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第 五章 王都と陰謀と武闘大会

第 69話 決勝トーナメント3日目。 ①

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    今俺は、闘技場のリヒト侯爵家用観覧席にいる。同席しているのは、前回と同じく一家全員だ。セイラは出場の為いないが。

    昨日は朝から毒殺未遂やら王様と面会やらで忙しい一日だった。

    決勝トーナメント一回戦残り四試合は無事に進み、勝ち残ったのはプレートメイルを着た騎士風のお姉さんと珍しくレイピアと盾の代わりにマインゴーシュという短剣を使うエルフと、大振りのコンバットナイフの様な短剣の二刀流の猫人族の少女、(この子の耳もモフリたいものだ。)あと最後はこれも珍しいサーベルかな?これを二刀流で使う長身のスラッとしたお姉さんの四人だ。
結果だけ聞いたのでどんな戦い方をするのかは全くわからないが。

    セイラは第四試合で相手は赤髪の槍持ちだ。間合いの長い槍の間合いをどう潜り抜けるかが勝負かな。
昨日〈舜歩〉のことを知りたがったのは、この為だろう。
ま、昨日の今日では、教えたとしても役には立たなかったろうがね。

    今日は男女交互に計四試合行う。明日に残り四試合やってベストフォーが決まる。

    さて、お仕事だ。

「〈マップ表示・オン〉。」

闘技場全体が見えればいいか。マップの縮尺を調整して、闘技場全体が写るようにする。

「〈サーチ・侯爵一家に害意を持つ者〉。」

うん?、二つ右隣のイストール公爵の観覧席にまた二つ赤い光点がマーカー付きである。マーカーにはイストール公爵とラストル公爵の名前付きだ。

    今のところ、動きはないようだ。このまま、定期的にマップを更新して、警戒しておこう。

    しかし、今目の前で男子が試合をしているが、気のせいか、そんなに凄いと思える選手はいないのかな?と思えるような試合をしている。

    技の競い合いでなく、ただ、力任せに殴っているようだ。これなら、昨日戦ったラルフさんの方が試合をしている男達より強いだろうな。まあ、たまたま今試合をしているのがパワータイプだけなのかもしれないけどね。
    お、終わったか。次は女子の試合だな。

「オオガミ君、男子の試合を見てどうおもったかい?」
「ソフトに言った方が良いですか?それとも、はっきりの方が良いですか?」
「ククク、構わないから、はっきり言ってくれ。」
「では、あれなら剣ではなく、鉄の棒かハンマーでも振った方が効果的でしょうね。ただ、武器を力一杯振っているだけで、ちょっと試合が長引けば先に疲れてしまい、容易く倒せますね。ラルフさんの方がよっぽど強いと思いますよ。」
「おや、その口ぶりだとそのラルフに勝った自分は彼らよりも強いといいたいのかな?」
「そんな思い上がった積もりは有りませんよ。俺の好きな戦い方ではないなと思っただけです。」
「ほう、ちなみに君の好きな戦い方とは何だね?」
「・・・一撃必殺、相手に攻撃をさせず、攻撃を受ける前に倒し己は無傷で生還する事ですね。」
「そんな事が出来るものかね?」
「・・・さあ、普通は出来ないでしょうね。だから世の中には様々な技があるのですから。」
「出来ない事を判っていても目指すのかい?」
「それが、家伝大神神刀流の目指すところですから。」
「なにか職人みたいな考え方だね。」
「職人ですか(笑)。確かにそうかもしれませんね。お、次の試合の準備が整ったようですよ。」
「なかなか面白い話しだったのに残念だ。試合に集中するとしますか。」

    試合会場には、狼人族の銀髪のショートソード二刀流対バトルハンマーと盾の正神教の助祭だ。

(うん?なんだあの助祭はこっちの方向を見ているのか?前もこっちを見ていたが、何だかな?
お、相手の狼娘がコッチ向けと怒っているな。こりゃやる前から決まったかな?)

    「オオガミ君、あの女神官は何故かコッチを見ているねぇ。何だろう?」
「さあ、俺にもさっぱり。」

侯爵と一緒になって、首を捻っている内に、試合が始まった。
    
    結論を先にいうと、神官の勝ちだが、内容はかなり拮抗したものだった。獣人族特有の身体能力の高さ、特にスピードは素晴らしい物だった。ひとつ所に留まらず、常にヒットアンドウェーで攻撃を仕掛ける。ただ、試合が長引いたため、攻撃が少し単調になってきた所を助祭に突かれて、盾でいなされ態勢が崩れた所にハンマーで脚を叩かれて、動きを封じられてからは一方的だった。あの助祭年の割に冷静だな。お、又こっちを見ているねぇ。

    次は男子の試合だった。第一試合よりは観ていて面白い試合だった。
    棍という、中国武術で使う木製の槍の穂先が無い物を使う正に武闘家と言った感じの男の戦い方だが、敵の攻撃の捌き方や足運びなど、大変勉強になった。途中から思わず『気眼』を使って凝視していたくらいだ。   
    それで気がついたが、弱いながらも『気』を使っている。まだまだ弱いが、この世界にも『気』を操る者がいるとはね。やっぱり世界は広いわ。嬉しくなってしまったよ。

    「オオガミ君、どうしたのかい?何か嬉しそうだけど?」
「ええ、面白い技を見れたので思わず嬉しくなって。」
「そうかい?私には普通に攻撃していたにしか見えなかったけど?」
「目に見える技ではありませんから。」

おや、向こうも俺の『気眼』に気付いていたかな?
こっちを見ているな。挨拶しておくか。
    体内の『気』を練り眼から相手に叩きつけた。お、驚いているな。
そんな俺を侯爵は訳分からず見ているが、ラルフさんは、少し青い顔をしてみていた。おや、気が付いたのかな?

「あ、セイラお嬢様の入場ですよ。」 

話しを変えるためにそう言うと、侯爵は闘技場に注目した。

(さあ、お嬢様。この相手に勝てますかな?)

自然と笑みが浮かんだ。















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