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新たな人生スタートか?
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3章
小鳥のさえずりで、シュリエルは目を覚ました。久しぶりに生家で迎える朝。
戦い疲れたシュリエルは丸々2日間、寝ていた。戦争中、熟睡できた日は1日もなかった。
そばには剣もない。鎧も馬もない。
2階のバルコニーからは季節の花が咲き乱れていた。平和そのものだった。休戦は無期限とされたが、実質的には終戦になったわけだ。
膨らんだ赤字を少しでも減らすため、騎士団は解散となった。シュリエルは籍を軍に残すことになったが、それも名ばかりで、軍隊は各地方に数百人規模で駐屯する治安維持部隊と、海賊対策として海軍が僅かに活動するのみとなった。
要は、シュリエルは無職同然になったわけだ。
とりあえず伸びをする。
豊満な胸に、服が張って脇が締め付けられた。
「今日から、無職かー、、、」
戦姫として恐れられ、畏敬の念を込めた目で見られることはもうない。
まだ軍に籍があるとは言え、実質的には今日から一般人だ。月々の給与など赤字でにっちもさっちもいかない国からは期待できなかった。
幸い、生家は裕福だったが、いい年をして甘えてはいられない。
考えることが多く、シュリエルはため息をついた。戦場では明日の飯など気にしたことは無く、ため息をつく暇もなかった。一気に気が緩むのをまざまざと感じた。
「シュリちゃん、起きた?」
母の声だ。シュリエルが帰国したとき、張り裂けんばかりの声をあげてシュリエルを抱き締めた母だったが、いまはいつも通りの柔和な声だった。
「、、、ちゃんはやめてよ」
戦姫がちゃん付けされて呼ばれているなど、周りの兵士が知れば、腰を抜かすほど驚くだろうなと思いつつ、階段を降りた。
朝食をとりつつ、帝国の発行する機関紙をパラパラとめくる。
毎号毎号、シュリエルの活躍が書かれていた。
「帝国の誇るシュリエル団長、敵国兵士100人を血祭りに」
「わが麗しき戦姫シュリエル、敵将ザリエスの首をとる」
、、、、。あることないこと、中には正しい記事もなくはないが、大概が誇張して書かれてある。
「一晩で100人も殺せないでしょ、、」
シュリエルは呆れながら機関紙をパラパラめくった。
「じゃあ何人殺ったんだ?」
後ろから声がした。父だった。
「ちょっとあなた!そんな物騒な話はよして!」
母は手を止めて、父をにらみつけた。
「50人は殺ったかな」
「ちょっと、シュリちゃん!そんなこと言わないで良いのよ!」
「ふむ、それなら、まあ良い」
「なにが良いのよ、あなた!」
平和な朝だった。
4章
朝食を終えて、シュリエルは一人で町に繰り出した。いちばん様変わりしたのは、町の活気の無さだった。
物価は高騰し、求人は無く、養老院には行列ができていた。
「参ったなあ、、」
シュリエルは改めて、職探しの難しさを思い知った。地方はもう無理だろう。帝都まで出なくては仕事にありつけそうもなかった。
とりあえず喫茶店に入る。
男達がシュリエルをすかさずチラチラと見始める。シュリエルのいまの格好は、麻の白いシャツに、絹のスカートにブーツ。男の目を引いたのは、そこではなくシュリエルの美貌に他なら無かった。
シュリエルは男の視線をめんどくさそうに受け流しながら、紅茶を頼んだ。
一杯で10シールもする。戦前の2倍だ。
ため息をつきながら、手持ちの財産を勘定してみた。慰問金、戦時見舞金、役職金、功労金、全て合わすとざっと1000レーベル、つまり10万シールほど。
「紅茶なら、あと1万杯飲めるのか、、」
そう考えると、働く気が遠退いた。
しばらく考える。
帝都に行っても、金がかかるばかりだ。
しかも、殺し以外に何のスキルもない。
シュリエルはその時、ある考えを思い付いた。
「あー、養ってくれる人見つけよー」
それまでは、無職でのんびりしていよう。
