素直になれない私たち～潜入捜査で偽装結婚しました！～

新婚夫婦になります！

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「結婚しろって……冗談ですよね？」
　織原那美は上司の中村課長に向かって目を丸くした。
彼女は涼しい顔で、書類をパタパタと手のひらで叩いている。
「冗談なわけないでしょ。潜入捜査よ、潜入捜査。」
「でも、それにしても――」
「潜入先が『夫婦限定の高級マンション』なの。偽装夫婦として潜り込む以外に方法はないでしょ？」
　那美は目の前の書類に視線を落とし、唇を引き結んだ。
　夫婦限定の高級デザイナーズマンション――そこが、違法薬物の取引拠点である可能性が高いという情報が入ったのは先週のこと。捜査チームはこの数週間、現場の出入りを監視していたが、外部からの介入が難しく、内部に潜り込む必要があると判断された。

「でも、私一人じゃないんですよね？」
「当然よ。夫婦を演じる以上、相手がいないと話にならない。」
　課長が入れと短く言い放つと、ドアが開き、一人の男性が入ってきた。
　長身で広い肩幅に太い首と逞しい二の腕。短く整えられた髪に無骨な表情。制服姿がこれ以上ないほど似合うその男に、那美は思わず息を飲んだ。

「彼が、今回の相手役よ。」
「……神林先輩？」

　那美が思わず名前を口にすると、神林拓磨は少しだけ眉を動かしたが、表情は変えずに軽く頷いただけだった。

「え、ちょっと待ってください。私と神林先輩が夫婦を装うんですか？」
「そういうこと。」
「いやいや、神林先輩と私じゃ、どう考えても夫婦に見えないですよ！性格だって正反対ですし！」
　那美の抗議をよそに、中村課長はにやりと笑った。
「だからこそ、面白いんじゃない？世の中、正反対のカップルなんて山ほどいるわよ。」
　一方で、神林は黙ったままだった。まるでこの状況をすでに受け入れているかのように、無表情で腕を組んでいる。その余裕に那美は少しムッとしながらも、どうしても視線を彼から逸らせなかった。

「わかりました……やります。」
　不本意ながらも、那美はそう答えるしかなかった。
「決まりね。じゃあ、これが潜入に必要な書類と、今後の予定よ。」
　中村課長は手際よく説明を始めたが、那美の心の中は神林の存在感でいっぱいだった。

　――こんな硬派で冷たそうな男と、どうやって夫婦なんて演じるのよ？

　戸惑いと不安が入り混じる中、那美の潜入捜査が幕を開けるのだった。