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なっちゃんに似てるね

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 ほんの三十分前に三人で乾杯して、俺はあまり強くないからビールと一緒にジュースを頼んでチビチビ飲んでいた。三吉君も飲み過ぎると仕事に響くから程々にすると言っていた。それなのに、いつの間にか綾ちゃんと飲み比べをし出したのだ。その五分でこうなった。

「くるしい」

 三吉君の腕の中でギュウギュウ抱きしめられる。力が強い。スリーポイントゲームを思い起こさせる。

「え~。別に俺は梨央とどうなるとか言ってないけど? なんでそんなこと言うんだよ」

 綾ちゃんもなんか煽る発言止めて。もっと力が強くなった。肺が潰れる。

「ほら、梨央が苦しがってるって」

 俺の手を取って三吉君から離そうとしてくれる綾ちゃん。ありがとう。でも、三吉君の腕がまだ絡みついてるから、両側から引っ張られて結局苦しい。

「三吉君、ちょっとだけ離してくれる? 苦しくて」
「ごめん」

 俺が言ったらすんなり離れてくれた。綾ちゃんが小さく舌打ちした後ゲラゲラ笑っていた。

「すっげ。酔っ払いすぎだろ」
「だよね。これ、酔っぱらってるってことだよね」

 そうじゃないとこんな行動には出ないだろう。めちゃくちゃ貴重だけど、個室じゃないところでやったら大変なことになっていた。

「あ~笑った。梨央、ご飯冷えるから食べようぜ」
「うん」
「梨央はこっち」

 また腕が伸びてきて、今度は胡坐を掻いた三吉君の上に座らされた。ちゃんと力加減してくれてるから回された腕は苦しくない。ただ、食べづらい。すごく。

「三吉君は食べなくていいの?」
「梨央が食べさせて」
「ぎゃはははは!」

 仕方がなく、から揚げを三吉君の口に放り込む。あ、俺のお箸だった。まあいいや。隣では綾ちゃんが笑い過ぎて呼吸困難になっていた。死なないで。

「すげえ。ここまで面白い修斗初めて見た」
「三吉君って酒癖悪いんだ」
「いやぁ、普段はそんな飲まないから酔っぱらったことなんてないんじゃない」
「へ~」

 これ、明日覚えてるのかな。覚えてたら恥ずかしくて俺としばらくまともに話してくれなさそう。それは困るなぁ。

「よしよし」

 大きい犬みたいで三吉君の頭を撫でてみる。おお、すり寄ってきた。ほんとに犬みたい。

「何してんの。おもしろ」
「俺に抱き着いてくるところが実家にいる犬に似てるから。なっちゃんって言うんだけど、可愛いんだよ」
「あは、犬扱い!」

 綾ちゃんは飲み会が終わるまでずっと笑っていた。
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