7 / 9
6
しおりを挟む
父が残したコーヒーサロンも、新しく開始した女学生向けの喫茶店も好調であった。
ジュリアはそれぞれ一定間隔で監督していたが問題なく運営できていた。
全ての店を1日で回るのは難しいけど、信頼できる部下がいて何とかなっている。
父からの代からいた社員からの報告を受けながら、ジュリアは次の計画を練った。
店舗拡大をしたいけど、今のままをしっかりとするのも大事だから悩むわね。
飲食品を扱うから衛生概念についても最新の情報を押さえる必要があり、その教育にも時間はかけないといけない。
安全面についても見直さなければならない。
客が増えると予期せぬトラブルも起きえる。
コーヒーサロンは男性スタッフが多いが、女学生向けの喫茶店は女性スタッフがメインである。万が一の対処、暴力沙汰に関しての対策がまだ不十分に感じられた。
「大丈夫ですよ。ロランの客層は治安がよいですし」
安心させるようにニーナがいうが、ジュリアは引っかかりを覚えた。
こういう時の自分の勘は嫌になるほどあたるのよね。
そして事件は起きた。
いつもの営業時間、学校の授業が終わり学生たちが喫茶店レディーロランに寄っていた。
新作のスイーツやコーヒーに令嬢たちは目を輝かせていた。
もう彼女たちの間でコーヒーへの忌避感は感じられない。
端の方では教師たちもリラックスして本を読んだり、論文を読んでいた。助手にもご馳走をしている様子にジュリアは満足げに微笑んだ。
カラン。
客が来たが、その雰囲気にジュリアは警戒した。
エリザベス学園の生徒でも、教師でもない。
粗野な印象を持った男3人組であった。
「おいおい、なんだよ。女がコーヒーなんて飲んで恥ずかしくないのか?」
わざと大声で張り上げて客たちはしんとした。
ジュリアはさっと彼らの前へ出た。
「ここでは紳士淑女関係なく楽しむ憩いの場です。紅茶もコーヒーも楽しんでいただけるようにしており」
「女なら紅茶だろ! お高く止まって気持ち悪い」
その時に入り口付近に置いているアロマをわざと振り払い、コーヒー豆が入った瓶は床に落ちる。それをぐしゃと踏みつけてガラスの割れる音がした。
ジュリアはカチンとした。
「女性がコーヒーを飲んではならないと誰がお決めになりましたか?」
少なくとも今この国では誰でもコーヒーを楽しめる。
「王妃殿下もサロンでコーヒーを出されていますよ」
数日前に話題になったことをジュリアは語った。
「あんな野蛮な北女なんて参考にならねえよ!」
男はげらげらと笑った。
フラン王妃の母国、ノリア帝国に対する蔑称を口にするなんて。
昔は色々あったのは事実だけど、今は我が国の大事な同盟国である。
ジュリアからしたら色々と複雑な相手であるが幼い頃に異国の王妃になったのはどれだけの苦労か計り知れない。
昔は幼い面はあったが、今は両国の橋渡しを懸命にしているのがわかる。
彼女を野蛮な北女と蔑称するのは許せない。
既に彼らは客ではない。
「今の不敬な言い方は聞かなかったことにしますので、おかえりください」
淡々と告げるが男たちは笑い続けた。
「可愛げのない女。コーヒーばっかり飲んで行き遅れたんだろ」
「俺たちは客だぞ? コーヒーを飲ませてくれよ」
男の一人がジュリアの肩に触れた。
ジュリアはぱしと、その手を払った。
「あなた方はお客様ではありません。おかえりください」
ジュリアは毅然という。
「ダメだよ。店員さん、愛想良くなきゃ。そうしなきゃ男がよってこないよー」
その言葉にジュリアははっと笑った。
「あなた方に好かれたくないので結構です」
それが挑発にとれたのか、男はジュリアに殴りかかろうとした。
ジュリアは目をぎゅっと瞑った。
殴ったら殴ったで裁判起こして徹底的に追い詰めてやる!
