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お二人には申し訳なく思いますが、わたくしはエドガーの姉であり家族思いのラケルなのです。ごめんなさいね。
それに、ラケル様のお名前がいけないのです。わたくしは幼馴染で婚約者だったアンセルムとのことを思い出してしまいました。小さい頃から傍にいて、一緒に育ったアンセルム。仲も良く、様々な思い出を共有してきました。婚約を結んだ後は、アンセルムの家の為にと学ぶことを増やし『その時』を待っていたというのに…。
婚約が解消になったことは仕方がなかったのかもしれません。しかし、その後の交流を全て絶たれたのはショックでした。
ところが、旦那様に嫁いでから始めて参加した夜会で漸く昇華させたショックをアンセルムは思い出させるだけでなく更に酷いものにしたのです。わたくしはショックを昇華などさせておりませんでした。ただ、胸の奥深くに鍵を掛け忘れそっと放置していただけだったのです。
アンセルムは婚約解消と同時に返した手のひらを再び元に戻そうとしました。最初からそんなことは無かったかのように。わたくしが侯爵夫人という立場になったから、しかも、その侯爵は王太子殿下の側近を務めているからでしょうね。
立場上、まだ爵位を継いでもいないアンセルムが侯爵夫人であるわたくしに声を掛けることは出来ない筈。けれど、幼馴染を笠に着ることで話しかけたのです。しかも、その横にいたアンセルムの妻になったブリタもわたくしと然も親友だったかのように声を掛けてきました。確かに同じ女学校へは行っていましたが、ブリタとわたくしは親友ではありません。いいえ、わたくしにとってブリタはアンセルムを唆した人物なのです。どこにでもいる親切過ぎる女学校の同級生が、ブリタはわたくし達が婚約解消する前からアンセルムと良く一緒にいたとわざわざ教えて下さっていましたから。
その時、わたくしが取った行動は単純なものです。礼儀知らずな友人、知人などわたくしにはおりません。呼び止められた声に反応しただけという体で一瞥し、直ぐ様正面を向き立ち去りました。
後日二人からは別々に手紙が送られてきました。内容は…短く言ってしまえば昔の様に仲良くしよう、です。わたくしも、昔のように接することは賛成でしたのでその旨返事を送り返しました。ただ、彼らとわたくしの示す昔が違うようでしたが。
ああ、駄目だわ、その後のことを思い出すとお二人の課題が酷いものになりそう。気持ちを切り替えなくては。
「ヴィオラとラケルの課題は予定の日とは関係なく旦那様を床に誘うこと。子供を作るのではなく、気持ちを伝える為の性交をして欲しいの。今日他の方から聞いたことを色々と実践して、旦那様をあなた達の愛で昂めるのよ。出来ること全てを最大限にして臨んでちょうだい。勿論、交わるところまで出来て一つ目の課題は完了。その後、あなた達はいくら旦那様に誘われようと体調不良を理由に交わりを断って。」
「「断るのですか?」」
「ええ、断るの。あなた達の努力はそこまで。旦那様には上から下へ一気に落ちてもらいましょう。」
「でも、そんなことをしたら旦那様から怒られたり、嫌われないでしょうか。」
「体調不良ですもの、旦那様の優しさを見せてもらいましょう。仮に嫌われたら、わたくしが次の嫁ぎ先を探すお手伝いをするわ。」
お手伝いはいくらでも出来るもの。相手を見つけるなんて確約は出来なくても。
「どれくらい断り続けなくてはいけませんか。」
「そこよね、重要なのは。最初はきっと娼館で遊ぶかも知れないけれど、あなた達が愛情を込めながらする行為とお金を稼ぐ為に効率よく捌く行為は違うと思うのよ。その違いを理解した時がいいんだけれど、流石にわたくし達にその見極めは出来ないわよね。」
「ラケルお姉様、わたくしからボリスにそれとなくアルフ様の様子を少ししたら聞いてみましょうか。」
ドロテーア様に『それとなく』が出来るのかどうか…一抹の不安を拭いきれませんが、ここは他に手がありません。それとなく聞く方法をしっかり教えて差し上げて…ん、でも、様子って、何をどう判断するのかしら。
「ねえ、でも、ドロテーア、様子ってどういうこと?」
「それは、その、発散出来ていない雰囲気というか、その、溜まっている感じというか…。」
「もしかしたら、男性同士ならそういう話をするかもしれないけれど、アルフ様は班長という立場ですもの、難しいのではないかしら。一先ず、次の会までは断り続けてちょうだい。それで、その時にそれぞれの旦那様の様子をわたくしに報告して。今後に関してはその時に考えましょう。」
会ったことはないけれど、お二人の旦那様には罰をしっかり与えることに致しました。
これでパフォーマンスが落ちれば、エドガーの前を走っているお二方が失速するというものですわ。まあ、そんな簡単にはいかないでしょうけれど。
それに、ラケル様のお名前がいけないのです。わたくしは幼馴染で婚約者だったアンセルムとのことを思い出してしまいました。小さい頃から傍にいて、一緒に育ったアンセルム。仲も良く、様々な思い出を共有してきました。婚約を結んだ後は、アンセルムの家の為にと学ぶことを増やし『その時』を待っていたというのに…。
婚約が解消になったことは仕方がなかったのかもしれません。しかし、その後の交流を全て絶たれたのはショックでした。
ところが、旦那様に嫁いでから始めて参加した夜会で漸く昇華させたショックをアンセルムは思い出させるだけでなく更に酷いものにしたのです。わたくしはショックを昇華などさせておりませんでした。ただ、胸の奥深くに鍵を掛け忘れそっと放置していただけだったのです。
アンセルムは婚約解消と同時に返した手のひらを再び元に戻そうとしました。最初からそんなことは無かったかのように。わたくしが侯爵夫人という立場になったから、しかも、その侯爵は王太子殿下の側近を務めているからでしょうね。
立場上、まだ爵位を継いでもいないアンセルムが侯爵夫人であるわたくしに声を掛けることは出来ない筈。けれど、幼馴染を笠に着ることで話しかけたのです。しかも、その横にいたアンセルムの妻になったブリタもわたくしと然も親友だったかのように声を掛けてきました。確かに同じ女学校へは行っていましたが、ブリタとわたくしは親友ではありません。いいえ、わたくしにとってブリタはアンセルムを唆した人物なのです。どこにでもいる親切過ぎる女学校の同級生が、ブリタはわたくし達が婚約解消する前からアンセルムと良く一緒にいたとわざわざ教えて下さっていましたから。
その時、わたくしが取った行動は単純なものです。礼儀知らずな友人、知人などわたくしにはおりません。呼び止められた声に反応しただけという体で一瞥し、直ぐ様正面を向き立ち去りました。
後日二人からは別々に手紙が送られてきました。内容は…短く言ってしまえば昔の様に仲良くしよう、です。わたくしも、昔のように接することは賛成でしたのでその旨返事を送り返しました。ただ、彼らとわたくしの示す昔が違うようでしたが。
ああ、駄目だわ、その後のことを思い出すとお二人の課題が酷いものになりそう。気持ちを切り替えなくては。
「ヴィオラとラケルの課題は予定の日とは関係なく旦那様を床に誘うこと。子供を作るのではなく、気持ちを伝える為の性交をして欲しいの。今日他の方から聞いたことを色々と実践して、旦那様をあなた達の愛で昂めるのよ。出来ること全てを最大限にして臨んでちょうだい。勿論、交わるところまで出来て一つ目の課題は完了。その後、あなた達はいくら旦那様に誘われようと体調不良を理由に交わりを断って。」
「「断るのですか?」」
「ええ、断るの。あなた達の努力はそこまで。旦那様には上から下へ一気に落ちてもらいましょう。」
「でも、そんなことをしたら旦那様から怒られたり、嫌われないでしょうか。」
「体調不良ですもの、旦那様の優しさを見せてもらいましょう。仮に嫌われたら、わたくしが次の嫁ぎ先を探すお手伝いをするわ。」
お手伝いはいくらでも出来るもの。相手を見つけるなんて確約は出来なくても。
「どれくらい断り続けなくてはいけませんか。」
「そこよね、重要なのは。最初はきっと娼館で遊ぶかも知れないけれど、あなた達が愛情を込めながらする行為とお金を稼ぐ為に効率よく捌く行為は違うと思うのよ。その違いを理解した時がいいんだけれど、流石にわたくし達にその見極めは出来ないわよね。」
「ラケルお姉様、わたくしからボリスにそれとなくアルフ様の様子を少ししたら聞いてみましょうか。」
ドロテーア様に『それとなく』が出来るのかどうか…一抹の不安を拭いきれませんが、ここは他に手がありません。それとなく聞く方法をしっかり教えて差し上げて…ん、でも、様子って、何をどう判断するのかしら。
「ねえ、でも、ドロテーア、様子ってどういうこと?」
「それは、その、発散出来ていない雰囲気というか、その、溜まっている感じというか…。」
「もしかしたら、男性同士ならそういう話をするかもしれないけれど、アルフ様は班長という立場ですもの、難しいのではないかしら。一先ず、次の会までは断り続けてちょうだい。それで、その時にそれぞれの旦那様の様子をわたくしに報告して。今後に関してはその時に考えましょう。」
会ったことはないけれど、お二人の旦那様には罰をしっかり与えることに致しました。
これでパフォーマンスが落ちれば、エドガーの前を走っているお二方が失速するというものですわ。まあ、そんな簡単にはいかないでしょうけれど。
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