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「ネージュ、もういいよ」
そう声を掛けられた俺はそっと目を開けた。
すると目の前には涙を湛えた紺色の大きな瞳が4つ。
「おねーちゃーん!!」
「うわっ!?」
その持ち主たちは俺が目を開けると同時に懐に飛び込んできた。
彼らの狼狽えぶりは聞こえていたが、やはり相当堪えていたようだ。
そして事情を知らされていなかったグランプとドーパもほっとした表情で俺を見ていた。
「心配かけてごめんなさい」
そう言って笑いかければ、2人も笑ってくれた。

バッシル提案の移送は王子の一言で承認され、すぐにバタバタと施設中を駆け回る足音と様々な声が飛び交った。
「間違いなく全員に手錠をかけたな!?」
「はっ!大きい囚人2名には念のため二重にかけております!」
「よしっ!」
恐らくグランプとドーパのことだろう、そんな報告が俺のすぐ傍で行われていた。
「このご遺体はいかがしますか」
作業開始時から俺の横に司令塔である兵士がいるようで作業内容の確認が全て聞こえていたが、とうとう俺が運ばれる番が来たらしい。
バレないように気を引き締めねばと思っていると、
「後で魔法を使える囚人が運ぶそうだ。遺体とはいえ探していた殿下の元婚約者だからな、決して触れるなよ?」
と指令役の兵士が答える。
俺が心配しなくても彼らは上手く誤魔化してくれているようだ。
俺は安心してハーピスを待ち、間もなくやってきた彼の浮遊魔法でこのベッドに移動させられた。
そして船が出航して体感30分、実際10分程度で王子が監獄島にいた囚人全員を連れてこの部屋へ来て今に至る。
それにしても状況的に仕方がなかったとはいえ、何も説明しないままここまで連れてきてしまった4人には申し訳ないことをした。
そしてその4人に殺人犯とされていたドクトにも。

「では初めから説明していただけますか?」
須藤君は全員が落ち着いた頃を見計らって俺に水を向ける。
全ての事情を知っているのはハーピスとドクトも同じだが、ベッドに座る俺の周りに皆がいる位置関係上、俺が話すのがいいと思ったのだろう。
ちなみに俺の両隣に双子が座り、向かい側で須藤君が椅子に座っている他は全員が壁際やテーブルの周りに立っている。
「わかりました。ハーピスとドクトは適宜フォローをお願いします」
全員を見回した俺は2人に頼み、頷きが返されたのを確認してから事のあらましを頭の中でまとめる。
王女であることは既にバラされているがそれも含め最初から説明しようと俺は口を開いた。
「まず、殿下が仰っていた通り、私はブランシュ・ネージュ・ミレ・スノーリット。この国の第一王女にして正妃ジツィーの唯一の子です。そのため正妃が亡くなった際、側妃マーマハに邪魔者と判断され修道院に送られました」
俺は気を落ち着けるために一度ふう、と息を吐き、続きを話す。
「側妃は今でも私のことを邪魔に思っています。けれど修道院で私を害するようなことが起きれば事情を知っている大司教様に疑われてしまう。けれど監獄島で囚人に殺されたとなればそれは不幸な事故とされると考えたのでしょう。だからドクトのいるこの島に私を送ったのです」
俺がそこまで話した時、グランプが「なあ」と割って入ってきた。
「なんでそこでドクトが出てくるんだ?」
まずは口を挟まずに説明を最後まで聞いてほしかったが、その質問はこれから説明しようと思っていた部分だったので俺は答えることにした。
ドーパはあの場で聞いていたが、他の3人への説明では『ドクトがネージュを殺した』しか説明してなかったし、ドクトのためにも丁度いい。
「ドクトにはナナリーさんという妹がいます。彼女は現在側妃付の侍女として働いていますが、その命を盾にされて私を殺すよう命じられたのです」
「「ええっ!?」」
その答えに驚きの声を上げたのはナナリーの知り合いでもある双子だった。
「なっちゃんがそんなことに…」
「侍女になれるってあんなに喜んでたのに…」
俺の左右でしゅんと項垂れる。
知り合いである分だけ彼女の命の危機を身近に感じたようだ。
「それで、そのことに気がついた私は逆にドクトを味方につけようと考え、彼に事情を説明しました。また、同時期にハーピスにも事情を話していたので、3人で一芝居打って側妃を騙し、ナナリーさんの身の安全を図ろうとしました。それが今回の騒ぎです」
巻き込んでしまってすみませんと説明の最後に頭を下げる。
人命優先とはいえ、色んな人を騙していたことに変わりはないのだから。
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