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ハーピスと別れた後、俺は部屋でベッドに寝転がりながら一人考えていた。
どうにかして今からドクトをこちら側に付かせられないかと。
彼は妹の件さえなければ敵にならないし、ゲームでもラスボス戦に行く前に妹を救出すれば完全にこちらの味方となる。
だから味方にさせることが難しいわけではないはずなのだ。
ただ、監獄島から動けない今の状況ではどう足掻いても妹の安全を確約できない。
そこが説得のネックとなってしまう。
さらに問題なのが、どうやってそのことを話すかだ。
彼を盗聴の範囲外である島の最西端まで側妃にバレることなく誘導することは、非常に難しい。
ハーピスのように向こう側から近づいてきてくれればいいのだが…。
「…ん?」
そこまで考えた時、俺はがばりと起き上がった。
これだ、と思った。
こちらから声を掛けるのが難しいのならば相手が来た時に誘導すればいいのだ。
ハーピスの情報によれば、ドクトは何日か毎に俺の部屋の前まで来ているらしい。
ならば夜、ドクトが部屋の前にきたら声を掛けよう。
いや、声を掛けてしまうと盗聴されるな…。
「あ、そうだ」
名案を思い付いたと俺は机に向かい、インク壺とペン、紙を数枚用意する。
声を出せないのなら言いたいことを予め紙に書いて、それをドクトに見せればいいのだ。
策が決まればいつでも実行できるようにしておかなくてはと、俺は早速ペンを走らせた。

結局その日の夜にドクトは訪れず、翌日も、その翌日にも来なかった。
彼が現れたのは計画を立ててから4日目の夜で、毎晩今か今かと待っていた俺は寝不足だった。
ハーピスに何時に現れるのかくらい聞いておけばよかったと気がついた、正にその瞬間に外から人の足音が微かに聞こえたため、寝不足による不機嫌と「今来んのかよ」という苛立ちでちょっとだけ態度が悪かったかもしれないと冷静になった後の俺は反省することになるが、今はまだその時ではない。
つまり何が言いたいかといえば、機嫌が悪かった俺は初っ端から軽くケンカ腰だった。
4日前に用意した紙を丸めて捨てて別の紙にペンを走らせた後、バンッと勢いよく外開きの部屋の扉を開き、それにぶち当たったドクトが「っつぁ!!?」と言う呻きを上げるのにも構わず先ほど書き殴った紙をその鼻先に突きつけた。
『話があるから黙ってついてきて』
そう一言だけ書いた紙を呆気にとられた表情で見つめるドクトのおでこと鼻は赤くなっていた。
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