされた契約が頭を掠めた。
あの誓い──司に己の恋を告白しない、悟られてはならないという二点さえ気をつければ、何故すみれが過去に飛んだのか、そのカラクリを語ること自体は禁忌ではないはずだ。
そのはずなのに、何故だろう、先刻から胸がざわめく。
すみれは慎重に唇を開いた。
「……その。ほんと、非科学的なんですが」
「うん」
「私も、逢ったんです。その……クローバーの精のようなものに」
「──そう。続きを聞こうか」
司は笑わなかった。真顔になって先を促した司を前に、すみれはたどたどしく言葉を紡いだ。
あの夜、不思議な光にここまで導かれたこと。丘の頂きでクローバーの精に出会ったこと。司の母に恩義を感じていたらしいその精霊が、最後の力を振り絞ってすみれを過去に送り込み、司を救おうとしたこと。
「……なるほど。じゃぁ、君は精霊のような『それ』に依頼されて、俺を救うべく過去に飛んだわけだね」
司は笑わずにすみれの話に耳を傾け、そう締めくくってくれる。
なんとか話し終えたか……と頷きながらすみれが安堵したのも、しかしつかの間だった。
「でも、今の話には肝心な部分が欠けているんだよね」
ひっそりと、司が低い声音で斬り込んだ。
「何故、『君』でなければならなかったの」
「……っ」
びくりと肩が揺れそうになるのを、必死にすみれは堪えた。
「そ、れは。さっき話したように……ええと、幸運の総量の、問題で……今の私が、十七年前の司さんのご両親よりもまだ若くて、幸運をまだまだいっぱい持ってたから……青龍家の身内ではない外部の血が必要だったんだって、精霊さんは言ってました、よ?」
しどろもどろになったすみれを見据え、司がつと瞳を眇めた。
「外部の血。幸運の総量、ね……でも理由がそれだけなら、別に未来からわざわざ探す必要などなかったよね。君でなくてもよかったはずだよ」
(……どう、しよ……)
暑さからではない、冷たい汗が、背を濡らす気がした。
司は正しい。
幼き日の司を助けるのに、すみれでなければいけないと精霊が判断した本当の理由は別にある。
だがそれはもう、言えないのだ。
司の言葉が響くたび、まるでやんわりと衣服を一枚ずつ剥ぎ取られてゆくような錯覚に陥って、すみれは唇を噛んだ。
泣き出してしまいたい。
心の準備もなく、不利な法廷に立たされた気分でおろおろと視線を彷徨わせるしかないすみれを、司は真顔のまま、深く覗き込んできた。
すみれと繋いだままの左手に、篭る力。
「君でなければいけなかった理由。他に、あるんじゃないのかな」
「……っ」
じわりじわりと、逃げ場がなくなる感覚。
「……俺は、この十七年ずっと考えていたよ。この娘が、何故過去の俺を救いにきたんだろうと。尋常でない力の作用がそこにはあったはずなんだ。だから、俺は君がこの現在から消えて過去にトリップする場面をどうしても確かめたかった。それによって謎が解けるかもしれない。そう考えて──だから君にあの日、携帯を持たせた」
(──あぁ……)
不意に五日前のことが鮮やかに思い出され、すみれは吐息を震わせた。そうだ。司は携帯をあの日に限ってすみれに持たせ、所在地をその都度確認してきたのだ。
「あの日だけは予定を狂わせる仕事が夕方以降入らないように、必死に調整してきたつもりだよ」
なのにあの日、どうしても抜けられぬ会議に出る羽目になったのだと司は話した。
司が渋滞に巻き込まれているうちに、すみれは司とのメッセージのやり取りの最中で光に導かれて離脱し、旅立ってしまったのだ。
「俺は、残念ながら君が旅立つその瞬間に間に合わなかった。所詮、そういう運命だったのかもしれないね」
「……」
「でもね。幸いにして、帰ってきた直後の君を、見ることはできたんだよ」
「……!」
その瞬間、すみれは全身を走る悪寒にぞくりと震えた。夏だというのにもう辺りの暑さを感じ取ることができない。
気を失う直前に、身体を支えた腕と、自分を呼ぶ声が確かにあったことを、不意にすみれははっきりと思い出した。
それが司であることは夏凛にも聞いたし、知っていたけれど。
──けれど、まさか。そんな。
嫌な予感に血の気が引いた。
「君の消息を追って俺は防犯カメラを洗った。この近くで消息が途絶えたと知って、迷わずここに来たよ。青龍家の敷地内で、もしも科学的に立証不可能な何らかの力場があるとすれば、それはここ以外には考えられなかったからだ。そしたら、丘全体が光ってた」
「……っ」
「光の中に君は座りこんでいた。そして……俺は聞いたよ」
反射的にすみれは耳を塞ぎたくなった。
(あぁ、そうだったんだ……!)
