2 / 5
2、森での俺
しおりを挟む暮らし始めてみると俺は自分でも驚く程すぐに森での生活に馴染み、村で暮らしていた時よりも何故か身体が軽く調子がいい。
その調子の良さで更なる住みやすさを目指し色々挑戦してみると、何故かやること成すこと次から次へと上手く行った。
狩猟小屋の周りに小さな畑を作ればあっという間に野菜が実り、狩猟小屋に放置されていた弓で狩りをすれば今まで槍で苦労して狩っていたのが何だったのかと思うほど簡単に獲物が仕留められる。
そうしてすっかり森の民と化した俺だったが、久々に村へと帰ると弟からとんでもない事を告げられた。
「にいちゃん、十年も帰って来ないとか、どれだけ森に引きこもってるのさ!?俺の結婚式に招待したくても何故か森に入ると霧が掛かって全然狩猟小屋までたどり着けないし…結局にいちゃん無しで式を挙げたんだからね!?」
弟に言われて始めて気付いた事実に愕然とする。
確かに俺が森に住み始めてから誰とも森ですれ違わなかった。
それに森で暮らして十年も経った感覚は俺には無い。
せいぜい半年程度の気がする。
しかしよく見れば弟はしっかりと十年分の歳を取っていて、それに比べて俺は昔のまま、全く何も変わっていなかった。
その事実に背筋に冷たいものが伝い、俺は頭が真っ白になる。
どうやら俺は人間では無くなってしまったらしい。
よく考えれば、おかしい事だらけじゃないか。
三日で収穫出来る畑なんて普通じゃないし、狩りだって俺は獲物が止まって見えている。
いくら身体が軽いからって木から木へ飛び移れる身体能力なんて、人間から見れば異常でしかないだろう。
俺はこの日を境に、村人どころか家族との交流も絶ってしまった。
だって、怖かったんだ。
自分だけが老いない事実に。
一人取り残され、親しい家族を見送らなければならないかもしれない孤独に。
そして、森に閉じこもってどれ位経ったのか分からなくなってしまった頃。
今まで誰一人訪ねて来る事の無かった小屋に、一人の少年がやってきた。
「あっはは!こんなすっごい魔素濃いとこに小屋があるー!しかも畑?まさか、誰か暮らしてるとか?なんて、あるわけ無いよね~。」
「…誰?」
でかい声で独り言を放つフードを被ったローブ姿の少年に、小屋の扉を開けて声を掛ける。
少年はまさか本当に誰か居るとは思っていなかったのか俺の姿を見て口を開け呆然とするも、すぐにフードを外して近付いて来た。
「うっっわ!エルフじゃん!本当に実在したんだ!?綺麗な顔してるなぁ…、ねぇ、君女の子?てゆーか女の子でしょ?むしろ女の子じゃなきゃ困る!」
そう言ってキラキラと目を輝かせる少年こそ綺麗な容姿をしていて、肩で切り揃えられた銀髪を揺して質問してくる。
「残念ながら男だよ。用が無いなら帰ってくれる?俺、人と話したくないんだ。」
俺が扉を締めようとすると少年は慌てて足を扉に挟み、小屋の中に身を乗り出した。
「ちょ、ちょっと待ってよ!ごめんって!女の子じゃなくても問題ないから!ねぇ、僕エルフと会うの初めてなんだよ!話してみたいんだ、中に入れてくれない?」
入れてくれない?ってもう半分入ってるじゃん…と思いながら自分より少し低い位置にある少年の顔をじっと見下ろし、引く気が無いのを感じて仕方無く小屋の中に招く。
少年は嬉しそうに小屋に入ると、こちらが何も言わずとも勝手に椅子に座り
「お茶で良いよ!ジュースは嫌いなんだ!」
と図々しく飲み物まで要求してきた。
「…お前さ、図々しいって言われない?」
「言われるね!でも他人から何言われても気にしないからどうでも良いかな!」
そう言って庭で摘んだハーブを使ったハーブティーを出すと、
「うげぇ、変な味!」
と少年は顔をしかめる。
