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手紙にはこう記されていた。
『修道女が始末できる状況になってから半月程経ちましたが、貴方は一向にあの女を殺そうとしていませんね。
むしろ致命傷となるはずだった傷を癒し、暗殺するのに絶好の機会となる魔物討伐への参加に反対した。
これは一体どうしたことでしょう。
よもや、妹の命よりもあの女の方が大事だなどとは言わないでしょうね?
もう1週間だけ猶予を与えますから、今度こそちゃんと実行なさい。
自分にとって大事なものがなんなのか、今一度よく考えることです。
後悔だけはしないように。』
「……これは」
明らかに側妃からの催促状だ。
名前が書いてあるかどうかなんて問題じゃない。
この世界の根幹となっているゲームの主人公である俺を殺したい人間なんて、この世界には1人しかいないはずなのだから。
「側妃って気が短いなぁ。ネージュが来てからまだ半月だろ。どんだけ殺したいんだよ」
俺と同時に手紙を読んだハーピスもこの内容にはドン引きのようだ。
元々悪感情を持っている相手の嫌なところをまざまざと見せつけられれば、汚物を見るようなその目も仕方ないと思える。
俺はむしろ今後1週間さらに待ってくれるという言葉に意外な寛容さを見たと思ったが、同じものを見ても感じ方は人それぞれだ。
「…私は貴女の味方になると決めていました」
ハーピスと2人、側妃からの手紙を読み終え、その内容に顔を見合わせているとドクトが小さな声で語り出した。
悲愴なその表情に、彼の2日間の苦悩が窺える。
「けれど妹が…、ナナリーが、私の手の届かないところで殺されようとしている…」
彼は顔を手で覆い、苦悶の声を上げながら、しかし涙は見せずに語り続ける。
「私にはナナリーを見殺しにはできない。かと言って貴女を害する気は毛頭ない。一体、どうすれば…」
ドクトは深く、深く息を吐き出し、縋りつくようにこちらを見上げた。
どうすればいいかだって?
そんなの、俺にも皆目見当がつかない。
俺はただ王城でのドクト裏切りシーンで「何度も催促したが、この男は一向にお前を殺そうとしなかった」と側妃に言わせただけだったから。
まさかその一言の影に、こんなにも苦悩し、苦しんでいるドクトがいたなんて。
ドクトの言葉に何も言い返せないでいる俺とドクトが無言で見つめ合う。
彼は明らかに俺に助けを求めている。
こんな状況になっては、味方につけるとかでなく、単純に仲間として彼を助けたい。
でも方法が思い浮かばない。
悩む俺に、同じように黙って立っていたハーピスが突然口を開いた。
「なら、魔物退治にかこつけて、ドクトがネージュを襲えばいいんだよ」
簡単なことでしょ?と、事も無げに放たれたその言葉に、俺とドクトはまたも言葉を失うのだった。
「襲えばいいとは言いますが、そんなことをしたらドクトが他の皆に誤解されてしまいませんか?」
ハーピスの言葉に俺は疑念を口にする。
確かに盗聴されているこの状況なら、襲われていると取れる音さえ出せれば問題はないのだが、如何せんそれを出すのが難しい。
ドクトもそう思って俺に相談しに来たのだろう。
しかしハーピスは「ちっちっちっ」と得意げに人差し指を振った。
「他の奴らにバレなきゃいいんだよ。ドクトとネージュと、俺が行けばいいんだ」
言い終えるなり腰に手を当てドヤァと見事なドヤ顔を披露する。
これで何も問題ないと。
けれどこちら側からすればこの理論には穴がある。
「いえ、私が戦闘に参加する時はドクトとグランプかドーパが一緒に行くことになっているでしょう?」
あれはお前の発案だろうと思いながら、俺はそれを実行できないのではと彼に言う。
一度通した無理を曲げて再度通すのはかなり難しいことだと。
しかしハーピスはまたも指を振ると「大丈夫だよ」と言う。
「明日の午前の見回りだけ代わってもらうことにするから。言い訳は俺に任せておいて」
彼はパチンとウインクすると、準備をするからと先に施設へ戻って行った。
ウインクほとんど見えてねーよとか、振ってる指へし折りたいとか色々思うことはあったがとりあえず、あいつ仲間にしといてよかったなと俺は思った。
何も思いつかなかった俺よりもよっぽど役に立っている。
『修道女が始末できる状況になってから半月程経ちましたが、貴方は一向にあの女を殺そうとしていませんね。
むしろ致命傷となるはずだった傷を癒し、暗殺するのに絶好の機会となる魔物討伐への参加に反対した。
これは一体どうしたことでしょう。
よもや、妹の命よりもあの女の方が大事だなどとは言わないでしょうね?
