【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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魂魄編:ピュトア泉

アーサーの魔法センス

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それからも、シチュリアが一言話すとそれで盛り上がり、話が脱線して双子がはしゃぐという繰り返しが続いたので、とうとうシチュリアが我慢できなくなって大声を出した。

「もう!! モニカは小屋に戻ってください!! 一向に前に進みません!!」

レッドカードをくらったモニカは「ええ~!!」とブーイングをする。

「いやだー! アーサーと一緒にいたい!」

「ダメです! あなたたち二人が揃っていると仲が良すぎてダメです! あなたは小屋に戻ってフィックとおしゃべりでもしていてください! はっきり言って、邪魔です!」

「ふぁっ」

邪魔と言われて、モニカはあからさまにショックを受けた顔をする。シチュリアも「しまった」という顔をしたが、今度ばかりは譲るつもりはないようだ。

「シ、シチュリアごめんね!」

迷惑をかけていたことに気付き、慌ててアーサーが謝った。そして、モニカの背中をポンポンと叩く。

「モニカもごめんね」

「ううん。わたしこそごめんなさい……」

「久しぶりにお話できたものだから、ついつい楽しくなっちゃってシチュリアに迷惑かけちゃってたね」

「うん……」

「できるだけ早く戻るから、小屋で待っててくれる?」

「うん。シチュリア、ごめんね」

「……いえ。私の方こそ、ひどい言い方をしました」

「ううん。じゃあ、アーサーのことお願いね。藍はシチュリアに預けておくから」

「ええ。助かります」

モニカは藍をシチュリアに渡して、手を振りながら小屋へ戻っていった。

彼女がいなくなると急に森が静かになった。アーサーとシチュリアは気まずそうにもじもじして、様子を窺いながらぎこちなく会話をする。

「えっと……、じゃあ早速、はじめてもらおうかな……?」

「え、ええ。そうしましょう」

「よ、よろしくお願いします」

シチュリアは小さく深呼吸をしてから杖を構える。

「今からあなたに、5つの基本魔法を教えます。魔法使いの適正は必ずこの中にあるので」

「基本魔法って、火魔法とか?」

「はい。火、水、雷、土、風です」

「モニカの適正魔法は雷って言ってた! シチュリアは?」

「私は土です」

「土! いいね~! 僕はなにかなー! 風とかいいよね! かっこいいよねー!」

テンションが上がりすぎて一人で話すアーサーの言葉を無視して、シチュリアは言葉を続けた。

「あなたはおそらく、ひとつの魔法しか使えません。他の魔法はうんともすんとも言わないはず。では、始めましょう。まずは火魔法から」

杖を握っている手をくるりと返し、呪文を呟く。

「イゼリルス」

すると、杖に小さな光が灯った。

「ロウソクに火を灯すイメージで、杖をこのように動かしながら呪文を言ってください」

「分かった!」

アーサーはドキドキしながら、シチュリアの真似をする。

「イゼリルス」

「……」

しかし、何も起こらない。

「うー、ダメかあ」

「動きや呪文の発音は完璧なんですけどね。うんともすんとも言わないですし、適正は火ではないのかもしれません」

「よ、よし! 次いこう!」

「そうですね」

次にシチュリアは水魔法を教えた。水に垂らした釣り糸を引き上げるような仕草をしながら、「ウロウ」と呪文を呟く。すると、杖の先からポタポタと水滴が垂れた。

同じことをしても、アーサーが握る杖はぴくりともしなかった。

雷、土、風と残りの魔法も試したが、同じく何も起こらない。杖に魔力が伝わることすらしていないようだった。

「おかしいですね……。少しくらい反応してもいいのに」

基本魔法のどれも使えなかったアーサーは、木の傍でどんよりとしゃがみこんでいた。

「うぅ……ひとつくらい使えると思ったのになあ」

 シチュリアはちらりとアーサーを見た。彼の胸には確かに魔力の器がある。それなのに、彼が杖を持っても、呪文を唱えても、器から魔力が流れてこない。魔力は器に留まったまま、ぴくりとも動いていないのだ。

 しばらく考えを巡らせていた彼女は、初歩的な問題に気付いた。

「アーサー、ご自身の魔力は感じますか?」

「えーっと……」

シチュリアの質問に、アーサーは目を泳がせる。

「胸の中に、今までになかったものがある違和感はありませんか?」

「わか……んない……」

「いつもより力が漲ってきたりはしませんか?」

「むしろいつもより力が出ない……」

「あら……」

やはり、アーサーは自分の魔力を感じることができないようだ。それでは魔力をコントロールすることなんてとてもできない。魔法を使う以前の問題だった。

「それでは調べようがありませんね……。ご自身の魔力を感じることから始めないと……。ですが残念ながら、今までのあなたを見ている限り……あなたに魔法のセンスは皆無ですね」

「うぅっ……」

「あなたのような人は稀にいるんです。魔力の器はあるのに、自身の魔力を感じることができないから魔法を使えないという人。本来であれば、魔力を持っている人は自身の魔力をごく自然に感じ取ることができます。後天的に与えられた人でも、同じだと思うのですが……」

 アーサーは子犬のような目でシチュリアを見上げた。
 そんな彼に眉ひとつ動かさず、シチュリアは淡々と考えを述べる。

「それすらもできないこの現象は、魔法のセンスがなさすぎて起こってしまう。いくら魔力を持っていても、感じられなければ魔法を放つなんて到底無理な話でして。つまり宝の持ち腐れ……」

「ぐふぅっ……」

言葉のナイフがずぶずぶと突き刺さり、アーサーはうめき声をあげながら地面にへたり込んだ。

「魔法ってこんなに難しいの……? 魔力があっても使えないことなんてあるのぉ……?」

「あります。そう言った方は恐ろしく魔法のセンスがないので、鍛えようがありません」

「あぁぁ……」

「諦めましょうアーサー。あなたに魔法は使えません。残念ですが」

そう言って、シチュリアは踵を返して小屋へ歩き出した。

後ろから足音が聞こえないので振り返ると、アーサーはまだ木の傍でへたり込んでいる。

「アーサー。小屋へ戻りましょう」

「……」

「アーサー」

何度呼んでもアーサーは動こうとしない。シチュリアはめんどくさそうに引き返し、アーサーの手首を掴み立たせようとした。

「戻りますよ」

「……もうちょっと、練習する」

「いいえ。時間の無駄ですよ。いくら練習しても魔法は使えません」

「練習する!」

隠そうともせずに大きなため息をついたシチュリアを、アーサーは真っすぐと見つめる。

「シチュリアは戻ってて。僕、ひとりで大丈夫だから」

「……分かりました。好きにしてください」

「うん! ありがとう、シチュリア!」

それじゃあ遠慮なく、というように、シチュリアはそそくさと小屋へ戻って行った。

アーサーは頬を手で叩き、「がんばるぞ!」と意気込んだ。

教えてもらった呪文を声が枯れるまで詠唱した。何度も何度も杖を振った。
夕飯時になっても戻ってこないので、心配になったモニカが森へ様子を見に来た。
彼女には呪文も杖の振り方も分からないので、兄が頑張っている姿を、果物を齧りながら見学する。
空が暗くなっても、寝る時間になっても、双子は小屋に戻ってこなかった。
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