シュリエルは自分の理想の高さをその時はすっかり忘れていたのだった。
小鳥のさえずりで、シュリエルは目を覚ました。久しぶりに生家で迎える朝。
戦い疲れたシュリエルは丸々2日間、寝ていた。戦争中、熟睡できた日は1日もなかった。
そばには剣もない。鎧も馬もない。
2階のバルコニーからは季節の花が咲き乱れていた。平和そのものだった。休戦は無期限とされたが、実質的には終戦になったわけだ。
膨らんだ赤字を少しでも減らすため、騎士団は解散となった。シュリエルは籍を軍に残すことになったが、それも名ばかりで、軍隊は各地方に数百人規模で駐屯する治安維持部隊と、海賊対策として海軍が僅かに活動するのみとなった。
要は、シュリエルは無職同然になったわけだ。
とりあえず伸びをする。
豊満な胸に、服が張って脇が締め付けられた。
「今日から、無職かー、、、」
戦姫として恐れられ、畏敬の念を込めた目で見られることはもうない。
まだ軍に籍があるとは言え、実質的には今日から一般人だ。月々の給与など赤字でにっちもさっちもいかない国からは期待できなかった。
幸い、生家は裕福だったが、いい年をして甘えてはいられない。
考えることが多く、シュリエルはため息をついた。戦場では明日の飯など気にしたことは無く、ため息をつく暇もなかった。一気に気が緩むのをまざまざと感じた。
「シュリちゃん、起きた?」
母の声だ。シュリエルが帰国したとき、張り裂けんばかりの声をあげてシュリエルを抱き締めた母だったが、いまはいつも通りの柔和な声だった。
「、、、ちゃんはやめてよ」
戦姫がちゃん付けされて呼ばれているなど、周りの兵士が知れば、腰を抜かすほど驚くだろうなと思いつつ、階段を降りた。
朝食をとりつつ、帝国の発行する機関紙をパラパラとめくる。
毎号毎号、シュリエルの活躍が書かれていた。
「帝国の誇るシュリエル団長、敵国兵士100人を血祭りに」
「わが麗しき戦姫シュリエル、敵将ザリエスの首をとる」
、、、、。あることないこと、中には正しい記事もなくはないが、大概が誇張して書かれてある。
「一晩で100人も殺せないでしょ、、」
シュリエルは呆れながら機関紙をパラパラめくった。
「じゃあ何人殺ったんだ?」
後ろから声がした。父だった。
「ちょっとあなた!そんな物騒な話はよして!」
母は手を止めて、父をにらみつけた。
「50人は殺ったかな」
「ちょっと、シュリちゃん!そんなこと言わないで良いのよ!」
「ふむ、それなら、まあ良い」
「なにが良いのよ、あなた!」
平和な朝だった。
4章
朝食を終えて、シュリエルは一人で町に繰り出した。いちばん様変わりしたのは、町の活気の無さだった。
物価は高騰し、求人は無く、養老院には行列ができていた。
「参ったなあ、、」
シュリエルは改めて、職探しの難しさを思い知った。地方はもう無理だろう。帝都まで出なくては仕事にありつけそうもなかった。
とりあえず喫茶店に入る。
男達がシュリエルをすかさずチラチラと見始める。シュリエルのいまの格好は、麻の白いシャツに、絹のスカートにブーツ。男の目を引いたのは、そこではなくシュリエルの美貌に他なら無かった。
シュリエルは男の視線をめんどくさそうに受け流しながら、紅茶を頼んだ。
一杯で10シールもする。戦前の2倍だ。
ため息をつきながら、手持ちの財産を勘定してみた。慰問金、戦時見舞金、役職金、功労金、全て合わすとざっと1000レーベル、つまり10万シールほど。
「紅茶なら、あと1万杯飲めるのか、、」
そう考えると、働く気が遠退いた。
しばらく考える。
帝都に行っても、金がかかるばかりだ。
しかも、殺し以外に何のスキルもない。
シュリエルはその時、ある考えを思い付いた。
「あー、養ってくれる人見つけよー」
それまでは、無職でのんびりしていよう。
シュリエルは自分の理想の高さをその時はすっかり忘れていたのだった。
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