【完結】ストーカー辞めますね、すみませんでした。伯爵令嬢が全てを思い出した時には出番は終わっていました。

須木 水夏

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カトレアさんに綺麗にしてもらいました

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(絶対にそう…!そうですよね…?!
 カトレアさんですよね…っ?!)


 あー!と思いながらも、アリアは顔の筋肉を固めて無表情になった。それに気がついていないのか、カトレアは「それではお化粧をさせて頂きますね。」とアリアの顔を作り始めた。
 少女は無言でこくこくと頷くだけで精一杯だった。


 カトレアが少女の顔に化粧を施している間、アリアは頭の中の小説のページを必死で捲っていた。

 確かカトレアが登場してくるのは、主人公が登場してきた後、リュシアンが出てくる第五章の半ば辺りだったはず。


(そう、確か、カトレアさんは…。)

 彼女は、隣国のスラム街の出身だ。

 デアモルテ竜の住処帝国は大陸を跨ぐ帝国である。(名前の由来は『ちょっと前まで本当に竜が住んでいたから』だったはず。世界史で習いました。)


 魔法使いの国である帝国は、今を遡る事百年ほど前までは魔法絶対主義社会であった。魔法が使えなければ生き残る事が難しい世界だった。

 その為、貧富の差による所得格差が広がっていて、貧困層に生まれた子ども達は奴隷として売られたり暴力を振るわれたり、まともな教育を受けることが出来ないなど搾取されている状況だった。

 そんな中、帝都の一角に小さなスラム街が誕生する。その場所にはいつしか国の最たる貧困者が集まりどんどんと巨大化し、そしてあらゆる犯罪の温床になっていった。スラム街には犯罪者が住み着き、そこで仲間を作り犯罪者集団を住まわせるスラム街を国内の各地に多く作り出していった。

 近年になってそういった大小のスラム街に国政の手がようやく入り、以前よりは治安もかなりマシになったようだがそれでも根深い社会問題として残っていると書いてあった。

 カトレアは、元々そのスラム街の一つで生まれた。
 父が暗殺者であり幼い頃よりとある暗殺者集団に属していた。
 幼子だった彼女が初めて人を殺めたのはまだ五つの時。しかも殺めたくて殺めた訳ではなく、父親に強制されての事だった。これを読んだ時にはあまりの内容に、「それはダメでしょ?!」と大きな声でツッコミをしてしまったことを覚えている。

 そしてその六年後、スラム街を根城とする暗殺者集団同士の抗争にカトレアも彼女の父と共に巻き込まれた。
 事態を重く見た帝国が帝国軍をスラム街へと送り込み、抗争をしている集団全てを壊滅状態へと追い込む中、少女は父親によって幼馴染の少年と共に逃がされ何とか生き残り、瀕死の状態で路頭に迷っていた所を皇太子リュシアン(当時七歳)に拾われた。

 泥だらけの地面に、幼馴染の少年を抱き抱えたまま蹲っていたカトレアの横に膝をつき、リュシアンは拙い口調でこう言った。


『お前、わたしと共に来るか?』

『…ともに…?』

『お前を苦しめたのはお前の父や環境だが、その父を苦しめたのもその環境を作ったのもこの国だ。父王は言っていた、わたしはこの国をもっと良くする為にいるのだと。
 わたしがまちがえないように、そしてお前たちのように国に苦しめられた者がいることをけして忘れないように。私を助けてくれるものを探している。

 お前、来るか?』


 その言葉を聞いて、カトレアはリュシアンの前に平伏した。



(よくあるお話ですよね…。不幸な少女を助ける幼い男主人公。


 でもリュシアン様とカトレアさんの場合は、恋愛ではなく敬愛と信頼で結ばれる関係…!心から信頼出来る主を得た少女は再び生きる希望を見つけたのです…!
 読んだ時このまま恋愛になればいいのに、と思った事も懐かしいですが、そこは幼馴染の少年とのあれこれもあり…!ああ、もう一度しっかりと読みたい…!!)


 元々美しい見た目をしていたカトレアは、彼の元で知性と技術を身につけ、そしてやはり持ち合わせていた天性の魔法力と俊敏さを駆使し、自らリュシアンを護ると心に誓った。
 リュシアンはカトレアに汚れ仕事はしなくても良いと伝えたが、それを強い意志で突っぱねたのも彼女自身だ。


『僭越ながら私は、殿下のゆく道を邪魔をする者より貴方様を御守りする為にここにおります。

 どうぞわたくしをお使いください。

 我が君、殿下の手にも足にもなりましょう。力果てるまで貴方様に心よりの忠義を誓います。』



 物語の後半であるリュシアンの登場以降、普段は侍女として彼の影に控えているが、主人公を命を狙うまでして害そうとする侯爵令嬢や、彼女を操っていた黒幕の大臣を、あんなこんなで最終的には暗殺する役割を果たしていた。


(カトレアさんはそういうキャラクターなんですよね…。
殿下に救われた事に本当に心から感謝をしていて彼に人生を捧げているのです…。
 暗殺も『ただ、我が君の為に』と言いながらちょっと微笑んで冷静にスパーンッとやってしまうんですよね、ああ、思い出してきました、色々と。)


 そう、物語の後半でナディア様はマテオ様に対する歪んだ想いの大きさに思いっきり壊れて思いっきり悪女になる。
 だからそうなる前に、こうやって退出出来て良かったのかもしれない。ラッキーです。はい。


(関わってはいけない人が増えてしまう前に…!)


「お嬢様、終わりました。とてもお美しいです。」

「へ?あ、…え?!」


 声をかけられて、自分の思考の中に陥ったまま考え事をしていたアリアは、声をかけられ鏡を見て、…二度見した。





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