幽モブ アダルトルート(完結)

北川晶

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番外 モブに感謝、セドリック・スタインの熱情 ②

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 学生の模擬試合だから、怪我などないよう、木で作られた剣を使用する。
 相対した俺とシヴァーディは、一礼して、剣を合わせた。
 そこで、初めて体験するスピードで打ち込まれ、俺の心はウッキウキだ。

 あぁっ、楽しくなってきたぁ!

 俺の剣技は、力で押していくタイプ。そこに地を揺らす魔法も、組み込むことができるが。
 今は、剣術の授業なので。魔法は使用しない。

 純粋に、剣と剣の対決だったら。俺は学園では、今まで誰にも負けたことがない。
 ただ、このシヴァーディは、ヤバいと思った。
 俺が剣を押すと、ゆるやかに引いて、巻きついて、剣を取られそうになる。柔の剣技だ。
 それだけなら、俺もやられはしない。
 でもシヴァーディは、剛も持っている。と、先ほどの同級対決の模擬戦で、見て取っていた。

「いけ、セドリック。年下に負けんな」
「シヴァーディ、先輩を潰せっ、勝てる勝てる」
 ギャラリーは興奮し。応援の声が運動場でエスカレートしていく。
 俺は…苦笑して、つぶやいた。

「簡単に、言ってくれる」
「全く…でも、その割には、話をする、余裕がありますね? 先輩」
「おまえ相手に、余裕なんか、ねぇっ」

 鍔迫つばぜり合いをしながら、一番近い距離で、俺はシヴァーディと対している。
 楚々とした、たたずまい。彼の印象を、そのように思っていたが。目がギラギラしている。

 負ける気、ないな? 先輩に花を持たせる気とか、ないな?

 その心意気は、すっごい好きだけど?
「でも、負けねぇっ」

 俺は、渾身の一振りで、シヴァーディに打ち込む。彼も同じく、打ち込んできた。
 そうしたら、バキィと音がして。違和感を感じた俺たちは、同時に二歩、後退あとずさった。
 直後、手に持っていた剣が、粉々になって、爆発したみたいに飛散したのだ。
 それは、シヴァーディが持つ剣も、同じだった。

「木剣が、折れた?」
「いや、粉々になってるぞ」
「あんな硬い物を? 化け物かっ」
「化け物がふたりに増えたっ、ヤバいぞ」
 見物の生徒が、特に新入生の生徒たちが、動揺して、ざわざわし出す。

 そこを、俺は大きな声で笑いたてて。シヴァーディに言った。
「ははっ、すげぇな、シヴァーディ。最高だ。今日は引き分けだが。今度は折れない剣で勝負しようぜ?」
「…手合せ、ありがとうございました」

 彼は、顔色を変えることなく、スッと頭を下げて。見物の生徒たちの中に紛れてしまった。
 でもさ。俺は逃がさねぇよ?
 大衆の中に紛れて、目立たないようにしていたって。
 その猛々しいオーラが、俺の目を奪う。

 蝶のような優雅さで舞い、ハチのような鋭さで突き、熊のようなどう猛な気配を隠し持つ。
 そんな、最高に心をかき乱す人物、逃がせるわけねぇよ。

 俺は、今回の手合わせで、見事に、シヴァーディに惚れ込んでしまったのだ。
 これがシヴァーディと俺の、最初の出会い。
 そして、最高の恋の始まりだった。


 出会いは、シヴァーディ、十四歳。俺は十六歳。
 思春期真っただ中だろ?
 恋しちゃったと思ったら、俺は、すぐに行くぜ。
 もじもじしてる時間、もったいないじゃん?

 それでなくても、シヴァーディの美貌は、男も女もじゃんじゃん引き寄せる魅力があるのだ。
 手をこまねいていたら、誰かに、すぐにも取られてしまう。
 男同士の葛藤? それもなかったな。
 シヴァーディは、性別を感じさせない美人だし。彼と抱き合う想像をすれば、ナニは勃つので。
 つまり、そういうことだろう。
 一応、貴族だけど、三男坊には子孫を増やす義務もないし。俺の側は、なんの問題もない。

 あちらは、どうかわからないが。

 そんなことより、まずはシヴァーディに受け入れてもらわなければならないっつーの。
 難しいことは、あとでいいんだ、あとで。

「というわけで、好きだ」
「というわけって、なんだ? というか、好きって…さっき会ったばかりなんだが」
 俺は、剣の手合わせをした日の放課後、学園の裏庭にあるベンチに、シヴァーディを呼び出して。早速告白した。
 シヴァーディは俺のことを、先輩とも思っていないようなタメ口で言ってきた。
 出会ってすぐに告白してくるような、軽薄なやつには、敬語は不要ということか?
 ま、堅苦しいのは嫌だから、構わないけどな。

「話だって、二、三言だった」
「そうだったか? 俺は剣を合わせているとき、おまえと会話している感じだった。この剣は誰にならった? この術を会得するのに、どれくらいかかった? 俺との手合せは楽しいか? ってな」

