8 / 37
カトレアさんに綺麗にしてもらいました
しおりを挟む(絶対にそう…!そうですよね…?!
あのカトレアさんですよね…っ?!)
あー!と思いながらも、アリアは顔の筋肉を固めて無表情になった。それに気がついていないのか、カトレアは「それではお化粧をさせて頂きますね。」とアリアの顔を作り始めた。
少女は無言でこくこくと頷くだけで精一杯だった。
カトレアが少女の顔に化粧を施している間、アリアは頭の中の小説のページを必死で捲っていた。
確かカトレアが登場してくるのは、主人公が登場してきた後、リュシアンが出てくる第五章の半ば辺りだったはず。
(そう、確か、カトレアさんは…。)
彼女は、隣国のスラム街の出身だ。
デアモルテ帝国は大陸を跨ぐ帝国である。(名前の由来は『ちょっと前まで本当に竜が住んでいたから』だったはず。世界史で習いました。)
魔法使いの国である帝国は、今を遡る事百年ほど前までは魔法絶対主義社会であった。魔法が使えなければ生き残る事が難しい世界だった。
その為、貧富の差による所得格差が広がっていて、貧困層に生まれた子ども達は奴隷として売られたり暴力を振るわれたり、まともな教育を受けることが出来ないなど搾取されている状況だった。
そんな中、帝都の一角に小さなスラム街が誕生する。その場所にはいつしか国の最たる貧困者が集まりどんどんと巨大化し、そしてあらゆる犯罪の温床になっていった。スラム街には犯罪者が住み着き、そこで仲間を作り犯罪者集団を住まわせるスラム街を国内の各地に多く作り出していった。
近年になってそういった大小のスラム街に国政の手がようやく入り、以前よりは治安もかなりマシになったようだがそれでも根深い社会問題として残っていると書いてあった。
カトレアは、元々そのスラム街の一つで生まれた。
父が暗殺者であり幼い頃よりとある暗殺者集団に属していた。
幼子だった彼女が初めて人を殺めたのはまだ五つの時。しかも殺めたくて殺めた訳ではなく、父親に強制されての事だった。これを読んだ時にはあまりの内容に、「それはダメでしょ?!」と大きな声でツッコミをしてしまったことを覚えている。
そしてその六年後、スラム街を根城とする暗殺者集団同士の抗争にカトレアも彼女の父と共に巻き込まれた。
事態を重く見た帝国が帝国軍をスラム街へと送り込み、抗争をしている集団全てを壊滅状態へと追い込む中、少女は父親によって幼馴染の少年と共に逃がされ何とか生き残り、瀕死の状態で路頭に迷っていた所を皇太子リュシアン(当時七歳)に拾われた。
泥だらけの地面に、幼馴染の少年を抱き抱えたまま蹲っていたカトレアの横に膝をつき、リュシアンは拙い口調でこう言った。
『お前、わたしと共に来るか?』
『…ともに…?』
『お前を苦しめたのはお前の父や環境だが、その父を苦しめたのもその環境を作ったのもこの国だ。父王は言っていた、わたしはこの国をもっと良くする為にいるのだと。
わたしがまちがえないように、そしてお前たちのように国に苦しめられた者がいることをけして忘れないように。私を助けてくれるものを探している。
お前、来るか?』
その言葉を聞いて、カトレアはリュシアンの前に平伏した。
(よくあるお話ですよね…。不幸な少女を助ける幼い男主人公。
でもリュシアン様とカトレアさんの場合は、恋愛ではなく敬愛と信頼で結ばれる関係…!心から信頼出来る主を得た少女は再び生きる希望を見つけたのです…!
読んだ時このまま恋愛になればいいのに、と思った事も懐かしいですが、そこは幼馴染の少年とのあれこれもあり…!ああ、もう一度しっかりと読みたい…!!)
元々美しい見た目をしていたカトレアは、彼の元で知性と技術を身につけ、そしてやはり持ち合わせていた天性の魔法力と俊敏さを駆使し、自らリュシアンを護ると心に誓った。
リュシアンはカトレアに汚れ仕事はしなくても良いと伝えたが、それを強い意志で突っぱねたのも彼女自身だ。
『僭越ながら私は、殿下のゆく道を邪魔をする者より貴方様を御守りする為にここにおります。
どうぞ私をお使いください。
我が君、殿下の手にも足にもなりましょう。力果てるまで貴方様に心よりの忠義を誓います。』
物語の後半であるリュシアンの登場以降、普段は侍女として彼の影に控えているが、主人公を命を狙うまでして害そうとする侯爵令嬢や、彼女を操っていた黒幕の大臣を、あんなこんなで最終的には暗殺する役割を果たしていた。
(カトレアさんはそういうキャラクターなんですよね…。
殿下に救われた事に本当に心から感謝をしていて彼に人生を捧げているのです…。
暗殺も『ただ、我が君の為に』と言いながらちょっと微笑んで冷静にスパーンッとやってしまうんですよね、ああ、思い出してきました、色々と。)
そう、物語の後半でナディア様はマテオ様に対する歪んだ想いの大きさに思いっきり壊れて思いっきり悪女になる。
だからそうなる前に、こうやって退出出来て良かったのかもしれない。ラッキーです。はい。
(関わってはいけない人が増えてしまう前に…!)
「お嬢様、終わりました。とてもお美しいです。」
「へ?あ、…え?!」
声をかけられて、自分の思考の中に陥ったまま考え事をしていたアリアは、声をかけられ鏡を見て、…二度見した。
そこには、美しい妖精のような少女が座っていた。
402
あなたにおすすめの小説
今更ですか?結構です。
みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。
エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。
え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。
相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました
Blue
恋愛
幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる