君は私の心を揺らす〜SilkBlue〜【L】

坂田 零

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【7、微熱】

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 8月も終わりに差し掛かる頃、私と菅谷くんは、なんだか前より頻繁に会うようになっていた。
 ご飯を食べたり、なんとなくふらっと出掛けてみたり、彼のライブにもしょっちゅう顔を出すようになってた。
 前回のライブの時に『菅谷くん』と、呼ぶのはちょっとよそよそしい気がして『樹くん』と呼んでいい?って聞いたら、彼は『いいよ』って言ってくれたから、それ以来、私は彼を下の名前で呼ぶようになった。
 
 その日、私は、信ちゃんが忘れた荷物を引っ越し先まで届けに行った。 
 先週行った時に言ってくれたらよかったのに、後になって、持ってきて欲しいもの追加とかありえない…
 けど、仕方なく持ってった。
 だけど…

 私は腹立たしかった。
 
 せっかく、休日を削って荷物をもって行ったのに、信ちゃんはずっとゲームしてた。
 そんなのはいつものことだし、今さら腹を立てる必要もないハズだけど、車で二時間もの道のりを走って持って行ったのに、ゲームしながら『ありがとう、そこ置いておいて』と言ったきり、ずっとゲームしてた。

 流石の私も今回はキレてしまった。    

「あたしは信ちゃんのお母さんじゃない!
時間をガソリン代をかけてきたのに、一体あたしをなんだと思ってんの!?」

 そう怒鳴って、 私は一方的に信ちゃんの家を後にした。
 信ちゃんはゲームをやめるでもなく、もちろん引き留める訳でもなく、LINEすらよこさない。
 今さらだけど…新ちゃんはゲームさえできれば、人生になんの不満も持たない人間なんだなって私は正直そう思った。 

 帰宅しても、私の怒りはおさまらなかった。
 付き合って10年、こんなに腹を立てたこともなかったかもしれない…
 なんでこんなに腹が立つのか…と思った時、私は、ハッとした…

 今まで、信ちゃんとの関係性が普通だと思ってた、けど今は…
 
 比較対照する相手が…
 私の中にできてしまっている…

 「…これ、まずいんじゃないか…な」

 私は、LINEを開けたまま少しフリーズした。
 
 連絡…しちゃおうかな…?
 どうしよう…
 今日バイトだったかな…?
 うーん…

 私は迷った挙げ句。

 『どこか行きたいなぁ』

 とだけ、LINEしてみた。

 少し待ったら、既読が着いた。

そして…

『いいよ』

と返ってきた。

 私は、なんだかほっとして、そして、彼に会えると思うと怒りがすっと引いて、なんだなやけに嬉しかった。

 
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