これは雑談のふりをした、詰問だった。そして今この丘は、取調室そのものなのだ──と、今更気付いても遅い。
聞かなかったことにしてしまいたい。逃げ出したい。
なのにいつの間にか傘を足元に放りだした司に、両手をきつく握り締められていて。
「──それではたった今より、青龍司の幸運の残量は、晴野すみれの立てた誓いにより守護されます。この誓いが、貴女自身の手により破られぬ限り、司の未来は守られるでしょう……確かに、声が、聞こえたんだ」
一言一句違わず、司があの日の精霊の言葉を唱えるのを、動けぬまますみれは絶望と共に聞いたのだった。
(あぁ……やっぱり……)
膝から、力が抜けていく。丘を囲む森から聞こえる蝉時雨も、この絶望を紛らわせてはくれなかった。
聞かれていたのだ。
一番、聞いてほしくなかったこの人に。
* * *
「……この丘には精霊という言葉でしか表現できないような力が宿っていて、その力は君を過去に飛ばし、俺の人生に介入させ、また元の世界に君を戻すという奇跡を起こした。そういうことだね」
司はすみれの両手首を両手で掴みながら、低く問うた。
すみれは明らかに顔色を失っていた。曇り空の下、まるで今が冬であるかのような青ざめっぷりだ。
震える唇をやさしく慰めてやりたい衝動に駆られながらも、司はひどく冷静にメスをふるう医者にも似た心地で告げる。
いや──暴く。
「だがそれほどの力が、何の犠牲もなくふるわれたわけではなかった。君の話によれば、精霊は力尽きて消えうせた。そうだね?」
「……そう、です」
青ざめた唇が、微かに答える。
「そして『代償』はそれだけではなかったわけだ」
「……っ」
今度は、すみれは応えない。平静を取り繕うこともできなくなった可哀想な表情でその先の話を聞くのを怖がって──怯えている。
残念ながら普段温厚な司といえど、今はその怯えを汲み取って譲ってやる気はなかった。
すみれがこの世界に帰還した瞬間、確かに司は精霊らしき者の声を聞いた。しかし、会話の全てを聞けたわけではない。
「ねえ、すみれ。君の誓いって……何?」
「……」
「君はどうやら何らかの『誓い』を立てた。それを君が守り続けている限り、俺の未来は守られるらしいね。でもその誓いをもし君が破れば? どうなるのかな?」
「……し……知りません」
「俺の未来を保障するほどの力を持った誓い、か」
司は苦い笑みを浮かべた。
「それを君は黙っているつもりだったの? 冗談じゃないよ、必ず話してもらう」
「……っ!」
その瞬間、すみれが鋭い力をこめて司の腕を振りほどこうともがいた。とっさに司はすみれの腕を引いた。つんのめるように胸にぶつかってきたすみれの肩を強く抱きしめれば、甘いすみれの肌がふわり香る。
胸が、掻き毟られる気がした。
「逃がさない……!」
低く凄めば、腕の中で細い身体がびくりと震えた。司の中に名状し難い獰猛な感情の嵐が生まれる。
──もう、離してはやれない。
「君がそんなにも俺に隠したがる『誓い』って、何」
「誓いなんて……知りません……っ」
可哀想なほどに震えた声で、すみれがこの期に及んで足掻く。司は小さく苦笑した。
「知らないってシラを切り通すなら、もっと最初から平然としていないとだめだよね、すみれ」
「……っ、ぁ……」
なおも腕の中ですみれが暴れる。だが司がすみれを男の力で容赦なく抱き竦めると、諦めたように彼女は引き攣れた呼吸を漏らし、ぐったりと身体の力を抜いた。
「……ねえ、すみれ。この四日間、精霊とやらの言葉の意味を、俺はずっと考えていた。死すべき人間の運命をねじまげてしまうほどの効力を持った誓いとは、何なのか。すみれ──俺はこの答えを聞かないわけにはいかないよ」
わかるだろ、と司は低く凄んだ。
だって、そうだろう。
こればかりはすみれがどれほど抗おうとも、痛みに泣き叫ぼうとも、何としてでも明らかにしなければいけない事実だ。
もしも、すみれが司の未来の保全のために賭けたものが、彼女自身の命だったりしたらどうだ?
