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飲み食いしながら家庭用ゲーム機でカーレースに熱中している間にクリスマスイヴは過ぎていた。
蘇芳がトイレ休憩のついでにカーテンの隙間から外を見れば、ロマンチックだった雪は怒り狂ったかのように猛威を振るい視界を塞いでいた。
「ああばか若葉! せっかくオレ一位だったのになんで爆弾ぶつけるんだよ!」
「そういうゲームで……しょ!」
「ぐわ、しかもスター状態でぶつかって行きやがった!」
「芭蕉くんお先ー!」
「最下位だった瑠璃にすら抜かれた……」
「油断するからよ」
結果は若葉が四位、瑠璃が十一位、芭蕉が十二位。なんて微妙な戦いなんだ。
負けると思っていなかったのか、芭蕉はクッションに顔を埋めている。
ゲーム機とソフトを持ち込んだのは芭蕉だった。その習慣は昔から変わらない。
蘇芳は携帯ゲームこそ好んでプレイするが、据え置き型は持て余してしまう気がして買っていなかった。
自分一人では冒険に出ることもない。みんながいて初めてそこに自分の居場所が生まれる。
「あたしずっと壁走ってたんだけどー!」
「瑠璃途中逆走してたしね。衝突したときびっくりしちゃった」
「みんな」
「蘇芳おかえり~」
「ただいま。外すごい雪だよ」
「え、マジ?」
芭蕉が立ち上がりカーテンを捲る。
「うっわマジじゃん。世界の終わり感ハンパない」
「今日泊まり前提にして良かったな。こんな中じゃ心配で帰せないよ」
「なんだ、てっきりシタゴコロありでそう言ったのかと思った……オレに」
「なんでよりにもよって芭蕉なんだよ! 気色悪いからクネクネするな!」
「他女子二人にって言ったら冗談でもリアルが強過ぎてセクハラになるからオレが犠牲になっただけだろ!」
「よーしじゃあ望み通り犠牲になってもらうぞ寝るとき楽しみにしてろよ」
「あ~れ~」
「きゃー! あたし達衝撃的な場面の目撃者になっちゃう~もっとやれ~」
「ふ、ふふ……」
中身のない会話。くだらないやり取り。
普段は口数な少ない芭蕉がふざけて、蘇芳が乗っかると瑠璃は囃し立て、若葉は声を上げないようにお腹を抱えて笑う。
蘇芳にとってこの時間に勝るものなどない。
「みんな」
蘇芳は三人の顔を見渡す。先程までと空気が変わったことに気付き三人は蘇芳を見返す。
「俺達、社会人になってからあんまり会えなくなっちゃってさ。でも、それはみんなが頑張っている証拠でもあってもちろん応援してる」
本当は寂しくても、みんなが幸せであればそれで良かった。
「これからまた、忙しくなって会えない日が続くかもしれないけどさ。どんな時でも、たとえこの中の誰かになにがあっても、俺達はずっと夕闇町四人組でいよう」
この場所だけは誰にも奪われないように。
「急にどうしたんだよ、蘇芳」
「俺にとっては本当に特別なんだ。この居場所が」
「それはあたしだって同じ。でもたとえこの中の誰かになにがあってもっていうのはちょっと物騒ね~」
訝しむ目で瑠璃は蘇芳を見る。
「違うんだ、悪い意味に限らず……たとえばほら、俺達もいい歳だから特別な人がいて家族が増えてもおかしくない! それは喜ぶべきことだしそうなったら全力で祝福するんだけど! ……この特別を忘れないでほしいんだ。俺の、我儘なんだけど」
「蘇芳……ーー」
若葉は何かを言いかけて口を閉じた。
「ーーまあ、何を今更って感じだな」
「え?」
「今更忘れられるわけねーじゃんお前らのこと。もう友人通り越して、……か、家族みたいなもんだし」
「芭蕉……お前……」
「だーもう! 小っ恥ずかしいこと言わせんなよ!」
芭蕉は三人に背を向けたが髪の間から見える耳はほのかに赤い。
「芭蕉照れてるぅ~。でもあたしも同意見! ここの三人が頑張ってるんだろうなって思うから緊張して怖くても色んな人の前に立てる。ーーあとね」
瑠璃が不意に若葉の両手を握る。
「あたし実は、早く大物になって、若葉とラジオ番組やるのが夢なの」
「え……?」
「そしたらいつでも若葉の優しい声と楽しい話が聞けるし、色んな人にも良さを知ってもらえる」
「で、でも、わたしの声と話なんて人前で話せるようなものじや……」
「なんて、じゃないよ! あたしが言うんだから間違いナシ!」
「瑠璃……」
ニッと笑う瑠璃が眩しい。
「まあ、男性陣のことはステキな彼氏ができたら扱いがテキトーになるかもしれないけど?」
「ひっでぇ、差別だー」
「冗談よ、じょ・う・だ・ん! それにしても蘇芳ってそんなにアタシ達のこと好きだったのねぇ。今日同じような話をしてばっかり」
「う。仕方ないだろ、なかなか会えなかったし次いつ会えるかわからないし。お酒も入ってるからつい感極まって口が滑っちゃうんだよ」
「いいじゃん、今日くらいは恥をかき捨て! 思い出話に花を咲かそうぜ」
「さんせーい!」
「わたし、お酒追加で持ってくるね」
「じゃあ俺も」
「ううん、大丈夫。そんなに重くないから」
テーブルの上を片付け、おつまみとグラスと瓶だけを乗せる。
語り疲れた四人が眠りについたのは空が明るくなったころだった。