そう思いながら痛みに耐えようとしたが、痛みがこない。
目を開けると、ジュリアを庇いながら男の拳を握りしめたアベルがいた。
「あ、アベル様?」
どうしてここに。
着ている服は身分低めのもの。先程端で教師がコーヒーを振る舞った助手の服だった。
「お前たち、今誰を殴ろうとした?」
瞳が血走っていて怖い。
男たちも思わずたじろいだ。
「いや、俺たちは何も」
「今彼女に殴りかかろうとしていただろう」
アベルは手を捻り男を締め上げた。
「いてて、ちょっとただの冗談ですよ」
何とか取り繕うとするが、アベルの目は笑っていない。このままだと骨をおられるかもしれない。恐怖が湧き上がり男は謝罪した。
「す、すみません! ちょっとここで騒いで客を減らすように指示を受けました」
やはりライバル会社からの嫌がらせだったようだ。
ジュリアは彼らの前にたつ。
「どこのお店です?」
「それは言えな……あてて、言います。言います!」
男の情けない声から出た名前にジュリアはため息をついた。
「まぁ、アガリア伯爵じゃないですか?」
入り口から現れたのは息切れしているアルマであった。後ろには彼女の護衛が控えている。
どうやら騒動を聞きつけて駆けつけてくれたようだった。
ジュリアはそれぞれ一定間隔で監督していたが問題なく運営できていた。
全ての店を1日で回るのは難しいけど、信頼できる部下がいて何とかなっている。
父からの代からいた社員からの報告を受けながら、ジュリアは次の計画を練った。
店舗拡大をしたいけど、今のままをしっかりとするのも大事だから悩むわね。
飲食品を扱うから衛生概念についても最新の情報を押さえる必要があり、その教育にも時間はかけないといけない。
安全面についても見直さなければならない。
客が増えると予期せぬトラブルも起きえる。
コーヒーサロンは男性スタッフが多いが、女学生向けの喫茶店は女性スタッフがメインである。万が一の対処、暴力沙汰に関しての対策がまだ不十分に感じられた。
「大丈夫ですよ。ロランの客層は治安がよいですし」
安心させるようにニーナがいうが、ジュリアは引っかかりを覚えた。
こういう時の自分の勘は嫌になるほどあたるのよね。
そして事件は起きた。
いつもの営業時間、学校の授業が終わり学生たちが喫茶店レディーロランに寄っていた。
新作のスイーツやコーヒーに令嬢たちは目を輝かせていた。
もう彼女たちの間でコーヒーへの忌避感は感じられない。
端の方では教師たちもリラックスして本を読んだり、論文を読んでいた。助手にもご馳走をしている様子にジュリアは満足げに微笑んだ。
カラン。
客が来たが、その雰囲気にジュリアは警戒した。
エリザベス学園の生徒でも、教師でもない。
粗野な印象を持った男3人組であった。
「おいおい、なんだよ。女がコーヒーなんて飲んで恥ずかしくないのか?」
わざと大声で張り上げて客たちはしんとした。
ジュリアはさっと彼らの前へ出た。
「ここでは紳士淑女関係なく楽しむ憩いの場です。紅茶もコーヒーも楽しんでいただけるようにしており」
「女なら紅茶だろ! お高く止まって気持ち悪い」
その時に入り口付近に置いているアロマをわざと振り払い、コーヒー豆が入った瓶は床に落ちる。それをぐしゃと踏みつけてガラスの割れる音がした。
ジュリアはカチンとした。
「女性がコーヒーを飲んではならないと誰がお決めになりましたか?」
少なくとも今この国では誰でもコーヒーを楽しめる。
「王妃殿下もサロンでコーヒーを出されていますよ」
数日前に話題になったことをジュリアは語った。
「あんな野蛮な北女なんて参考にならねえよ!」
男はげらげらと笑った。