それを無表情で見つめていると、少年は好奇心いっぱいの顔でキョロキョロと家の中を観察し始めた。
「ねぇ、他に仲間は居るの?」
「居ないよ、俺だけ。」
「両親や兄弟は?」
「両親と弟は居たけど、ずっと会って無いし、もう亡くなってるかもね。俺だけ人間じゃないから。」
「んん?どういう事?」
そこで少年に今までの事を話して聞かせると、しばらく考え込んでから口を開く。
「ふーん。君、たぶん拾い子だね。じゃなきゃおかしい。人間からエルフが産まれるなんて有り得ないし。それに、その木の実ってたぶんエルフの実の事だよ。伝承でしか知らないから詳しくは分からないけど、エルフってすんごい綺麗好きなんだって。で、そのエルフの実っていうのはエルフが好んで使ってた石鹸の代わりみたいな物らしいよ。あ、石鹸って身体や髪を綺麗にするものね。たぶん、森から離れたせいで危険を回避する為に身体が人間として擬態していたのが、エルフの実を使う事で段々本来の姿に戻ったんじゃないかなぁ?エルフの実は森から持ち出せないし、村人に見えなかったのはたぶん村人に魔力が無かったからだと思う。」
今まで何も分からなかった事が少年によって語られ、俺は思わずポカンと間抜けな顔をしてしまった。
10
あなたにおすすめの小説
水仙の鳥籠
下井理佐
BL
※全話加筆と修正をしました。
とある遊郭に売られた少年・翡翠と盗人の一郎の物語。
翡翠は今日も夜な夜な男達に抱かれながら、故郷の兄が迎えに来るのを格子の中で待っている。
ある日遊郭が火に見舞われる。
生を諦めた翡翠の元に一人の男が現れ……。
邪悪な魔術師の成れの果て
きりか
BL
邪悪な魔術師を倒し、歓喜に打ち震える人々のなか、サシャの足元には戦地に似つかわしくない赤子が…。その赤子は、倒したハズの魔術師と同じ瞳。邪悪な魔術師(攻)と、育ての親となったサシャ(受)のお話。
すみません!エチシーンが苦手で逃げてしまいました。
それでもよかったら、お暇つぶしに読んでくださいませ。
君と秘密の部屋
325号室の住人
BL
☆全3話 完結致しました。
「いつから知っていたの?」
今、廊下の突き当りにある第3書庫準備室で僕を壁ドンしてる1歳年上の先輩は、乙女ゲームの攻略対象者の1人だ。
対して僕はただのモブ。
この世界があのゲームの舞台であると知ってしまった僕は、この第3書庫準備室の片隅でこっそりと2次創作のBLを書いていた。
それが、この目の前の人に、主人公のモデルが彼であるとバレてしまったのだ。
筆頭攻略対象者第2王子✕モブヲタ腐男子
この恋は決して叶わない
一ノ清たつみ_引退騎士
BL
元勇者のおっさんが、ただの何でも屋だと偽って現役の勇者達と旅に出るお話。
???×おっさん
異世界から連れて来られたいたいけな勇者や生意気な騎士達の面倒を見させられてうっかり好かれてしまうし、昔の仲間やペット、宿敵にまでにちょっかいをかけられたりしておっさんも大変です。
ダメ親父を気取ってはいますが、本当はかっこよかったのです。
※8万字程度
※ぐいぐい来る若者(?)にたじろぐおっさん
※タイトル回収は最後、メリバ気味ですので本当にご注意ください
※ライト気味なBLでストーリー重視
※pixivやムーンライトノベルズ様にも掲載中
※執筆が前すぎて一人称
精霊の神子は海人族を愛でる
林 業
BL
海で生活し、人魚とも呼ばれる種族、海人族。
そんな彼らの下で暮らす記憶喪失の人族、アクア。
アクアは海人族、メロパールと仲睦まじく暮らしている。
※竜は精霊の愛し子を愛でると同じ世界です。
前作を見ていなくとも読めます。
主役は別です。
そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる