好きが言えない宰相様は今日もあの子を睨んでる

キトー

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2.仕事とおばちゃん達

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 まぁ、そんな訳で、僕の学生ではない学園生活が始まったのだ。
 それから早半年、今日も日が昇る前に起きて寮を出た。
 寮と言ってもちゃんとした部屋ではなく、寮棟で物置として使われていた狭い部屋で無理やり寝泊まりしている。
 こんな僕にも、最低限の生活は保証してくれているのでありがたい。

 そして僕は、学園に来て毎日休むこと無く働き続けた。
 そのおかげでなのか、末の妹は今のところ罰を受けていない。
 今は教会にあずけられて、ひとまず元気に過ごしている。
 けれど、僕が間違いを犯せば矛先はすぐにでも末の妹に向くだろう。
 それだけは何としてでも阻止しなければならないのだ。

「おはようございます」

「はいはいおはようさん。今日もアンタは早いのねぇ」

「そりゃあアンタと違って若いんだもんよぉ」

「なーに言ってんよ。アンタは最近何度も目が覚めるって言ってたじゃないよぉ。歳よ歳」

「それよりあのーほら、アレ! アレってどうなったんだい」

「あーあのー、アレね! アレはほら、警備の坊やがアレしたからさぁ」

 食堂に顔を出すと、馴染みの顔が今日もマシンガントークを飛ばしている。
 食堂で働くおばちゃん達は、僕に構ってるのか構ってないのか、ひとまず勝手に楽しそうだ。

 僕は毎朝、本日講義で使われる教材の整理、掲示物の貼り替えを終えてから食堂に来る。
 学生達の朝食の下ごしらえを任されているからだ。
 今日もいつものように山盛りの芋の前に座り、もくもくと皮を剥いていく。

「アンタ、今日は朝ごはん食べたのかい?」

「あの──」

「どうせ今日も食べてないんだろう。アンタいっつも仕事してんだからさぁ」

「私だってそう思ってたよぉ。だからサンドイッチ作ってたのさ」

「そんな事言ってアンタは自分で食べる分が多いじゃないか。さっきまかない食べたくせにさぁ」

「違いないねぇ。ほらアンタ、学生達が来る前に早くお食べ」

「──ありがとうございます……」

 こちらが口を挟む間もなく話が進み、今日はサンドイッチを食べさせてもらえる事になったようだ。
 おばちゃん達は罪人の僕にも変わらず接してくれる。
 初めこそ少し警戒されていたようだが、共に仕事をするうちにすぐ仲間として認めてくれたようだ。

 ちなみに、おばちゃん達からの妹のリットの心象は、学園内では珍しく悪くない。
 いつも気持ちよく完食していたそうで、おまけに学園での話題を提供してくれる面白い子と位置づけられていたようだ。
 だからこそ僕への風評被害も少なく済んだようで、あっさり受け入れられたのだろう。
 その事に今日も感謝し、目の前に置かれたサンドイッチをありがたくいただいて本日の活力とした。

 僕が食べている間もおばちゃん達のトークが途切れる事はなく、それでも手は動いていて次々仕事を終えていく。これがプロってやつなのか。

「そーいやルットちゃんよぉ、あの人とはどうなんだい? そろそろアレしたかい?」

「あの人? とは誰でしょう」

「そーんなのアンタ! 次期宰相の坊っちゃんに決まってるじゃないさぁ! んで、どうなんだい?」

「アンタそんな急かすんじゃないよぉ。若者には若者の事情ってもんがあんのよ」

「なぁに言ってんのさ。結局やることは一緒だろぉ?  ぐあっはっはっは!」

「やだよぉアンタそんな大声で」

「……」

 一人が話を始めると、どこからか人が集まってよもやまな話が始まる。
 僕を囲んで話しだした彼女らは、やはり口と同じぐらい手の動きも速く、芋がどんどん減っていった。

「で? どうなんだいルットちゃん」

「え? あー……ジャッジ・ヴァゾットレム様の事、ですよね」

「そーだよぉ。そろそろアレなんじゃないかってみんなで話してたのさ」

「みんなってアンタがいっつも話し出すだけじゃないか」

「そんな事言ってアンタ達も興味津々なの知ってんだからね!」

「はいはい」

 話題に出ていた次期宰相とは、ジャッジ・ヴァゾットレム様の事で間違いないようだ。
 ジャッジ・ヴァゾットレム、第二王子の側近の一人で、おばちゃん達の言う通りであれば次期宰相なのだろう。
 僕の罰が言い渡される時も王子のそばに仕えていた。
 銀髪をセンター分けにした、紫色の瞳をもつ鋭い目つきの眼鏡の青年である。

「……っ」

 あの時の光景を思い出してしまい、身震いをする。
 あの日、僕を見下ろす彼は、まるでヘドロでも見ているような目だった。
 その場に居た誰よりも冷たい視線を向けてくる彼の紫の瞳を、今でも忘れられない。

「……ヴァゾットレム様には、なるべくお手を煩わせないよう気をつけてます……」

「……おんやまぁ」

「そりゃあアンタ、次期宰相様もアレだねぇ」

「違いないねぇ」

「でもたまには良いさね。いっつも澄ました顔してんだからさぁあの坊っちゃん。だぁっはっはっは!」

「……はぁ、まぁ」

 会話をアレで済ませてしまうおばちゃんたちの会話にいまいちついて行けないが、口を挟まずとも勝手に話が進む。
 僕はあいまいな返事をしながら、与えられた仕事を粛々とこなしていった。
     
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