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「陛下、貴方は側妃様に支えられ、助けられていた部分があることに気づいていらっしゃいますか」
俺は再度視線を国王に戻し、彼に訴える。
「正妃様がお産みになったのは女児である私だけ。ですが王女では王位を継げない。それがこの国のルールです」
大団円ルートでは側妃の断罪の結果、王家の血を継ぐ者がネージュしかいなくなったため王継となれたが、本来はこの国で女王は認められない。
「だから貴方は側妃様との間に王子を儲けられた。そしてもしもの時のために第二王子も」
言い方は悪いが、王族は後継者のスペアとして男児を2人以上誕生させるのが常だ。
王族の血を絶やさないためにも、それは必要なことでもある。
「そして国交の駒としての王女も同時に一人得ている」
さらにもう一つ大切な、諸国との結びつきを強くするための政略結婚の駒。
万が一私がそのまま使えなくても困らないように王女がもう一人いれば安泰であるが、ガイルとティアナが男女の双子だったことでそれは一気に解決していた。
「そう、すでに必要な駒は揃っていたのです」
それでは、これはどういうことだろうか。
「では、第三王子はなんのために儲けられたのでしょうか。第一王子、第二王子ともに健康で何の心配もないのに、諍いの種にもなりかねない第三の王子を、貴方は何故儲けられた?」
そこではっとした人間は何人いただろうか。
その意味に気がつかなかった人間の数よりは少ないだろう。
「私は先ほどからずっと陛下は側妃様を心から愛せなかったと申し上げてきました。しかし私は本心ではそう思っておりません」
俺は国王に真意を問うが如く目に力を込める。
「貴方は側妃様を確かに愛した。正妃様と同じ形ではなかったけれど、それでも何もなかったわけではないはずです」
でなければ第三王子など、生まれてくるはずがないのだから。
国王はまだ感情を見せない。
「まして世継ぎをなす大役をこなし、貴方から愛されないと感じている中でも王子と王女を育てられた側妃様を、どうして責められましょうか」
凪いだ湖面のような瞳はただ美しく、目の前に立つ俺を映している。
「……どうして」
すると俺の横から声がした。
それはずっと泣いていた側妃のものだった。
「どうして貴女が私を庇うの?どうして私の苦しみを理解してくれるの?どうして、私を助けてくれるの?」
俺の目を見るために上げられたその顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。
化粧は落ち、瞼も腫れ始めていたが、それでも彼女の美しさは損なわれることはなかった。
むしろ翳りが晴れて憑き物が落ちたようなその様子は、彼女に本来の美しさを取り戻させつつある。
「庇っているわけではありません。ただ、事実を述べているだけです」
まるで無垢な少女のように俺を見る側妃に、安心感を与えようと俺は微笑む。
「貴女は側妃という輝かしい立場にありながら、実際には長年不遇を余儀なくされた。誰だってそんな状況なら、魔が差すこともあるのではないでしょうか。私にはそれが悪いとは思えませんし、罪に問おうとも思いません」
貴女は少しやりすぎてはいましたが、と付け加えれば、側妃は顔を顰めた。
「だって、淋しかったの。陛下は一度だって私に愛を口にしてくれなかった。悔しかったの。いつまでもあの人の心の中に別の女が居続けるのが。そして、虚しかったの。誰からも愛されない私の人生が」
一度は止まっていた涙が再び流れ出す。
それはずっと誰にも言えなかった、彼女の本心。
「私はなんのためにいるのかわからなかった。王族の血を残せればそれで用済みなの?それに陛下は王子たちのことも愛してくださらなかった。何故?私が産んだ子だから?あの女が産んだ子ではないから?」
彼女は俺に縋るようにしがみつく。
「そう思えばあの女にまつわる全てが憎かった。貴女のことも、陛下のことでさえ。だから私は陛下から貴女を遠ざけ続けた」
そんな貴女が一番の理解者だなんて、因果なものね。
側妃はそう言うと立ち上がり俺を抱きしめる。
「ごめんなさい、貴女は悪くないと、わかってはいたの。でも、止められなかった。生き残ってくれてありがとう。会いに来てくれて、ありがとう」
彼女はそれだけ言うと国王に向き直り、
「陛下。ブランシュが明かした私の罪、その全てを認めます。私は妃としても母としても間違ったことをしてしまった。心より悔い、如何なる罰でも受け入れる所存です」
そう言って深々と頭を下げた。
沈黙は数瞬。
けれど体感では5分にも10分にも感じた。
「…よい。面を上げよ」
国王は力が抜けたように息を吐くと側妃に声を掛ける。
しかし先ほどまでとは違い、そこに冷たさはない。
「ブランシュの言う通り、私はお前を蔑ろにし過ぎたな。許せとは言わぬが、謝罪を聞いてはもらえないだろうか」
側妃はそんな言葉を掛けてもらえると思ってもいなかっただろう。
俺も思っていなかった。
顔を上げた側妃と横を向いた俺が見たものは、
「お前を愛してしまえば、ジツィーを裏切るような気がして認められなかった。だがあれがいなかった心の隙間を埋めてくれたのは間違いなくお前だった。そして私は何も言わずそれに縋ってしまったばかりか、それを隠すようにお前に冷たく当たってしまった」
本当にすまなかった、と穏やかな顔で側妃を見る国王の姿だった。
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