塗りつぶしの残骸

藤嶋

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塗りつぶしの残骸《序章》

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 子供は時に、小さな違いを面白可笑しく取り上げては笑いの種にする。

 そこには必ずしも悪意があるわけではない。
 無垢で素直な故に残酷なだけだ。

 大なり小なりその残酷さをまき散らす当事者になったり、不遇なことに叩き付けられる被害者になったり、不穏な空気に気付かないフリをする傍観者になったり。

 誰にでもあり得ることではあるが、夕闇町四人組と呼ばれる幼なじみグループには一度も諍いがなかった。
 歩いて三分程の距離にそれぞれの家があり、通学路が同じで、集団登校はこの四人と保護者だけ。

 打ち解けるのはあっという間だった。
 まるで誂えたかのように男子二人と女子二人の構成だったが、性別など相手を思いやる情報として以外に気にすることはなかった。

 全員が似ていたのかと問われればそんなことはなく、また無個性だったわけでもない。

 むしろその反対で、好きなものも違えば性格も顔も似ていない。
 ただ、純粋に相手の好きなものを一緒に楽しむことが出来るだけだった。

 幼稚園から大学に至るまで、例えクラスや部活は違えども、四人は同じ季節を共に過ごしていた。

 スポーツ万能な如月きさらぎ 蘇芳すおうは根っからの体育会系で、小学生の頃から密かにファンクラブが出来るほどイケメンで男女ともに人気があった。
 バレンタインの日には彼にチョコを渡したい生徒が後を絶たず授業中にまで及んだため、空き教室で個別に授業を受けていたという話は母校の伝説として語られている。

 リーダー気質な彼は、他の人が嫌厭するような作業も率先して引き受けた。

 東に倒れた人あれば、周りの手も借りて救急車を呼び、西に疲れた両親がいれば家事を代わり、南に迷子がいれば保護者が見つかるまで声を上げ続け、北に喧嘩があれば両者や周りから話を聞いて和解させた。

 何事にも全力で臨み、優しくて情に厚い蘇芳はよく『少年漫画から抜け出してきたのではないか』と噂されたものだった。

 そんな蘇芳に唯一無二の親友と言われていた梅沢うめざわ 芭蕉ばしょうは、周りが心配するほどインドア派だった。

 元からゲーム好きで幼い頃、父から譲り受けたパソコンでプログラミングに出会う。
 次第にお下がりのパソコンでは出来ないことが増えてくると、お年玉やお小遣いを貯めて自分用のパソコンを購入し、ゲームや動画作成に精を出すようになる。

 熱中して学校へ行くのが億劫になってくると察したかのように蘇芳が迎えに来たり、遊びへ誘ったりするため、両親が心配していたように引きこもりにはならなかった。
 芭蕉の両親は感謝し、まるで信者のように蘇芳を賞賛した。

 芭蕉は思春期の男子学生らしく、少し捻くれていたが、その視点でしか得られない情報で蘇芳の輝かしい人物性を支えていた。
 東西南北、何処へ行こうとも――。


 女子二人の関係性もこの男子二人の関係性と少し似ている。
 東雲しののめ 瑠璃るりは母がモデル、父がファッション雑誌の編集者で三人姉妹の末っ子だった。

 意識の高い母と姉に育てられた瑠璃は、素顔でも輝く肌と大きな瞳でどんな服でも着こなせるほど基盤が良かった。
 更に妥協せず美容に力を入れ、学園祭などで行われるミスコンテストでは常に上位だった。

 周りから賞賛されることに慣れていた瑠璃は、愛されることに絶対的な自信があり対人関係に関して臆することがない。
 絶対的な自信の前には多少の妬み嫉みなど恐れるに値せず、全員平等に会話を仕掛けた。 結果、友人数は軽く三桁を超え限りある青春時代をこの上なく輝かしいものとした。

 その傍らで青春の恩恵を受けていたのが伊吹いぶき 若葉わかばだった。

 若葉は人と話すより物語を読んでいる方が好きで図書館によく入り浸っていた。
 消極的で自分から声を掛けに行くことはないが瑠璃が一緒にいることでかろうじて一人になることはなかった。

 普段はあまり口を開かない。
 しかし四人組ではよく話すため、瑠璃は照れ屋な性格だと思っていた。

 話してみればその声はとても落ち着き澄んでいて、瑠璃は度々読み聞かせを強請り、放送部への入部を勧めた。

 瑠璃の性質上、周りにはオシャレや恋の話題が溢れていたが、瑠璃は若葉が本から得た星や花、宇宙や海――時には魔法や怪獣の話などたくさんの夢がある話が好きだった。
 一度、女子グループの中で若葉にその話題を出してもらったことはあったがどうにもその女子達にはオシャレや恋の話題の方が興味深いようで盛り上がらない。
 さっさと話題を切り替えてしまった女子達に瑠璃も若葉もがっかりしつつ、でも瑠璃はその面白さは自分だけが知っていればいいかという仄かな独占欲から、以降話題にすることはなかった。



 四人が集まればどこでも楽しかった。

 夕闇町唯一の公園で誰が一番速くジャングルジムの上に辿り着けるか競ったり、バトミントンで女子組に男子組がボロ負けしたり、蘇芳が冒険に連れ出したら迷子になったり、瑠璃がみんなにメイクをしたり、芭蕉が作ったゲームをプレイしたり、若葉の解説を聞きながら天体観測をしたり。

 挙げきれないほどの出来事があって、あっという間に思い出になった。



 それぞれが違う生活を歩み出したのは社会人になってからである。

 蘇芳は都会の大手企業で営業マン、瑠璃は観光情報雑誌のモデル兼ライター。芭蕉は中小企業のWEB担当、若葉は派遣社員として工場で夜勤に就いた。

 毎日のように会っていた生活から急に距離の離れた四人は、それぞれの悩みを抱えながら、それでも二ヶ月に一度はなんとか予定を合わせて会うようにしていた。

 しかし、任せられる業務が増えてくると次第に誰かが抜け、三ヶ月に一回、半年に一回、一年に一回、と間が開くようになった。

 間が開いても絆が途切れなかったのは、蘇芳が個別に時間を合わせたり、情報を授受していたおかげである。
 将来有望な蘇芳は多忙を極めていたが、持ち前の切り返しで上司や先輩、同僚の恨みを買うことなく、仕事をこなしていた。

 それでも、予定が合わなくなってくるといつしか蘇芳には焦りが生まれる。
 このまま疎遠になってしまうのではないか、と。

 蘇芳にとって夕闇町四人組は欠かせない唯一無二の存在だった。

 こんなにも居心地が良くて気の合う仲間なんてきっと二度と見つからない。
 社会人になってますます実感したことだ。

 いつか自分や他の三人に家族が出来ても、変わらずにいられるような距離でありたかった。

 仕事はやりがいもあって、その分帰ってくるものも大きい。それでも。


 叶うのなら子供の頃に戻りたい――。
 その気持ちだけは消えることはなかった。
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