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あれ?もしかして二人って
しおりを挟む赤く腫れぼったくなっていた瞼にはふんわりと銀色とドレスに合わせた水色のアイシャドウがのせられ、頬は清楚なピンク色に輝き、色を失っていた唇は熟れたサクランボのように艶めいている。薄く肌に乗せられた白粉も、透き通るような透明感のある素肌感を残したままだから、厚塗りではないのにも関わらず、ブラウンをベースにしていた先程のアイメイクよりも、明らかにアリアの顔色や雰囲気に似合っていた。
「え、こ、これ、わたしですか…?」
「左様でございます。お嬢様の美しい瞳を引き立てられるように精一杯力を尽くさせて頂きましたが、お気に召されませんでしたでしょうか?」
「い、いえ!こんなに綺麗にしていただき、ありがとうございます…」
「お嬢様は元のお顔立ちがとても整っていらっしゃるので、わたくしもとても楽しくお仕事が出来ました。」
そう言ってにこりと優しく微笑むカトレアに、これから先の物語を知っているアリアは何とも言えない気持ちになった。
化粧室を出ていくと、なんとまたリュシアンの元へと案内されてしまった。
(あれー?あ、でもさっき離れる時、殿下は待っているっておっしゃられていたような…。)
しまったと思いながらも、綺麗にお直しをしてもらったお礼を言わなくてはと深呼吸をしたアリアは、カトレアの後をついてまた庭園へと足を踏み入れる。
先程までアリアが座っていた場所に寛いで長い足を放ったリュシアンがいた。
(わあ…なんて綺麗なのでしょうか…。まさに王子様ですね…。)
夜風に靡く彼の銀色の髪がサラサラと音を立てるのが聞こえてくるようだ。
腰掛けているだけのその姿も気品があり優雅で、思わずアリアは溜息をつきそうになる。
帰ってきた少女を見て、王太子殿下は一瞬感嘆の表情を浮かべ、そして優美に微笑んだ。
「美しい人、さらに美しくなったね。」
「…こ、皇太子殿下、お心遣いとても染み入ります。あのですが、先ほどの醜態に関しましては…。」
忘れていただきたく…という言葉が続く前に、リュシアンは首を傾げて、悪戯な微笑みをその美しい顔に浮かべた。
「醜態?貴女はずっと美しいままだけど。」
王子前とした甘く紳士的な態度(いや王子様なのであっているのだけど)に、アリアは背中がむず痒くなるほどの恥ずかしさを感じ、それにふとアリアは近親感を覚えた。そして途端に思い出した。
(…あ!!そうだった!!
こ、この人もそういうキャラだった!
なんで忘れていたんだろう!思い出した!だってこの人、この人は…)
「リュシー!」
「ん?マテオ?」
「君、会場に居ないと思ったらこんな所で何を…。
…リーエル嬢?」
(そうだった…ここ二人、親族ーーー!!!)
後ろから聞こえてきた、大好きだった、けれどもはや関わってはいけない方の声にアリアは目眩を覚えた。
アレンデラス公爵家の三代前の公爵令嬢であったベルジェア・アレンデラスがデアモルテ帝国の王族へと嫁ぎ、その息子が今のシェルオット皇帝であり、マテオの父とは従兄弟同士。
マテオの父であるアレンデラス公爵は留学で隣国へと数年行っていたこともあり、二人は幼少期から顔見知りでとても仲が良かった。彼らのそれぞれの息子となるリュシアンとマテオもかなり親しい仲なのだ。
そういえば物語の中にも、お互いに国を良く行き来している仲良しな二人の話が描かれていた。
しょっちゅう会っていたのなら、性格も似ていても何もおかしくないのだ。美麗な容姿も血が繋がっているのだからそれはそうなのだ。
(あああ、何故わたしは夜会から直ぐに立ち去らなかったのでしょう…?!)
後ろを振り向けずにいるアリアに、もう会うはずがないと思っていたマテオが近づいてくる気配がして、思わず身を固くした。
アリアが僅かに緊張で身を震わせたのを見て、リュシアンが彼女を自分の方へと引き寄せる。
その咄嗟の行動に思わずアリアが彼を見上げると、優し気な銀色の瞳が見つめ返された。
まるで朝日をうけて輝く湖面の光のような目とまともに視線が合ってしまった少女は、頬に熱が昇るのを感じてすぐに目を逸らした。
(め、目の毒すぎますっ…!!!)
その様子に、マテオのいつもとは違う怪訝な声色が聞こえてきた。
「…リュシー、彼女に何かしたのか?」
「何もしていないさ。ただ彼女が泣いていたから慰めただけだよ。」
「泣いて…?
リエール嬢、さっきの件が原因なのかい?ナディアにはきつく注意しておいたから、安心して欲しい。」
こちらを気遣うようなマテオの言葉に、アリアはビクッと身を震わせると小さく頭を振った。
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