もう1週間だけ猶予を与えますから、今度こそちゃんと実行なさい。
自分にとって大事なものがなんなのか、今一度よく考えることです。
後悔だけはしないように。』
「……これは」
明らかに側妃からの催促状だ。
名前が書いてあるかどうかなんて問題じゃない。
この世界の根幹となっているゲームの主人公である俺を殺したい人間なんて、この世界には1人しかいないはずなのだから。
「側妃って気が短いなぁ。ネージュが来てからまだ半月だろ。どんだけ殺したいんだよ」
俺と同時に手紙を読んだハーピスもこの内容にはドン引きのようだ。
元々悪感情を持っている相手の嫌なところをまざまざと見せつけられれば、汚物を見るようなその目も仕方ないと思える。
俺はむしろ今後1週間さらに待ってくれるという言葉に意外な寛容さを見たと思ったが、同じものを見ても感じ方は人それぞれだ。
「…私は貴女の味方になると決めていました」
ハーピスと2人、側妃からの手紙を読み終え、その内容に顔を見合わせているとドクトが小さな声で語り出した。
悲愴なその表情に、彼の2日間の苦悩が窺える。
「けれど妹が…、ナナリーが、私の手の届かないところで殺されようとしている…」
彼は顔を手で覆い、苦悶の声を上げながら、しかし涙は見せずに語り続ける。
「私にはナナリーを見殺しにはできない。かと言って貴女を害する気は毛頭ない。一体、どうすれば…」
ドクトは深く、深く息を吐き出し、縋りつくようにこちらを見上げた。
どうすればいいかだって?
そんなの、俺にも皆目見当がつかない。
俺はただ王城でのドクト裏切りシーンで「何度も催促したが、この男は一向にお前を殺そうとしなかった」と側妃に言わせただけだったから。
まさかその一言の影に、こんなにも苦悩し、苦しんでいるドクトがいたなんて。
ドクトの言葉に何も言い返せないでいる俺とドクトが無言で見つめ合う。
彼は明らかに俺に助けを求めている。
こんな状況になっては、味方につけるとかでなく、単純に仲間として彼を助けたい。
でも方法が思い浮かばない。
悩む俺に、同じように黙って立っていたハーピスが突然口を開いた。
「なら、魔物退治にかこつけて、ドクトがネージュを襲えばいいんだよ」
簡単なことでしょ?と、事も無げに放たれたその言葉に、俺とドクトはまたも言葉を失うのだった。
「襲えばいいとは言いますが、そんなことをしたらドクトが他の皆に誤解されてしまいませんか?」
ハーピスの言葉に俺は疑念を口にする。
確かに盗聴されているこの状況なら、襲われていると取れる音さえ出せれば問題はないのだが、如何せんそれを出すのが難しい。
ドクトもそう思って俺に相談しに来たのだろう。
しかしハーピスは「ちっちっちっ」と得意げに人差し指を振った。
「他の奴らにバレなきゃいいんだよ。ドクトとネージュと、俺が行けばいいんだ」
言い終えるなり腰に手を当てドヤァと見事なドヤ顔を披露する。
これで何も問題ないと。
けれどこちら側からすればこの理論には穴がある。
「いえ、私が戦闘に参加する時はドクトとグランプかドーパが一緒に行くことになっているでしょう?」
あれはお前の発案だろうと思いながら、俺はそれを実行できないのではと彼に言う。
一度通した無理を曲げて再度通すのはかなり難しいことだと。
しかしハーピスはまたも指を振ると「大丈夫だよ」と言う。
「明日の午前の見回りだけ代わってもらうことにするから。言い訳は俺に任せておいて」
彼はパチンとウインクすると、準備をするからと先に施設へ戻って行った。
ウインクほとんど見えてねーよとか、振ってる指へし折りたいとか色々思うことはあったがとりあえず、あいつ仲間にしといてよかったなと俺は思った。
何も思いつかなかった俺よりもよっぽど役に立っている。
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