命とまではいかぬまでも、彼女の人生における利益の何がしかを犠牲にして司が生き延びているのだとしたら?
(そんなこと、絶対に許容できない……!)
それは司にとって苦痛以外の何物でもなかった。すみれの犠牲の上にこれからの己の人生があると?
本当に、冗談じゃない。
すみれの健康や命が、その誓い──いやもう、契約だ、それは──によって理不尽に損なわれることがあるのかもしれないと思うと、熱が下がっても心配でならなかった。
この四日間、念には念をいれ、すみれをわざと大げさすぎる包帯で靴すら穿けぬようにして部屋へやんわりと閉じ込めたのもそのせいだ。
幼いあの日にすみれに恩返しできなかった分、今、彼女の世話を思い切り焼いてやりたいという実に他愛ない思いと同じだけ、司は今、すみれを失う恐怖に耐えていた。
(この娘は、幼い俺の為に、一体何を犠牲にした──?)
あの雨の工事現場に降り立った、メイド服を纏った『奇跡』の仕組みとは、一体、なんだったのか。
何故、すみれにわざわざ白羽の矢が立った?
あの大きな奇跡を成し遂げるために、何が、犠牲になった?
答えは全て、腕の中の少女が握っている。
尋常ではないその怯えが、司に嫌でも知らしめた。
すみれはやはり、己の何がしかを犠牲にしたのだ。そして司にそれを知られることを、どうやら心から恐れている。
おそらくその犠牲は、『すでに払い終えたもの』ではないのだろう。
それは司の中で確信に変わりつつあった。
「君は、一体、自分の『何』を賭けたの。何を、代償にしているの! 今まさに現在進行形で、君は自分の何かを犠牲にしつづけているんだね。それは何」
「知りません! 何も犠牲になんかしてません!」
悲痛な声で、すみれが叫ぶ。
「そう。……そんなにも知られたくないんだね。何故かな?」
──容赦なく問い糺しながらも、司は眩暈を覚えてきつく目を閉じた。
あまりのことに、身体から力が抜けてゆく。
この状態のすみれから、まともな答えが言葉で返ってくるなど、端から思ってはいない司だった。
最初は己が知っている事実を伏せてすみれに話させ、徐々に伏せていたカードを開き詰問していきながら、司は不器用で隠し事が下手なすみれの顔色を、態度を見たのだ。
それだけでもう十分──わかる。
わかって、しまう。
「さしずめ……」
司はそっと諦観の笑みを浮かべた。
「君がその犠牲を払うことをやめれば、俺の命が危なくなる、ってところかな……?」
「……っ!」
今度こそ、すみれが力を振り絞り、司を突き飛ばした。
力の抜けていた司の腕は今度は容易に剥がれた。すみれがくるりと背を向け、まさに脱兎のごとく駆けだしてゆくのを見送り、やがて司はゆっくりと天を仰いだ。
「……逃げちゃうなんて、ひどいなぁ、すみれ……」
思わず、嘆きが漏れた。
「君に聞かなきゃいけないこと、他にもあったのにね……」
話し始めたあたりから多くなってきていた雲は、今やはっきりと曇天を形成している。厚みのある重たい雲の暗さに目を眇め、司は短く自嘲の笑みを漏らした。
──おそらく、じきに、雨が降る。
「……っ」
その瞬間、すみれはびくりと身を震わせ、司を見上げた。
目があった司が、くすっと微笑む。
「子供心に、可愛いことを言う母だと思いながらもね、俺もどこかでそれを否定できずにいたんだよ。時々ね、光るものを見かける時があったんだ」
「……司さん、も……?」
うん、と司は頷き、丘を見渡した。
「ここには幸運の妖精が棲んでいるから、絶対にここだけは潰しちゃだめだと、母が必死に言うから、俺も母に加勢した。父は笑ったよ。当時すでに病気がちだった母が、投薬のせいで頭までおかしくなっているのかもしれないとまで言った。でも、なんとかこの丘は守り抜いた」
