【完結】ストーカー辞めますね、すみませんでした。伯爵令嬢が全てを思い出した時には出番は終わっていました。

須木 水夏

文字の大きさ
9 / 37

あれ?もしかして二人って

しおりを挟む



 赤く腫れぼったくなっていた瞼にはふんわりと銀色とドレスに合わせた水色のアイシャドウがのせられ、頬は清楚なピンク色に輝き、色を失っていた唇は熟れたサクランボのように艶めいている。薄く肌に乗せられた白粉も、透き通るような透明感のある素肌感を残したままだから、厚塗りではないのにも関わらず、ブラウンをベースにしていた先程のアイメイクよりも、明らかにアリアの顔色や雰囲気に似合っていた。


「え、こ、これ、わたしですか…?」

「左様でございます。お嬢様の美しい瞳を引き立てられるように精一杯力を尽くさせて頂きましたが、お気に召されませんでしたでしょうか?」

「い、いえ!こんなに綺麗にしていただき、ありがとうございます…」

「お嬢様は元のお顔立ちがとても整っていらっしゃるので、わたくしもとても楽しくお仕事が出来ました。」


 そう言ってにこりと優しく微笑むカトレアに、これから先の物語を知っているアリアは何とも言えない気持ちになった。





 化粧室を出ていくと、なんとまたリュシアンの元へと案内されてしまった。


(あれー?あ、でもさっき離れる時、殿下は待っているっておっしゃられていたような…。)


 しまったと思いながらも、綺麗にお直しをしてもらったお礼を言わなくてはと深呼吸をしたアリアは、カトレアの後をついてまた庭園へと足を踏み入れる。

 先程までアリアが座っていた場所に寛いで長い足を放ったリュシアンがいた。


(わあ…なんて綺麗なのでしょうか…。まさに王子様ですね…。)


 夜風に靡く彼の銀色の髪がサラサラと音を立てるのが聞こえてくるようだ。
 腰掛けているだけのその姿も気品があり優雅で、思わずアリアは溜息をつきそうになる。
 帰ってきた少女を見て、王太子殿下は一瞬感嘆の表情を浮かべ、そして優美に微笑んだ。


「美しい人、さらに美しくなったね。」

「…こ、皇太子殿下、お心遣いとても染み入ります。あのですが、先ほどの醜態に関しましては…。」


 忘れていただきたく…という言葉が続く前に、リュシアンは首を傾げて、悪戯な微笑みをその美しい顔に浮かべた。

「醜態?貴女はずっと美しいままだけど。」


 王子前とした甘く紳士的な態度(いや王子様なのであっているのだけど)に、アリアは背中がむず痒くなるほどの恥ずかしさを感じ、それにふとアリアは近親感を覚えた。そして途端に思い出した。



(…あ!!そうだった!!
 こ、この人もそういうキャラだった!
 なんで忘れていたんだろう!思い出した!だってこの人、この人は…)

 

「リュシー!」

「ん?マテオ?」

「君、会場に居ないと思ったらこんな所で何を…。
 …リーエル嬢?」


(そうだった…ここ二人、親族ーーー!!!)


 後ろから聞こえてきた、大好き、けれどもはや関わってはいけない方の声にアリアは目眩を覚えた。

 アレンデラス公爵家の三代前の公爵令嬢であったベルジェア・アレンデラスがデアモルテ帝国の王族へと嫁ぎ、その息子が今のシェルオット皇帝であり、マテオの父とは従兄弟同士。
 マテオの父であるアレンデラス公爵は留学で隣国へと数年行っていたこともあり、二人は幼少期から顔見知りでとても仲が良かった。彼らのそれぞれの息子となるリュシアンとマテオもかなり親しい仲なのだ。
 そういえば物語の中にも、お互いに国を良く行き来している仲良しな二人の話が描かれていた。
 しょっちゅう会っていたのなら、性格も似ていても何もおかしくないのだ。美麗な容姿も血が繋がっているのだからそれはそうなのだ。



(あああ、何故わたしは夜会から直ぐに立ち去らなかったのでしょう…?!)


 後ろを振り向けずにいるアリアに、もう会うはずがないと思っていたマテオが近づいてくる気配がして、思わず身を固くした。
 アリアが僅かに緊張で身を震わせたのを見て、リュシアンが彼女を自分の方へと引き寄せる。
 その咄嗟の行動に思わずアリアが彼を見上げると、優し気な銀色の瞳が見つめ返された。
 まるで朝日をうけて輝く湖面の光のような目とまともに視線が合ってしまった少女は、頬に熱が昇るのを感じてすぐに目を逸らした。


(め、目の毒すぎますっ…!!!)


 その様子に、マテオのいつもとは違う怪訝な声色が聞こえてきた。


「…リュシー、彼女に何かしたのか?」

「何もしていないさ。ただ彼女が泣いていたから慰めただけだよ。」

「泣いて…?
 リエール嬢、さっきの件が原因なのかい?ナディアにはきつく注意しておいたから、安心して欲しい。」


 こちらを気遣うようなマテオの言葉に、アリアはビクッと身を震わせると小さく頭を振った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今更ですか?結構です。

みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。 エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。 え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。 相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

処理中です...