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「な、何を聞けと言うのです!?」
側妃は青褪めたまま、しかし気丈に立ち上がり、手に持つ扇で俺を差す。
その扇の先はカタカタと定まらず、こちらを睨みつける目には憎悪と恐怖が混在していた。
「そうですね。まずは私が知っている貴女の行いについて、ここで明らかにいたしましょう」
俺がこれから言うことを正しく理解してもらうためには何故こんなことになり、何故俺がここにいるのかについて、全員の認識を一致させる必要があるだろう。
俺はくるりと振り向き、ドクトを見る。
彼は自分が呼ばれたのだと理解し、俺の元まで来るとその場に跪いた。
「私は先日修道院から彼らが収監されている第9監獄島へ行くよう辞令を受けました。するとそこには盗聴装置が設置されていた他、私を殺すよう貴女から指示されたというこのドクトが収監されておりました」
俺がそう言った瞬間、ざわりと空気が震えるようなざわめきが広間に広がる。
それまで黙っていた十数人の、恐らく国の重鎮と思われる貴族たちが発したその声はすぐに静まったが、その視線は強く側妃に注がれることとなった。
「彼は妹の命を人質に取られ命令に逆らえなかったものの、かと言って実行することもできず、深く思い悩んでいました。そのことに気づいた私はドクトと、そこにいるハーピスにも協力を仰ぎ、貴女の作戦が上手くいったように見せかけ、数奇な巡り合わせから運よく事が運び、本日島を脱出いたしました」
側妃は俺の声に促されるようにドクトを、次いでハーピスを見る。
するとぎょっと目を見開き、
「お、お前、エルフだったの!?」
顔を隠すことを止めた彼のヘーゼルの瞳を見て側妃はすぐに彼がエルフだと気づいた。
自身が迫害して奴隷にせよと命を出すほどに忌避するエルフだと。
「ああ、近寄らないで。私の傍に来ないで!!」
側妃は扇で顔を隠し、逃げるように椅子の後ろへ隠れる。
カタカタと、先ほどよりも震え、一向に顔を上げようとしない。
わからない。
彼女はエルフの何をそこまで恐れるのか。
そこまで詳しく設定には書かなかったから。
そのことを後悔しながら、けれどハーピスには悪いが今はそれを後回しにする。
「お義母様、貴女はその前にも私を陥れましたよね。私が修道院に入れられたのは貴女の指示でした。貴女が側妃となって間もない時でしたか、貴女は私を気遣うふりをして私を修道院に追いやった」
続く俺の言葉にも周りから「なんと…」「そんな」「何故」などの言葉が聞こえる。
どうやら誰も側妃が俺を陥れるために修道院に送ったとは思っていなかったらしい。
それはそれで大丈夫なのかこの国…。
俺は一抹の不安を覚えながらもそれも後回しで、とりあえず伝えるべきことまで話を進めなくてはと先を急ぐ。
「さらにもう一つ、監獄島に行ってから一度暗殺者に襲われ我が身を刺し貫かれました。ドクトのお陰で一命を取り留めましたが、彼やグランプが駆けつけてくれなければ私は今ここにいなかったでしょう」
そして俺が彼女の最後であり最大の罪状を口に出せば、辺りは蜂の巣を突いたような騒ぎになる。
ドクトのことは命令を出してはいたが未遂で終わっているため実害はない。
修道院送りについても命を脅かしたわけではないのでまだ許される。
しかしこの暗殺事件だけは別なのだ。
明確に俺を害し、死の淵に追いやった。
王家直系の血を持つ俺を、王家傍流でしかない側妃が害した。
王政国家において、これは国家反逆罪に問われてもおかしくない程の罪になりえる。
「お義母様、いえ、側妃マーマハ様、これが私に対して貴女が行ったことです」
俺はそう言い、改めて側妃を見る。
椅子の後ろで震える彼女に、果たしてどこまで俺の声は届いているのだろうか。
ここからでは表情が見えないから、彼女が今何を考えどう思っているのか、推察することは難しい。
「マーマハよ、今の話は本当か?」
俺の話が終わると見るや、国王は気色ばんだ様子で側妃に問う。
最愛の妃の大切な忘れ形見に対して彼女がとった行動は国王にとって許せるものではないはずだ。
まして彼には正妃を愛するあまり側妃を愛せないという設定があった。
「へ、陛下…」
側妃は国王の声にようやく顔を上げ、椅子の後ろから出て来た。
その顔にはこの数分が数十年だったかのような翳りが見え、強気だった声はか細く掠れている。
「釈明くらいは聞いてやろう。ここへ来なさい」
いつまで国王を見下ろすつもりかと言外に含まれる視線は冷たく、より彼女を委縮させたはずだ。
それでも国王の命令には逆らえない。
彼女はゆっくりと階段を降り、俺と国王の前で頽れた。
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