「……そう、だったんですね……」
すみれはゆっくりと立ち上がり、眼前に広がるクローバーの丘を見つめた。
司の母によってこの丘は守られた。
その恩返しとして、青龍家を守り続けてきた──クローバーの精霊だか妖精だかは確かにそう言ったはずだ。
(本当、だったんだ……)
司が丘の頂きへと足を踏み出す。そのまま丘の頂きまで登る司に手を引かれ、すみれも続いた。
そこにはやはり、墓石というにはシンプルすぎる台形の大理石が、夏の白っぽい光を受け、丘の頂きで静かに光っていた。
「母は、死んだらここで眠りたいと……そう何度も言っていたんだよ。だから骨の欠片だけでもせめてと思ってね。こっそり欠片だけここにね、埋めた」
「……」
言葉もなくすみれは静かに頷き、そっと手を合わせた。
司ははっきりとは言わないけれど、父親との間は必ずしも良好な関係とはいえなかったのかもしれない。だが、少なくとも母親と司の間には確かな絆があったのだろう。
司が、母を大切に想う気持ちは、この場所を見ればわかる。
「……祈ってくれるの? ありがとう」
目を細め、司が微笑む。
ふと日が陰った。見ればいつの間にか、雲が多くなってきている。日差しが遮られ、じりじりと肌を焼く暑さがふわりと失せた。
司が、ゆっくりと日傘を降ろした。丁寧な仕草でそれを畳みながら、さて、と囁く。
──どくり、とすみれの心臓が鳴った。何故かはわからないままに。
「……君は、十七年前の俺を、助けた。それはもう揺るぎない事実だ。五日前の夜、君は携帯をバラ園に置き忘れ、どういう訳かそのままここまで走ってきた。カメラにその途中までの記録はある」
「……は、い」
すっと足元に血が落ちてゆく気がして、すみれは微かに震えた。
そうだ。そういえばこの四日間──いや、倒れた当日も入れれば五日の間、司とそのあたりの話をしたことがなかった。
過去の話──あの工場地帯での思い出話は何度もしたくせに、当日、すみれが過去へ旅立ったその瞬間の話は今の今までまったく話題にしなかった司だ。
今から思えば、そう、不自然なほどに。
「君は、ここにきた。そしておよそ科学的とは言い難い何らかの力によって、過去に飛んで俺を助け、また戻ってきたんだ。間違いないね」
「……はい……」
「ん。じゃぁ、どうして過去に君が飛んだのか、教えてもらえるかな」
不意に司がにこっと笑って尋ねた。すみれの怯えを察したように。
「俺はどんな非科学的なことを言われても、今なら受け入れられる自信があるよ。教えてほしい。十七年、どんなに考えても解らなかったんだ」
「……」
すみれは少し考える。あの晩、精霊との間で交わされた契約が頭を掠めた。
あの誓い──司に己の恋を告白しない、悟られてはならないという二点さえ気をつければ、何故すみれが過去に飛んだのか、そのカラクリを語ること自体は禁忌ではないはずだ。
そのはずなのに、何故だろう、先刻から胸がざわめく。
すみれは慎重に唇を開いた。
「……その。ほんと、非科学的なんですが」
「うん」
「私も、逢ったんです。その……クローバーの精のようなものに」
「──そう。続きを聞こうか」
司は笑わなかった。真顔になって先を促した司を前に、すみれはたどたどしく言葉を紡いだ。
あの夜、不思議な光にここまで導かれたこと。丘の頂きでクローバーの精に出会ったこと。司の母に恩義を感じていたらしいその精霊が、最後の力を振り絞ってすみれを過去に送り込み、司を救おうとしたこと。
「……なるほど。じゃぁ、君は精霊のような『それ』に依頼されて、俺を救うべく過去に飛んだわけだね」
