【完結】ストーカー辞めますね、すみませんでした。伯爵令嬢が全てを思い出した時には出番は終わっていました。

須木 水夏

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どういう事ですか?

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 後ろから聞こえてきた言葉の内容に驚いて、思わず振り返った。
 触れられるほどの距離にいるリュシアンが、アリアの顔を覗き込むようにして、キラキラと微笑んでいる。その輝く銀色の瞳と高貴なかんばせに思わず目眩を感じてふらついた所を抱きとめられて、そのまま支えられた。そして片手を取られ、そこには唇を寄せられる。

 そんなこと生まれて初めてされましたが、やる事が王子様すぎる…!あ!王子様か…っっ!!とセルフツッコミを頭の中で繰り広げながら、アリアは倒れないように踏ん張るので精一杯になっていた。
 そんな少女に気付いているのかいないのか。帝国の皇太子(男主人公No.5)は笑みを深くしてアリアを見つめた。


「こんなにも美しい令嬢がいたとは。今までの夜会で一度も会ったことがなかったね。
 アリア嬢、貴女は花の妖精のように美しく可憐で、そしてとても面白い。
 是非とも私とお近付きになって欲しい。」

「え?え?」


 リュシアンからの突然の告白と熱い視線に、アリアは面食らった。さっき出会ったばかりなのに、一体何がどうなってこうなったのですか?!


「リュシー!何を言うんだ!」

「マテオ、彼女が泣きながら此処へと来た時、何と言っていたのか教えてやろうか。
 追い詰められた表情で涙を零しながら自分はダメだ、年寄りの後妻になるか、もしくは領地で独身で一生涯を過ごすかと呟いていたのだぞ。
 そんな風に彼女を追い詰めたのは、話の流れ的にどうせお前のあの性格の悪い幼なじみだろう?」

「な…っ!そ、そんな事を考えたのか、アリア嬢…。」


 ショックを受けた表情のマテオ様もまた美しいなと、アリアは思った。


(ちょっと待ってください…?
 このビジュはどこかで見た事があるような気がします…、どこでしたっけ?

 …あ!!あれだ、小説の挿絵で主人公に気持ちを気が付いて貰えなかった時のマテオ様の顔ですね!!
 あのシーンは挿絵がついててなるほど~これは確かに極上の美男子みたいなことを思った記憶…て、いやそれどころではないですっ…!!この流れは何かがおかしいです…!!!)


 そのマテオの顔を見ることが出来るのはこの世でただ一人、。だってあれは主人公視点のイラストだったのだから。
 何かが変だ。何かがおかしい。
 
 
「大方アリア嬢のこの美しさに嫉妬したのだろう。あの女ナディアは昔から自分が一番でなければ気が済まない質であったしな。」

 溜息をつきながらそう言うリュシアンに、アリアは慌てて言い募った。


「いえ、違うのです…!
 ナディア様の仰っていた通り、わたしがマテオ様に付きまとっていたのが原因です…!わたしが悪いのです!」

 恥を忍んでアリアは叫んだ。勢いで二人を名前で呼んでしまっているけど、どうか気が付かれていませんように。

 ナディアは今後、マテオに執着して悪役令嬢になってしまうが、今は単純に幼なじみに付き纏う気持ちの悪い女を排除したかっただけなのだ。言い方や場所は良くなかったけれど彼女は悪くない、と思いたい。もう単純にストーカーをしていたアリアが悪かったのだ。

 このような大きな夜会での席での醜聞は一度広まってしまえば立て直すのに時間がかかってしまう。なんなら一生かかるかもしれない。そんな愚かな事をしてしまった過去の自分を殴りたいけれど過ぎてしまったことは仕方ない。

 だから、アリアはもうここで物語を退場するのが正解。そうなのです!


「なので、わたしのことは、どうかもう」

「アリア嬢、それでは僕の気持ちはどうしたら良いの?」

「き、気持ちとは?」


(も、もしやストーカーとして訴えられる?!訴えられるんですか?!?!)


 それは物語の中では出てこなかったけれど有り得る展開…!と、アリアはさぁっと顔から血の気が引いていくのを感じたが。
 マテオは、全くもって予期していなかったことを真面目な顔をして言った。


「僕は貴女に初めて出会った時から、貴女の事が好きだった。」


「え?


  ……え?」



 何を言われたのか理解が出来なかったアリアは、思わず時間を空けて二度聞きしてしまった。
 何を言ってるんだこの人は、と思いっきり顔に出して少女はマテオをしげしげと見つめてしまう。
 マテオは何故か真摯な眼差しでアリアを見つめ返していた。


(…ちょっと意味が全然分かりませんでした…。)



「……申し訳ございません、アレンダラス公爵令息様…。ちょっと、わたしの耳が何やらおかしい?ようでして…。
 …今、なんと…?」


「貴女の事が好きだと言ったのです、アリア嬢。」


「…はいっ?!」

 
 (は?!いつ?どこで??!なぜ?!?
どういうことですか?!何度も言いますがストーカーしてたんですよわたし、貴方の…!!い、いい、意味が分かりませんっっっ!!!)
 



 言葉にならない混乱に、頭がパンクしそうになっているアリアをよそにマリオは遠い目をしながら語り始めた。


 

「貴女は式典で出会ったのが初めてだと思っているようだけど、本当は違うんだ。
 ずっと前、王家主催の庭園パーティーがあった際に、君はリエール伯爵に連れられてそこに訪れていた。五年くらい前になるだろうか。」


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