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新婚夫婦になります!
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「まったく……。どうしてこんな直前も直前に……。もっと早く、前もって言ってもらわなきゃ……」
那美は用意された潜入先の部屋で必要最低限の生活必需品が入ったダンボール箱の荷を解きながら、口の中でブツブツととりとめもない愚痴をこぼす。
「しかも……、結婚しろ、なんて……わざわざあんな言い方……」
言いながら鼓動が早くなり、頬が熱くなるのを感じる。
織原那美は、どこにいても自然と目を引く存在だった。明るいミディアムロングの髪は、柔らかなウェーブを描きながら軽やかに揺れ、その輝きはまるで光を纏ったよう。ふっくらとした形の良い唇は、何気ない微笑みさえ甘やかで、見る者に特別な意味を感じさせる。透明感のある白い肌は、わずかな赤みすら愛らしく、まるで陶器のような美しさを持っている。
それに加えて、豊かで張りのある胸元や、女性らしいメリハリの効いた体型は、本人の意識に関係なく周囲の視線を釘付けにする。
那美自身は、こうした自分の魅力をそこまで意識していない。有効に活用できると判断した時以外は、元々あるものを意識する必要が無い。だからこそ、時折無防備な仕草や何気ない振る舞いに、無自覚に色気を振りまいてしまうのだった。
性格は勝気で、物怖じしない大胆さをもっている。仕事では持ち前の機転で場を盛り上げる。だが、その勝気な性格が恋愛では思わぬ壁になってしまう。那美は自分の魅力を利用することには慣れているが、恋愛になるといつも空回りしてしまう。積極的にアプローチすればするほど、相手が後ずさりしてしまうことが多く、結局恋愛に発展する前に終わってしまうのが常だ。そのせいで、二十七歳になった今も恋愛経験はゼロ。
「実は全然ダメなのよね、恋愛は」と、本人は軽口を叩いてごまかしているが、内心ではその事実をかなり気にしている。
「……よりによって、神林先輩と……」
その名を口にしながら、ますます頬が熱くなっていく。
神林拓磨、三十二歳。階級は巡査部長の那美よりも上の、警部補。剣道六段、極真空手四段の実力者であり、ただそこに立っているだけで周囲の空気を引き締める男だった。短く整えられたオールバックの髪は彼の無骨な彫りの深い顔立ちを際立たせ、眉間のシワが生真面目さと威圧感を同時に与える。普段は無口な彼だが、その鋭い目つきには一切の隙がなく、誰もがその内側に隠された本音を覗き見ることをためらうほどだった。
それに加え、スーツの上からでもわかる筋肉の厚みは圧巻だった。逞しい肩幅に、組まれた腕がほんの少し動くだけで、シャツの袖が引き締まった二の腕にピタリと張り付き、鍛え上げられた体躯を露わにする。その存在感は、どんな場面でも否応なく周囲の視線を奪う。
だが、その静けさと冷徹さに隠された男の魅力があることを、那美だけは知っている。ストイックな男にしか醸すことのできない鋭い視線の色気。まるで熟練の刀匠に丹念に鍛え上げられた刀身が放つ煌めきにも似た。それが見えた瞬間、無骨で硬派な外見と合わさり、身も心もひどく揺さぶられるのだ。誰も近寄らせない鋼のような彼だけが持つそんな希少な魅力が、那美にとって抗えないほどの引力になっていた。
しかし、それゆえ安易に神林に近づこうとする人間はほとんどいない。しかし、一定数の那美のような無骨な男に惹かれてしまう女性が現れ、彼に想いを寄せることもあるが、皆、彼のストイックさに根負けしていつの間にか消えていく。
言ってしまえば、素直になれないくせにズブズブと神林に嵌っている那美だけが彼を想い続けているのかもしれない。
しかし、これは意地だ。那美は自分を奮い立たせる。願ってもないこの状況に、取り乱す乙女心でパニック状態ではあるが、そこは那美の強気な女のプライドが許さない。この状況を利用して、神林に女として自分を意識させてやる! こういうところが相手を引かせる要因なのだが、那美は譲らない。否、もはや譲れないといった方が正しいのもかもしれない。