司は笑わずにすみれの話に耳を傾け、そう締めくくってくれる。
なんとか話し終えたか……と頷きながらすみれが安堵したのも、しかしつかの間だった。
「でも、今の話には肝心な部分が欠けているんだよね」
ひっそりと、司が低い声音で斬り込んだ。
「何故、『君』でなければならなかったの」
「……っ」
びくりと肩が揺れそうになるのを、必死にすみれは堪えた。
「そ、れは。さっき話したように……ええと、幸運の総量の、問題で……今の私が、十七年前の司さんのご両親よりもまだ若くて、幸運をまだまだいっぱい持ってたから……青龍家の身内ではない外部の血が必要だったんだって、精霊さんは言ってました、よ?」
しどろもどろになったすみれを見据え、司がつと瞳を眇めた。
「外部の血。幸運の総量、ね……でも理由がそれだけなら、別に未来からわざわざ探す必要などなかったよね。君でなくてもよかったはずだよ」
(……どう、しよ……)
暑さからではない、冷たい汗が、背を濡らす気がした。
司は正しい。
幼き日の司を助けるのに、すみれでなければいけないと精霊が判断した本当の理由は別にある。
だがそれはもう、言えないのだ。
司の言葉が響くたび、まるでやんわりと衣服を一枚ずつ剥ぎ取られてゆくような錯覚に陥って、すみれは唇を噛んだ。
泣き出してしまいたい。
心の準備もなく、不利な法廷に立たされた気分でおろおろと視線を彷徨わせるしかないすみれを、司は真顔のまま、深く覗き込んできた。
すみれと繋いだままの左手に、篭る力。
「君でなければいけなかった理由。他に、あるんじゃないのかな」
「……っ」
じわりじわりと、逃げ場がなくなる感覚。
「……俺は、この十七年ずっと考えていたよ。この娘が、何故過去の俺を救いにきたんだろうと。尋常でない力の作用がそこにはあったはずなんだ。だから、俺は君がこの現在から消えて過去にトリップする場面をどうしても確かめたかった。それによって謎が解けるかもしれない。そう考えて──だから君にあの日、携帯を持たせた」
(──あぁ……)
不意に五日前のことが鮮やかに思い出され、すみれは吐息を震わせた。そうだ。司は携帯をあの日に限ってすみれに持たせ、所在地をその都度確認してきたのだ。
「あの日だけは予定を狂わせる仕事が夕方以降入らないように、必死に調整してきたつもりだよ」
なのにあの日、どうしても抜けられぬ会議に出る羽目になったのだと司は話した。
司が渋滞に巻き込まれているうちに、すみれは司とのメッセージのやり取りの最中で光に導かれて離脱し、旅立ってしまったのだ。
「俺は、残念ながら君が旅立つその瞬間に間に合わなかった。所詮、そういう運命だったのかもしれないね」
「……」
「でもね。幸いにして、帰ってきた直後の君を、見ることはできたんだよ」
「……!」
その瞬間、すみれは全身を走る悪寒にぞくりと震えた。夏だというのにもう辺りの暑さを感じ取ることができない。
気を失う直前に、身体を支えた腕と、自分を呼ぶ声が確かにあったことを、不意にすみれははっきりと思い出した。
それが司であることは夏凛にも聞いたし、知っていたけれど。
──けれど、まさか。そんな。
嫌な予感に血の気が引いた。
「君の消息を追って俺は防犯カメラを洗った。この近くで消息が途絶えたと知って、迷わずここに来たよ。青龍家の敷地内で、もしも科学的に立証不可能な何らかの力場があるとすれば、それはここ以外には考えられなかったからだ。そしたら、丘全体が光ってた」
「……っ」
「光の中に君は座りこんでいた。そして……俺は聞いたよ」
反射的にすみれは耳を塞ぎたくなった。
(あぁ、そうだったんだ……!)