飲み食いしながら家庭用ゲーム機でカーレースに熱中している間にクリスマスイヴは過ぎていた。
蘇芳がトイレ休憩のついでにカーテンの隙間から外を見れば、ロマンチックだった雪は怒り狂ったかのように猛威を振るい視界を塞いでいた。
「ああばか若葉! せっかくオレ一位だったのになんで爆弾ぶつけるんだよ!」
「そういうゲームで……しょ!」
「ぐわ、しかもスター状態でぶつかって行きやがった!」
「芭蕉くんお先ー!」
「最下位だった瑠璃にすら抜かれた……」
「油断するからよ」
結果は若葉が四位、瑠璃が十一位、芭蕉が十二位。なんて微妙な戦いなんだ。
負けると思っていなかったのか、芭蕉はクッションに顔を埋めている。
ゲーム機とソフトを持ち込んだのは芭蕉だった。その習慣は昔から変わらない。
蘇芳は携帯ゲームこそ好んでプレイするが、据え置き型は持て余してしまう気がして買っていなかった。
自分一人では冒険に出ることもない。みんながいて初めてそこに自分の居場所が生まれる。
「あたしずっと壁走ってたんだけどー!」
「瑠璃途中逆走してたしね。衝突したときびっくりしちゃった」
「みんな」
「蘇芳おかえり~」
「ただいま。外すごい雪だよ」
「え、マジ?」
芭蕉が立ち上がりカーテンを捲る。
「うっわマジじゃん。世界の終わり感ハンパない」
「今日泊まり前提にして良かったな。こんな中じゃ心配で帰せないよ」
「なんだ、てっきりシタゴコロありでそう言ったのかと思った……オレに」
「なんでよりにもよって芭蕉なんだよ! 気色悪いからクネクネするな!」
「他女子二人にって言ったら冗談でもリアルが強過ぎてセクハラになるからオレが犠牲になっただけだろ!」
「よーしじゃあ望み通り犠牲になってもらうぞ寝るとき楽しみにしてろよ」
「あ~れ~」
「きゃー! あたし達衝撃的な場面の目撃者になっちゃう~もっとやれ~」
「ふ、ふふ……」
中身のない会話。くだらないやり取り。
普段は口数な少ない芭蕉がふざけて、蘇芳が乗っかると瑠璃は囃し立て、若葉は声を上げないようにお腹を抱えて笑う。
蘇芳にとってこの時間に勝るものなどない。
「みんな」
蘇芳は三人の顔を見渡す。先程までと空気が変わったことに気付き三人は蘇芳を見返す。
「俺達、社会人になってからあんまり会えなくなっちゃってさ。でも、それはみんなが頑張っている証拠でもあってもちろん応援してる」
本当は寂しくても、みんなが幸せであればそれで良かった。
「これからまた、忙しくなって会えない日が続くかもしれないけどさ。どんな時でも、たとえこの中の誰かになにがあっても、俺達はずっと夕闇町四人組でいよう」
この場所だけは誰にも奪われないように。
「急にどうしたんだよ、蘇芳」
「俺にとっては本当に特別なんだ。この居場所が」
「それはあたしだって同じ。でもたとえこの中の誰かになにがあってもっていうのはちょっと物騒ね~」
訝しむ目で瑠璃は蘇芳を見る。
「違うんだ、悪い意味に限らず……たとえばほら、俺達もいい歳だから特別な人がいて家族が増えてもおかしくない! それは喜ぶべきことだしそうなったら全力で祝福するんだけど! ……この特別を忘れないでほしいんだ。俺の、我儘なんだけど」
「蘇芳……ーー」
若葉は何かを言いかけて口を閉じた。
「ーーまあ、何を今更って感じだな」
「え?」
「今更忘れられるわけねーじゃんお前らのこと。もう友人通り越して、……か、家族みたいなもんだし」
「芭蕉……お前……」
「だーもう! 小っ恥ずかしいこと言わせんなよ!」
芭蕉は三人に背を向けたが髪の間から見える耳はほのかに赤い。
「芭蕉照れてるぅ~。でもあたしも同意見! ここの三人が頑張ってるんだろうなって思うから緊張して怖くても色んな人の前に立てる。ーーあとね」
瑠璃が不意に若葉の両手を握る。
「あたし実は、早く大物になって、若葉とラジオ番組やるのが夢なの」
「え……?」
「そしたらいつでも若葉の優しい声と楽しい話が聞けるし、色んな人にも良さを知ってもらえる」
「で、でも、わたしの声と話なんて人前で話せるようなものじや……」
「なんて、じゃないよ! あたしが言うんだから間違いナシ!」
「瑠璃……」
ニッと笑う瑠璃が眩しい。
「まあ、男性陣のことはステキな彼氏ができたら扱いがテキトーになるかもしれないけど?」
「ひっでぇ、差別だー」
「冗談よ、じょ・う・だ・ん! それにしても蘇芳ってそんなにアタシ達のこと好きだったのねぇ。今日同じような話をしてばっかり」
「う。仕方ないだろ、なかなか会えなかったし次いつ会えるかわからないし。お酒も入ってるからつい感極まって口が滑っちゃうんだよ」
「いいじゃん、今日くらいは恥をかき捨て! 思い出話に花を咲かそうぜ」
「さんせーい!」
「わたし、お酒追加で持ってくるね」
「じゃあ俺も」
「ううん、大丈夫。そんなに重くないから」
テーブルの上を片付け、おつまみとグラスと瓶だけを乗せる。
語り疲れた四人が眠りについたのは空が明るくなったころだった。
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