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「じゃあ次は問題の物理攻撃無効化だけど、どうやろうか」
ハーピスはまた懐から紙を1枚取り出すと「ドライ」と唱えて、あっという間に2人を乾かしてしまった。
そしてなんでもなかったかのように作戦を進める。
そう言えばこいつが掃除当番の時は簡単な魔法を使ってちゃちゃっと終わらせていた。
恐らく洗濯の時なんかは今の魔法で服を乾かしていたのだろう。
すごく便利で羨ましい。
そう思いながら2人を見ていたが、そこでふと気になった。
「あの、物理攻撃って具体的にどんなものが対象になるんですか?」
RPGのゲームなどでよく見かける設定だが、では具体的に何を指すのかと問われても俺は答えられないだろう。
例えば魔法で出した水を今の俺に掛ければ魔法無効に弾かれるが、海から掬い取ってきた水を俺に掛ければどうなるのか、やってみなければ俺には結果がわからない。
魔法の水と海水の差が何なのかを知らないからだ。
「ああ、その定義って難しいよね」
ハーピスはポンと手を打つと、
「めんどくさいから、魔法で発動された攻撃以外で対象者に向かってくるもの全てを弾くようにって術式には入れたけど」
事も無げにそう言ってのけた。
ちなみにこれは対盗聴用の発言であり、実際の結界魔法には『対象者へのありとあらゆる攻撃を跳ね返す』というトンデモ機能を組み込んだそうだ。
対盗聴用の設定ですら上級魔術師にもできないというのに。
天才揃いの一族の中で天才と呼ばれる男の恐ろしさよ。
「では私がネージュに向かって軽く砂を投げつけるだけでも発動はするのですね?」
ハーピスの説明を聞いて理解したドクトが訊ねれば、彼は「そーだよ」と答えた。
「ただ、それだと攻撃が小さすぎて理解できないかもしれないから、投げるなら石とかの方がいいかもね」
そして俺の身を危険に晒した。
「ええっと、それって、発動しなかった場合、けっこう、痛い、ですよね?」
思っていたよりも危険度が高そうな提案をしてきたハーピスに、俺はつい恐々と確認してしまった。
だって石って、もしほんとに発動しなかったら痛いじゃん!!
若干顔を青褪めさせた俺に、ハーピスは笑いかけると、
「大丈夫、その時は念のため持ってきたポーションで治してあげるから」
と言って懐から今度は回復薬を取り出して振って見せた。
…彼の懐は4次元なんちゃらなのだろうか。
「そもそも安全な場所を狙いますから、そんな大怪我をする心配はありませんよ」
それについ地で答えてしまったのだろう、ドクトが両手を振りながら焦った様子でそう言う。
だがその発言はいただけない。
何故なら彼は俺を殺すよう側妃に命じられているのだから。
『最初から安全な場所しか狙う気はない』と明言してしまっては、ドクトに俺を殺す気がないと取られかねない。
そんなことになればナナリーの命は保証されないというのに。
俺とハーピスがじっと彼を見つめれば、自身の発言の意味に気がついて、声に出さず「あ」の形に口を開けた。
「……医者であるあなたの知識を信じますね」
「そうだね。ドクトなら大丈夫だよ」
「…ええ、私を、信じてください…」
俺とハーピスがフォローのために言葉を次げば、ドクトは若干顔を青くして肩を震わせながら話を合わせてきた。
これでドクトの発言が『信じさせて油断させるために言った言葉』だと側妃が思ってくれればいいのだが。
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