潔癖症な村人A

べす

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4、寂しい俺

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「あーあ。ぜんっぜんエルフの文献見つかんない。これじゃいつまでたっても森から出れないじゃん。ここまで来るのも結構距離あるし、魔塔に呼びたいのに…。いっそ僕がこっちに越してこようかなぁ。」

お茶の用意をする俺の肩に後ろから顎を乗せ、ネイドがぶーぶー文句を垂れる。

「ネイドがこっちに住むのも無理だろ。魔導師って魔塔から出れないって言ってたじゃん。来るのが面倒なら、頻度を減らせば…」

「あーっ、またそういう事言う!僕が会いたいの!何回言えば分かんの?馬鹿なの?」

「はいはい…。」

ネイドは最近俺にベッタリで、ふいに冗談なのか本気なのか分からない甘い言葉を吐く。
今も肩に顎を乗せたまま腰に腕を回して、
「我慢してるんだから、少し位ご褒美ちょうだいよ。」
と首筋にキスしてきた。

「…何度も言ってるけど、俺性欲無いんだってば。大体最近俺としたいしたいずっと言ってるけど、ネイドって確か女の子が好きだったよな?いつから男好きになった訳?」

俺が半目で振り向くと、ネイドは不満そうな顔で俺を睨む。

「あのね、誰のせいだと思ってんの?こう何年もとんでもない美人と顔を合わせてると、他の人間が段々カボチャにしか見えなくなるんだよ!言っとくけど、男好きな訳じゃないから!性別じゃなくて、アレムとその他で別れちゃってるだけなの!なのに、エルフが性欲無いとかさ~…!じゃあどうやって子孫残してたのさ!」

怒りながらちゅっちゅっと頬にキスしてくるネイドの顔を俺が手でグイッと遠ざけると、腰に回されていた腕の力が強くなった。

「ネイド、冗談ばっか言ってないで、お茶淹れたんだから早く飲めよ。冷めちゃうだろ。」

「…はぁ、もう、全然本気にしてないし…。僕結構アプローチしてるつもりなんだけどなぁ?」

ネイドはそう言って俺から身体を離すと、二人分のお茶を手に持ち椅子に座る。

ネイドに言った事は本当で、エルフとやらになってからの俺は性欲が全く無くなってしまった。
それどころか、年々感情の起伏も少なくなってきている気がする。

このまま何も感じなくなっていくのかな…とぼんやり思うものの、いつかやってくるであろうネイドとの別れを思うとそれでも良いかもしれないと考えていた。

きっと、今の俺はネイドが居なくなったら寂しくてたまらないだろう。
それくらいネイドの事を気に入っていたし、ネイドにだけは嫌われたくないと思っていた。

まぁ、だからと言って抱き合いたいとは思わないけど…。

これから先も、しばらくはこうしてネイドとの穏やかな日々が続いていくだろうと思っていた俺は、まさかこの日がネイドと会う最後の日になるなんて考えても居なかった。

それからいくら待ってもネイドが小屋に訪れる事は無く、俺はどうしてネイドが来なくなったか分からないままただ流れるように過ぎていく日々を過ごしていた。

きっとネイドは俺に愛想が尽きただけでどこかで幸せに暮らしているだろう。
何の根拠も無いが、寂しさで締め付けられそうになる心に蓋をしてそんな風に思うようになっていた頃、一人の少年が小屋を訪れた。

いつか見た様なフードを被ったローブ姿の少年に初めてネイドと会った時の事を思い出し、思わず
「ネイド…!」
と声を掛けると、少年は震える手で紙の束を俺に投げつけてくる。

「お前の!お前のせいで…ッお前がこんな所に隠れて出て来ないから、師匠は処刑されたんだ!何で、お前じゃなくて、師匠が…!お前が死ねば良かったのに…!」

少年の顔は下半分しか見えなかったが、唇を噛み締め頬を涙が伝っていた。
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