これは雑談のふりをした、詰問だった。そして今この丘は、取調室そのものなのだ──と、今更気付いても遅い。
聞かなかったことにしてしまいたい。逃げ出したい。
なのにいつの間にか傘を足元に放りだした司に、両手をきつく握り締められていて。
「──それではたった今より、青龍司の幸運の残量は、晴野すみれの立てた誓いにより守護されます。この誓いが、貴女自身の手により破られぬ限り、司の未来は守られるでしょう……確かに、声が、聞こえたんだ」
一言一句違わず、司があの日の精霊の言葉を唱えるのを、動けぬまますみれは絶望と共に聞いたのだった。
(あぁ……やっぱり……)
膝から、力が抜けていく。丘を囲む森から聞こえる蝉時雨も、この絶望を紛らわせてはくれなかった。
聞かれていたのだ。
一番、聞いてほしくなかったこの人に。
* * *
「……この丘には精霊という言葉でしか表現できないような力が宿っていて、その力は君を過去に飛ばし、俺の人生に介入させ、また元の世界に君を戻すという奇跡を起こした。そういうことだね」
司はすみれの両手首を両手で掴みながら、低く問うた。
すみれは明らかに顔色を失っていた。曇り空の下、まるで今が冬であるかのような青ざめっぷりだ。
震える唇をやさしく慰めてやりたい衝動に駆られながらも、司はひどく冷静にメスをふるう医者にも似た心地で告げる。
いや──暴く。
「だがそれほどの力が、何の犠牲もなくふるわれたわけではなかった。君の話によれば、精霊は力尽きて消えうせた。そうだね?」
「……そう、です」
青ざめた唇が、微かに答える。
「そして『代償』はそれだけではなかったわけだ」
「……っ」
今度は、すみれは応えない。平静を取り繕うこともできなくなった可哀想な表情でその先の話を聞くのを怖がって──怯えている。
残念ながら普段温厚な司といえど、今はその怯えを汲み取って譲ってやる気はなかった。
すみれがこの世界に帰還した瞬間、確かに司は精霊らしき者の声を聞いた。しかし、会話の全てを聞けたわけではない。
「ねえ、すみれ。君の誓いって……何?」
「……」
「君はどうやら何らかの『誓い』を立てた。それを君が守り続けている限り、俺の未来は守られるらしいね。でもその誓いをもし君が破れば? どうなるのかな?」
「……し……知りません」
「俺の未来を保障するほどの力を持った誓い、か」
司は苦い笑みを浮かべた。
「それを君は黙っているつもりだったの? 冗談じゃないよ、必ず話してもらう」
「……っ!」
その瞬間、すみれが鋭い力をこめて司の腕を振りほどこうともがいた。とっさに司はすみれの腕を引いた。つんのめるように胸にぶつかってきたすみれの肩を強く抱きしめれば、甘いすみれの肌がふわり香る。
胸が、掻き毟られる気がした。
「逃がさない……!」
低く凄めば、腕の中で細い身体がびくりと震えた。司の中に名状し難い獰猛な感情の嵐が生まれる。
──もう、離してはやれない。
「君がそんなにも俺に隠したがる『誓い』って、何」
「誓いなんて……知りません……っ」
可哀想なほどに震えた声で、すみれがこの期に及んで足掻く。司は小さく苦笑した。
「知らないってシラを切り通すなら、もっと最初から平然としていないとだめだよね、すみれ」
「……っ、ぁ……」
なおも腕の中ですみれが暴れる。だが司がすみれを男の力で容赦なく抱き竦めると、諦めたように彼女は引き攣れた呼吸を漏らし、ぐったりと身体の力を抜いた。
「……ねえ、すみれ。この四日間、精霊とやらの言葉の意味を、俺はずっと考えていた。死すべき人間の運命をねじまげてしまうほどの効力を持った誓いとは、何なのか。すみれ──俺はこの答えを聞かないわけにはいかないよ」
わかるだろ、と司は低く凄んだ。
だって、そうだろう。
こればかりはすみれがどれほど抗おうとも、痛みに泣き叫ぼうとも、何としてでも明らかにしなければいけない事実だ。
もしも、すみれが司の未来の保全のために賭けたものが、彼女自身の命だったりしたらどうだ?
命とまではいかぬまでも、彼女の人生における利益の何がしかを犠牲にして司が生き延びているのだとしたら?
(そんなこと、絶対に許容できない……!)
それは司にとって苦痛以外の何物でもなかった。すみれの犠牲の上にこれからの己の人生があると?
本当に、冗談じゃない。
すみれの健康や命が、その誓い──いやもう、契約だ、それは──によって理不尽に損なわれることがあるのかもしれないと思うと、熱が下がっても心配でならなかった。
この四日間、念には念をいれ、すみれをわざと大げさすぎる包帯で靴すら穿けぬようにして部屋へやんわりと閉じ込めたのもそのせいだ。
幼いあの日にすみれに恩返しできなかった分、今、彼女の世話を思い切り焼いてやりたいという実に他愛ない思いと同じだけ、司は今、すみれを失う恐怖に耐えていた。
(この娘は、幼い俺の為に、一体何を犠牲にした──?)
あの雨の工事現場に降り立った、メイド服を纏った『奇跡』の仕組みとは、一体、なんだったのか。
何故、すみれにわざわざ白羽の矢が立った?
あの大きな奇跡を成し遂げるために、何が、犠牲になった?
答えは全て、腕の中の少女が握っている。
尋常ではないその怯えが、司に嫌でも知らしめた。
すみれはやはり、己の何がしかを犠牲にしたのだ。そして司にそれを知られることを、どうやら心から恐れている。
おそらくその犠牲は、『すでに払い終えたもの』ではないのだろう。
それは司の中で確信に変わりつつあった。
「君は、一体、自分の『何』を賭けたの。何を、代償にしているの! 今まさに現在進行形で、君は自分の何かを犠牲にしつづけているんだね。それは何」
「知りません! 何も犠牲になんかしてません!」
悲痛な声で、すみれが叫ぶ。
「そう。……そんなにも知られたくないんだね。何故かな?」
──容赦なく問い糺しながらも、司は眩暈を覚えてきつく目を閉じた。
あまりのことに、身体から力が抜けてゆく。
この状態のすみれから、まともな答えが言葉で返ってくるなど、端から思ってはいない司だった。
最初は己が知っている事実を伏せてすみれに話させ、徐々に伏せていたカードを開き詰問していきながら、司は不器用で隠し事が下手なすみれの顔色を、態度を見たのだ。
それだけでもう十分──わかる。
わかって、しまう。
「さしずめ……」
司はそっと諦観の笑みを浮かべた。
「君がその犠牲を払うことをやめれば、俺の命が危なくなる、ってところかな……?」
「……っ!」
今度こそ、すみれが力を振り絞り、司を突き飛ばした。
力の抜けていた司の腕は今度は容易に剥がれた。すみれがくるりと背を向け、まさに脱兎のごとく駆けだしてゆくのを見送り、やがて司はゆっくりと天を仰いだ。
「……逃げちゃうなんて、ひどいなぁ、すみれ……」
思わず、嘆きが漏れた。
「君に聞かなきゃいけないこと、他にもあったのにね……」
話し始めたあたりから多くなってきていた雲は、今やはっきりと曇天を形成している。厚みのある重たい雲の暗さに目を眇め、司は短く自嘲の笑みを漏らした。
──おそらく、じきに、雨が降る。
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