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悲しい顔なんてさせたくないよ!? (本当だよ!?)

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 死ぬ寸前に主人公に何かを告げるキャラみたい。

 もちろん私が死ぬ寸前で、一華が主人公である。
 どうして君は右腕を肩の辺りに左腕を腰のあたりに添えて抱きかかえようとするんだ?
 さすがにここから保健室までは遠いぞ? 運ばれたら申し訳なさで死ねるぞ?

「無理をするな」

 生きていれば少なからず無理をすることも、しないこともあるかと思うけど、前述の通り桜塚怜はコミュ障で人との会話苦手ガールだから、神岸グループに所属して陽キャを演じるってのが無理パないっていうか。

 一華は私が陰キャなのを薄々察していて、いつか爆発するんじゃないかって予期していたってこと?
 なにこの王子――顔面偏差値は極めて高く、学力も人間力も準ずるとか。
 学力は平均以下、運動能力も底辺の哀れガールと同じ人間なの?
 むしろ私が人間を名乗ってていいの? 人間様の付加価値が下がったりしない?

「……一華、私は無理を重ねていたの」

 相手が察しているのならばさっさと告白――陰キャだと気づきながらグループの一員にしてくれて本当にありがとう。
 これからは私は教室の片隅で、一華は教室の真ん中で生きよう。

 村で生きるアシタカと森で生きるサンの距離感みたいな、顔を合わせられる距離でいるかもだけど、決して馴れ合うことはない絶妙さを讃えて、私はゲロゲロ鳴きながら生きていこう。

「は?」

 会話が苦手で交流をするのにも難があるのを告白をすると、一華の顔に浮かんだのは明らかな戸惑いの表情。
 恋文をしたためる勢いで説明したつもり……ああ、私の能力に難があったから相手にまるで伝わらなかったのね?

 あー、あるある――ネット小説とか読んでても「だから?」「なにが言いたいの?」と長々と書かれているのに内容が干からびたミミズレベルしかない文。
 私は縁遠いと思ってたけど、その実自分自身がその文体の使い手だったと。

「簡単に言うと私はぼっちがお似合いの女で、あなたは周囲からモテモテの王子……今まで友達でいてくれてありがとう……」
「いや、これからとキミとは友人関係を抱いていくつもりだが、怜がそんなものはいらないというなら」
「いらなくないよ! いらなくないけど……!」

 こんな私とも友人でいてくれるというパーフェクトウーマンである神岸一華。
 他人とちろっと会話しただけでメンタルを消費して、ぼっちになりたがるパーティのお荷物なんて、レベリングしているのに対人レベル2の私と友達でいたいと言ってくれるなんて、どこに感謝をすれば良いの?
 日本銀行? 万札くれ、全部一華に寄付するから。

 一華に万札をプレゼントしても「見慣れてるんだけど」くらいのことは言うかも?
 私が買い物をするときに万札とか渡されたら、これを持って良い人間なのかと問いかけたくなるけど……時給が950円だとしたら10時間働いても稼げないんだよ!?

「一華は王子でミミズにも優しくしてくれる神なんだよ」
「いや、土を掘り返してミミズがいたら軽く悲鳴をあげる自信があるが」
「そう……私の存在はその見たら悲鳴をあげられるレベルなんだよ……生まれてからこの方ずーっとぼっちだった」
「ぼっちとは?」

 マジでその単語聞いたことがないと言わんばかりの表情をされると「あ、住む世界が違うんだな?」と察せられてしまう。
 うう、そんな人種と関わらせてしまって本当にごめんなさい。

「一人でいるのがお似合いの鼻つまみ者という意味でございます……」
「鼻つまみ者とは?」
「そこは読書とかしてれば普通に出てくるでしょ! 文脈で察せられるでしょ!」
「いや……キミがその、疎まれる存在というのと釣り合わないんだが」
「いやいやいや! それはね、一華がパリピでありながらパーフェクトだから私に対してネガネガな感情を抱かないだけで、私がそういう人種だってのを気づかれないように演技していたのもあるけど、それはとにかくまあ違うんだよ!」

 妹ちゃんやお母さんからも高校デビューに際しての頑張りを認められたから、努力には胸を張っても良いのだと思う。
 陰キャのくせに自己主張する胸がウザいんだよと言われたら、包帯かなんかで縛り付けてくるけど。
 や、だって勝手に大きくなったんだよ? 大きくしてくれってシェンロンに願ったことないよ?

「ふむ……つまりは私が怜を疲れさせてしまっていたのだと」
「その側面はないと断言できないけど……ほら、私ってネガネガな陰キャだから」
「私は……ね。出来ればみんなには笑って貰っていたいんだ。そのような場所を作りたいと願っていた」

 アニメとかで主人公やヒロインが弱音を吐くシーンって、なんかエモいBGMが流れたりするけど。
 この世界は現実だから耳に「トゥララララルールルー」みたいな音楽は流れたりしない。

 悩んでいますって声色だけでも痛切に来るもんだな……私がそれをさせてしまったのだなと思うと、メッチャ胸に来る。
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