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そして1週間が過ぎた。
「あれ~?」
おかしい、イベントが何も起きないぞ?
この世界がゲームを踏襲しているのならば、王子が来ないまでも1週間も何も起きないというのはあり得ない。
天罪にも時間経過の概念はあり、それは『(島に来てから)○日目』という形で表される。
そして表されるからには、それがプレイヤーにも認識できるわけで、であるならば2日に1回くらいは何かしらの出来事が起こるはずなのだ。
でなければ1週間も日常パートのみプレイさせられるゲームの何が面白いのかという話だ。
「う~ん、何か忘れてるのかな?」
俺はベッドに転がり、天罪のゲームの流れを思い出す。

天罪日常パート。
食事当番2人、掃除当番2人、見回り2人、非番1人でローテーションを組んでいる囚人7人との交流をメインとしている。
このパートでは食堂、キッチン、物置、加工場、海岸、自室、廊下の7か所に行くことができ、そこにいる人物に話しかけると日常会話が発生する。
食事担当は食堂かキッチンに必ずいるが、他のメンバーにはどこで会えるかわからない。
また、出会ったメンバーとなにかしらのフラグが立っていればイベントパートに進むし、見回り組に声を掛ければ戦闘パートに進むことになる。
つまり日常パートが全ての起点となるわけだが、フラグがなければイベントパートには進まないし、見回り組に声を掛けなければ戦闘パートにも進まない。
その場合に限ってはただだらだらと日常会話を続けるだけになるが、意図しない限りそんな事態は起こらない。
そう思ったところで俺は気づいた。
あ、そういやフラグも立ててなければ戦闘について行ったこともねぇ!
本来大団円エンドに進むには毎日一緒に見回りをして魔物をネージュの一撃で倒さなければならないのだが、もうすでに戦闘をしていることがわかっているので俺は一緒に行く必要性を感じず、それこそだらだらと日常会話のみをしていた。
しかも現在の好感度がわからないから、あまり好感度に影響しないような会話しかしていない。
「うわマジか…」
そんな状態では何かが起きようはずもない。
俺は頭を抱えた。
こんなことなら戦闘パートくらいはやっておくべきだったかもしれない。
だがそれも好感度が上がってしまうのでなるべく避けたかったし、実は魔物100体討伐は裏技を使ってすでにクリア済みである。
それが油断であったことは否めないが、だからと言ってこの展開は予想できなかった。
さてどうするか。
それが疑問だ。
「とりあえず、昼寝でもしよ」
悩みに悩んだ俺は、現実逃避の道を選んだ。



『お前、またやらかしたな』
夢で俺はまたチーフに丸めた紙の束で頭を叩かれていた。
『この『王子ルートでスノーリット王国王城の宝物庫で宝珠を手に入れると全員のレベルがカンストする』っていう設定、必要か?』
チーフに叩かれた頭をさすりながら俺はその設定を思い出す。
よく見ればチーフが持っている紙の束は俺が3日前に渡した王子ルートの改稿シナリオだ。
『ああー、王子ルートはラスボス戦発生条件が『全員のレベルがMAXであること』だからその設定を入れました』
ちょっと前の記憶を思い出しながらの俺の説明に、チーフはため息を吐くと丸めた紙の束で今度は自分の肩を叩く。
『やっぱり。お前大団円ルートと設定混ざってないか?』
『え?』
チーフの言葉の意味がわからず、俺は疑問を音にする。
『王子ルートの条件は『低好感度で魔物100体討伐』だけだろ?ネージュだけで戦うわけじゃないんだから、そんな設定なくても全員普通に戦えるんだぞ』
『まあ、そうですね?』
俺に理解させようと噛み砕いた言い方をするチーフの言葉に一応頷く。
ただまだチーフの言わんとしているところを理解してはいない。
『なら日常パートの会話で好感度下げる選択肢を選べば、低好感度でもレベルMAXにできるだろ』
全くお前は、とため息混じりに吐かれたそのチーフの言葉を理解するのに数秒を要した。
そして理解した俺は何も言い返せなかった。
確かにわざわざ楽な道を用意しなくても、プレイヤーの努力で補える箇所だった。
むしろ「必死でレベル上げしてきたのにこんなの興醒め」と言われかねないところだ。
なんてことだ、考え過ぎていらない設定を増やしてしまっていたなんて。
『大団円と違って王子ルートは発見できるプレイヤーがいるだろうからな。こっちはしっかり詰めてくぞ』
チーフはそう言うと俺の肩を抱き、コーヒーを買って来るようと命じるのだった。
イラついてはいないが疲れてはいそうなので、今日は微糖にしておこうと思った。
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