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とりあえず逃げました(第一章~完~)
しおりを挟む遠い目をして子どもの頃城であった出来事を語り出したマテオに釣られるように、アリアはもうずっとずーーっと昔に忘れていた記憶の一部を思い出した。
(そういえば…)
王家の広い庭園で、あれは暖かくなり始めた確か春先のこと。男性主人公であるこの国の王子の誕生日パーティーがあり、同い年くらいの子ども達とその家族が招待されたことがあった。その中にアリアの家族もいた。
色とりどりの花が城の内外関係なく各所に咲き乱れ、あまりにも美しくて夢中で見て回っていたら、一緒に居たはずの両親とはぐれてしまって途方に暮れた。
何せかなり広いお城の庭である。迷路のように入り組んでいて、二時間ほど一人で彷徨ったけど出口も人も見つからず、しまいには疲れてベンチで眠ってしまった。起きたら父と馬車に乗っていて、こっぴどく怒られたことが。
「あの時、王の庭の奥で眠っている君を見つけたのが、ミカリエル王子と僕だったんだ。」
「王の庭…?!」
王の庭と言えば、その名の通り王族しか入れない特別な庭園だ。
どうやって入ったのわたし。
ちなみにミカリエル王子は男主人公No.1の名前である。
「道に迷って入り込んでしまったんだろうってことで、招待者の名簿から君の歳くらいの子どもを連れていている人物を探し出して、伯爵にお渡ししたんだよ。」
「そんな事が…。」
当時は、見つかった安堵からか父には居なくなったことを怒られてばっかりで、見つかった経緯などは詳しく聞いていなかったので、初耳である。
「僕はね、その時見た君に一目惚れしたんだ。花の中で眠る君は本当に妖精のようだった。だから、学園の花壇前で風に吹かれて佇む美しく成長した君を見つけて、僕は思わず声をかけてしまったんだよ。」
普段はそんなことないけど絶対にしないのに、とそう言うと、マテオははにかんだように笑った。
「だから、君が僕の事を少しでも気にしてくれるように、学年が違うのにわざと同じ校舎の廊下を歩いたり」
(…そういえば歩いてました。)
「目の前で物を落としてみたり」
(…たくさん落としてました…!)
「君がみている前で、目の前の机に僕色のハンカチを残してみたり」
(…残してました…!そしてそれ盗みました!!)
撒き餌にかかった魚かな?
もしかして、ストーカーをさせられていた?
いやそんな馬鹿な。そんな話があるわけないです。
「今日だって、僕色のドレスを君が着てくれることを事前に知っていた(なぜ?)から、こうやって君色のブローチをつけてる。」
「…ちょっと、待ってください。」
理解が追いつかず、アリアは混乱していた。
つまり?マテオはストーカーであるアリアのことが好き?え?どゆこと?
この先、主人公に会うのに?
あ。そうか。
会う前だからかーーーー!
そう言えば、物語の冒頭はアリアの気持ちばかりがピックアップされていて、マテオの気持ちは一切描かれていなかった。もちろん、物語の前に二人が会っているなんて知る由もない。
そうか、これは主人公に出会う前のアリアちゃんお疲れ様イベント(?)みたいなものなのかな、小説にもイベントってある?と少女はもはや混乱でよく分からなくなっている頭で取り敢えず納得した。
うん。帰ろう。ダメだ。これ以上は考えても分かりません。
「お気持ちは嬉しいのですが、わたしはこれ以上アレンデラス公爵令息様にご迷惑をおかけする訳にはいきませんので」
「そうだよ、マテオ。アリア嬢には近づくな。私も彼女のことが気に入ったんだ。」
「何を言っているんだリュシー!君は自国に婚約者がいるだろう?」
「婚約者なんていない。大臣達は早く決めろとせっついてくるが…。
そうだアリア嬢、貴女がなってくれないか?」
「…!滅相もございません!お戯れを!」
「そうだリュシー!彼女は僕のものだ!」
いやいや、あなた方両方とも主人公に恋をするのです!その相手はわたしでは、断じて!!ありません!!!!
美形二人に言い寄られている状況をどうしても現実のものだと受け止められず、アリアはじりじりと二人から離れると、そのまま「失礼致します!」と言い捨てて捕まる前に逃げ出した。
そのまま屋敷に帰り、侯爵令嬢と公爵令息、そして隣国の王太子に目をつけられたことを父親に正直に報告して、驚く父を何とかいいくるめて領地へと逃げ込んだ。
領地に向かう馬車の中でアリアはふと首を傾げた。
(わたしは逃げ…切れたんでしょうか?何かスッキリしない気持ちなのですが…??)
とりあえず、わたしはストーカーするモブ令嬢だったみたいです。
━━━━━━━━━━★
これにて第一部終了です。
ご拝読ありがとうございました(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”
続きまして、『ストーカー辞めました!物語から退出したのに、何故貴方達も退出してるんですか?』(改題)が、第二部として続きます。
引き続きお時間良ければ読んでやってください!
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