 夕日のオレンジが、校舎を照らしているから。彼がほんのり頬を染めても、気づかないくらいだけど。
 俺には、わかる。
 たぶんシヴァーディも、そうして俺と会話をしていた。
 だから、同じ感覚だったと知って。照れているんだろう。可愛いなぁ。

「でも、好き…は、飛躍しすぎだ」
「そうか? 俺は、剣を合わせれば、会話なんかしなくても、大概のことはわかると思っている。たとえば。おまえは細身だが、あれだけの力強さを出すには、余程の打ち込みをしないとならないだろう? それをするおまえは、真面目な性格で。向上心があって。持久力もある。弱味を見せたくない。だから、負けず嫌い。あと、対戦中に目がギラギラしていたから、意外と好戦的」
「意外と?」
「今の反応で、顔のことを言われるのが嫌い。だが、余計なプライドは捨てた方が良い。その顔は、敵があなどる良い顔だ。実戦になれば、敵を倒した者勝ちなんだから、油断させているうちに、斬ればいい。俺も侮った。すまない」
「素直なんだな」
「勉強になった。見た目で判断しては駄目だとな。あのバミネも。ぽっちゃりだが、意外と強いのかもしれないと思ったが…あちらは予想通りの練習不足だった。なぜ騎士科にいるのかわからねぇ」

 このとき、俺は。
 この先、バミネが脅威になるなど、夢にも思わなかったのだ。

 学園の中にいる間は、力がすべてだった。
 剣術に秀でていれば、学園の主席(騎士科の)になることができて。学園にいる間に、弱いバミネなど、眼中にも入らなかった。

 俺の目を引きつけていたのは、いつだって、強く、気高く、美しい、シヴァーディだけ…。

 だから、このときの俺は。力も剣術もない、バミネなど、どうでもよかった。
「…話がずれたな。だから…ぐちゃぐちゃ話さなくても、俺がおまえを好きになる理由は、あの手合わせの中に、充分にあったということだ」

 シヴァーディは、なんか、まぶしそうに目を細めて、俺をみつめる。
 あぁ、俺の赤い髪が、夕日に光っているかもな? 光が差すと、燃えるような赤色に見えるらしいから。

「なるほど。でも、私たちは、今日会ったばかりだし。友達から…」
「まだるっこしいな。俺は、好きとなったら、好きなんだ。じゃあ、こういうことにしよう。俺たちは前世で恋人同士だった。生まれ変わって、ここで出会えたけど。昔の縁があるから、初対面じゃないぞ。運命の恋人同士だ」
「なんだ、その展開は。無茶苦茶だな。説得が面倒になっただけだろう?」

 そう、面倒だ。好きだから、付き合いたい。イエスかノーか。簡単だろ?
 まぁ、同性だということで、葛藤があるというのなら。少しだけ待ってやってもいい。
 少し…五分な。

「わかったよ。私も、おまえとは長く付き合っていきたい。剣の相手がいないんだ」
「奇遇だな、俺の練習相手もいなくてな。シヴァーディと鍛錬していたら、もっと強くなれそうだ。なぁ、シヴァーディ。生涯、俺の剣の相手になってくれよ?」
「プロポーズみたいに言うな」

 シヴァーディは、いつも澄ました顔をしている。笑みなど見せず。唇を引き結んで。
 騎士は、感情を表に出さないもの、みたいに思っているのかもしれないけれど。

 そのときは、朗らかに笑った。

 プロポーズ…という気は、さすがになかったけれど。
 それでも良いと思えるくらい。俺はもう。シヴァーディは俺と、生涯に渡って付き合う者だと感じていた。
 恋人か、友か、好敵手か、家族か、兄弟か。肩書は変わるかもしれなくても。
 とにかく、ずっと一緒。それこそ、運命だ。

 できれば、ずっと、恋人が良い。

 俺は、笑う彼の頬に手を添え、唇を寄せた。
 シヴァーディは、拒まなかった。
 その薄い唇に、己のそれを触れ合わせる。
 氷の妖精のような印象の彼は、唇も冷たいのかと思っていたけれど。思った以上に熱くて。
 心の内に秘めた情熱の温度なのだなと感じた。

 触れただけで。そっと、離す。
 彼を、すぐにも自分のものにしたい。
 早く、早く。そうしないと、誰かに取られる。そんな焦る気持ちがあった。

 けれど、キスをしたら。その気持ちはおさまった。
 いや。キスをしたあとの、彼の顔を見て、おさまった。
 シヴァーディが、己を真摯にみつめていたから。
 本来、紫色をしている彼の瞳が、夕日に照らされた、俺の髪の色を映し込み、赤々としている。

「美しいな」

 この赤い瞳は、俺がそばにいなければ出ない。俺だけが見ることのできる赤色。
 そう思ったら。彼を、俺のものにできたような気がした。
 あんまり美しいから。もう一度、唇を寄せた。
 今度は深く、口腔の中に舌をもぐり込ませ。舌を絡め合わせて。心も体も結びつける。
 人生で、はじめてのくちづけは。
 柔らかくて、温かくて、美味な、最高のくちづけだった。

 出会ったその日に。シヴァーディの銀髪もオレンジに染まる夕日の中で。俺は彼とファーストキスをした。

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