那美は用意された潜入先の部屋で必要最低限の生活必需品が入ったダンボール箱の荷を解きながら、口の中でブツブツととりとめもない愚痴をこぼす。
「しかも……、結婚しろ、なんて……わざわざあんな言い方……」
言いながら鼓動が早くなり、頬が熱くなるのを感じる。
織原那美は、どこにいても自然と目を引く存在だった。明るいミディアムロングの髪は、柔らかなウェーブを描きながら軽やかに揺れ、その輝きはまるで光を纏ったよう。ふっくらとした形の良い唇は、何気ない微笑みさえ甘やかで、見る者に特別な意味を感じさせる。透明感のある白い肌は、わずかな赤みすら愛らしく、まるで陶器のような美しさを持っている。
それに加えて、豊かで張りのある胸元や、女性らしいメリハリの効いた体型は、本人の意識に関係なく周囲の視線を釘付けにする。
那美自身は、こうした自分の魅力をそこまで意識していない。有効に活用できると判断した時以外は、元々あるものを意識する必要が無い。だからこそ、時折無防備な仕草や何気ない振る舞いに、無自覚に色気を振りまいてしまうのだった。
性格は勝気で、物怖じしない大胆さをもっている。仕事では持ち前の機転で場を盛り上げる。だが、その勝気な性格が恋愛では思わぬ壁になってしまう。那美は自分の魅力を利用することには慣れているが、恋愛になるといつも空回りしてしまう。積極的にアプローチすればするほど、相手が後ずさりしてしまうことが多く、結局恋愛に発展する前に終わってしまうのが常だ。そのせいで、二十七歳になった今も恋愛経験はゼロ。
「実は全然ダメなのよね、恋愛は」と、本人は軽口を叩いてごまかしているが、内心ではその事実をかなり気にしている。
「……よりによって、神林先輩と……」
その名を口にしながら、ますます頬が熱くなっていく。
神林拓磨、三十二歳。階級は巡査部長の那美よりも上の、警部補。剣道六段、極真空手四段の実力者であり、ただそこに立っているだけで周囲の空気を引き締める男だった。短く整えられたオールバックの髪は彼の無骨な彫りの深い顔立ちを際立たせ、眉間のシワが生真面目さと威圧感を同時に与える。普段は無口な彼だが、その鋭い目つきには一切の隙がなく、誰もがその内側に隠された本音を覗き見ることをためらうほどだった。
それに加え、スーツの上からでもわかる筋肉の厚みは圧巻だった。逞しい肩幅に、組まれた腕がほんの少し動くだけで、シャツの袖が引き締まった二の腕にピタリと張り付き、鍛え上げられた体躯を露わにする。その存在感は、どんな場面でも否応なく周囲の視線を奪う。
だが、その静けさと冷徹さに隠された男の魅力があることを、那美だけは知っている。ストイックな男にしか醸すことのできない鋭い視線の色気。まるで熟練の刀匠に丹念に鍛え上げられた刀身が放つ煌めきにも似た。それが見えた瞬間、無骨で硬派な外見と合わさり、身も心もひどく揺さぶられるのだ。誰も近寄らせない鋼のような彼だけが持つそんな希少な魅力が、那美にとって抗えないほどの引力になっていた。
しかし、それゆえ安易に神林に近づこうとする人間はほとんどいない。しかし、一定数の那美のような無骨な男に惹かれてしまう女性が現れ、彼に想いを寄せることもあるが、皆、彼のストイックさに根負けしていつの間にか消えていく。
言ってしまえば、素直になれないくせにズブズブと神林に嵌っている那美だけが彼を想い続けているのかもしれない。
しかし、これは意地だ。那美は自分を奮い立たせる。願ってもないこの状況に、取り乱す乙女心でパニック状態ではあるが、そこは那美の強気な女のプライドが許さない。この状況を利用して、神林に女として自分を意識させてやる! こういうところが相手を引かせる要因なのだが、那美は譲らない。否、もはや譲れないといった方が正しいのもかもしれない。
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