フラン王妃の母国、ノリア帝国に対する蔑称を口にするなんて。
昔は色々あったのは事実だけど、今は我が国の大事な同盟国である。
ジュリアからしたら色々と複雑な相手であるが幼い頃に異国の王妃になったのはどれだけの苦労か計り知れない。
昔は幼い面はあったが、今は両国の橋渡しを懸命にしているのがわかる。
彼女を野蛮な北女と蔑称するのは許せない。
既に彼らは客ではない。
「今の不敬な言い方は聞かなかったことにしますので、おかえりください」
淡々と告げるが男たちは笑い続けた。
「可愛げのない女。コーヒーばっかり飲んで行き遅れたんだろ」
「俺たちは客だぞ? コーヒーを飲ませてくれよ」
男の一人がジュリアの肩に触れた。
ジュリアはぱしと、その手を払った。
「あなた方はお客様ではありません。おかえりください」
ジュリアは毅然という。
「ダメだよ。店員さん、愛想良くなきゃ。そうしなきゃ男がよってこないよー」
その言葉にジュリアははっと笑った。
「あなた方に好かれたくないので結構です」
それが挑発にとれたのか、男はジュリアに殴りかかろうとした。
ジュリアは目をぎゅっと瞑った。
殴ったら殴ったで裁判起こして徹底的に追い詰めてやる!
そう思いながら痛みに耐えようとしたが、痛みがこない。
目を開けると、ジュリアを庇いながら男の拳を握りしめたアベルがいた。
「あ、アベル様?」
どうしてここに。
着ている服は身分低めのもの。先程端で教師がコーヒーを振る舞った助手の服だった。
「お前たち、今誰を殴ろうとした?」
瞳が血走っていて怖い。
男たちも思わずたじろいだ。
「いや、俺たちは何も」
「今彼女に殴りかかろうとしていただろう」
アベルは手を捻り男を締め上げた。
「いてて、ちょっとただの冗談ですよ」
何とか取り繕うとするが、アベルの目は笑っていない。このままだと骨をおられるかもしれない。恐怖が湧き上がり男は謝罪した。
「す、すみません! ちょっとここで騒いで客を減らすように指示を受けました」
やはりライバル会社からの嫌がらせだったようだ。
ジュリアは彼らの前にたつ。
「どこのお店です?」
「それは言えな……あてて、言います。言います!」
男の情けない声から出た名前にジュリアはため息をついた。
「まぁ、アガリア伯爵じゃないですか?」
入り口から現れたのは息切れしているアルマであった。後ろには彼女の護衛が控えている。
どうやら騒動を聞きつけて駆けつけてくれたようだった。
213
あなたにおすすめの小説
あなたが後悔しても、私の愛はもう戻りません
藤原遊
恋愛
婚約者のアルベルトは、優しい人だった。
ただ――いつも、私より優先する存在がいただけで。
「君は分かってくれると思っていた」
その一言で、リーシェは気づいてしまう。
私は、最初から選ばれていなかったのだと。
これは、奪われた恋を取り戻す物語ではない。
後悔する彼と、もう戻らないと決めた私、
そして“私を選ぶ人”に出会うまでの、静かな恋の終わりと始まりの物語。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
私より幼馴染を選んだ婚約者に別れを告げたら謝罪に来ましたが、契約を守れない貴族とは取引しませんので
藤原遊
恋愛
祖父が創立した大商会で、跡継ぎとして働いている私。
けれど婚約者は、私より幼馴染を選びました。
それなら構いません。
婚約という契約を守れない相手と、これ以上関係を続けるつもりはありませんから。
祖父の商会は隣国と新たな取引を始めることになりました。
――その途端、なぜか元婚約者が謝罪に来るようになりましたが、もう遅いです。
夫婦という名の協力者、敵は令嬢
にゃみ3
恋愛
齢十二歳にして公爵夫人となった、セレスティア。
常に命を狙われる危険と、露骨な敵意に晒される立場。
同年代の令嬢たちからは妬みと侮蔑を向けられ、年長の貴婦人たちからは距離を置かれる。
そんな生活を送り始めて、早くも六年が経った頃。
「私、公爵様とお近づきになりたいんです!」
夫に好意を寄せる、自らが公爵夫人の座に就きたいと言い出した令嬢が現れて……。
黒く爛れた世界でたった二人の幼い夫婦が、どれほど苦しい思いをして生きてきたか。それは、当人である二人にしか分からないことだ。
夫は私を愛していないらしい
にゃみ3
恋愛
侯爵夫人ヴィオレッタは、夫から愛されていない哀れな女として社交界で有名だった。
若くして侯爵となった夫エリオットは、冷静で寡黙な性格。妻に甘い言葉をかけることも、優しく微笑むこともない。
どれだけ人々に噂されようが、ヴィオレッタは気にすることなく平穏な毎日を送っていた。
「侯爵様から愛されていないヴィオレッタ様が、お可哀想でなりませんの」
そんなある日、一人の貴婦人が声をかけてきて……。
妹の方が好きだと言われるなら、どうぞお好きになさってくださいませ
睡蓮
恋愛
ルイス伯爵はオードリーとの婚約関係を結んでおり、その関係は誰の目にも幸せそうなものだった。しかしある日、伯爵は突然にオードリーとの婚約関係を破棄してしまう。その新たな婚約相手は、他でもないオードリーの妹であるスフィアだった…。
『婚約破棄は劇場にて――見世物にされた侯爵令嬢は、舞台ごと奪い返す』
鷹 綾
恋愛
王立劇場で開かれた慈善晩餐会。
その華やかな壇上で、侯爵令嬢サビーネ・ドルレアンは、第二王子セドリックから突然の婚約破棄を告げられる。
隣に立つのは、涙ぐむ男爵令嬢オディール。
大勢の貴族たちが見守る中、サビーネは“冷酷な悪女”として断罪され、黙って恥を引き受ける役を押しつけられる――はずだった。
けれど、サビーネは泣かなかった。
黙って舞台を降りることもなかった。
その夜を境に、侯爵令嬢は見世物にされた婚約破棄の意味を、静かに、そして容赦なく塗り替えていく。
王家の体面、王子の未熟さ、“可哀想な令嬢”の化けの皮。
一つずつ暴かれていく真実の先で、サビーネが取り戻すのは、失われた名誉だけではない。
これは、婚約破棄された令嬢が、誰かの筋書きから降りて、自分の人生を取り戻す物語。
見世物にされた舞台の上で、最後に微笑むのは――黙って泣く役を拒んだ侯爵令嬢。
無関心夫の手を離した公爵夫人は、異国の地で運命の香りと出会う
佐原香奈
恋愛
建国祭の夜、冷徹な公爵セドリック・グランチェスターは、妻セレスティーヌを舞踏会に残し、早々に会場を後にした。
それが、必死に縋り付いていた妻が、手を離す決意をさせたとも知らず、夜中まで仕事のことしか考えていなかった。
セドリックが帰宅すると、屋敷に残されていたのは、一通の離縁届と脱ぎ捨てられた絹の靴。そして、彼女が置いていった嗅いだことのない白檀の香りだけだった。
すべてを捨てて貿易都市カリアへ渡った彼女は、名もなき調香師「セレス」として覚醒する。
一方、消えた妻を追うセドリックの手元に届いたのは、かつての冷たい香りとは似て非なる、温かな光を宿した白檀の香水。
「これは、彼女の復讐か、それとも再生か——」
執念に駆られ、見知らぬ地へ降り立った公爵が目にしたのは、異国の貿易王の隣で、誰よりも自由に、見たこともない笑顔で微笑む「他人」となった妻の姿だった。
誤字、修正漏れ教えてくださってありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる