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北部編:イルネーヌ町
クルドのアジト
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モニカはこの感覚を知っていた。赤の他人であるアーサーとモニカを、何の得もないのに助けようとしてくる大人の優しさ。恐怖に埋もれていたその温かい感覚を、彼女は少し思い出した。
クルドパーティはアイテムボックスに武器を全て放り込み、モニカに預けた。隠し武器がないことを確認させてもまだモニカが怖がっていたので、マデリアが自分の手首を折った。
「な、なにしてるの!?」
「私レベルの魔法使いになると、杖がなくても無詠唱で魔法を放てるでしょ。でも手首を折ったから術式に沿って手は動かせなくなったわ。念のため沈黙の状態異常をかける薬も飲むから――」
「そこまでしなくていい!! ごめんなさい、マデリア! わたしが疑ったばっかりに無茶させて……」
「モニカ。あなたたちの立場であれば、私はむしろそのくらいがいいと思うわよ。人を無条件に信じることは美しいわ。でも、それで自分の命を危険に晒すくらいなら、美しくなくたっていいもの」
「分かった! 分かったから、もうそれ以上はしないで! ああ、ごめんね。わたしの回復魔法でも、骨折はすぐには治せないの……」
「大丈夫よ。すぐに治るもの」
モニカは預かったアイテムボックスを抱きしめて項垂れた。そして、マデリアの折れていない方の手を握る。
「ごめんねみんな。ありがとう。アジトへ連れて行って」
双子が素材の査定を待っていると聞いたクルドは、買取受付に声をかけた。彼の「できるだけ早く支払いを済ませてくれ」という一言だけで、五分後には双子に金貨七十枚が支払われた。
その後、クルドパーティと双子は、冒険者ギルドを出て二十分ほど歩いた。町のはずれにある大きな家が、クルドパーティのアジトだった。
アジトへ入ったミントは、暖炉とランプに火魔法を放ち、部屋いっぱいに温風の風魔法を流し込んだ。部屋があっという間に温まり、寒さに震えていた双子はほぉっと息を吐いた。
リビングのソファにクルドたちと双子が腰かける。ミントが淹れてくれた温かい飲み物を啜りながら、クルドが口を開いた。
「お前らがアウス王子とモリア王女だってのは、間違いねえか?」
「うん……」
「だよな。俺たちは一年前から、王子と王女暗殺の指定依頼を受けてたんだ」
「……」
「依頼元は、ヴィクス王子だった」
「え……」
双子はクルドの言葉に耳を疑った。
ヴィクスがそんな依頼をするはずがない。なぜならウィルクが、ヴィクスが今でも双子のことを慕っていると言っていたからだ。
「クルド……。国王か王妃の間違いじゃないの? ヴィクスがそんなことするはず――」
「いや、間違いなくヴィクス王子からだ」
クルドは即座にアーサーの言葉に首を振った。
サンプソンは、不思議そうな目でアーサーを見ている。
「どうして君は、ヴィクス王子がそんなことするはずないと思うんだい? 僕は正に王子が依頼しそうなことだと思ったよ。冷酷非情なヴィクス王子だからこそ、血のつながっている兄と姉の暗殺を依頼するだろうし、なにより第一王位継承権を奪われる恐れもあるじゃないか。そりゃ、殺したいと思うよねえ。僕がヴィクス王子の立場であっても、暗殺の依頼をしたかも」
「ヴィクスはそんな子じゃないもん……」
「アーサーはヴィクス王子のこと、本当に知ってるのかな~?」
ミントの言葉に、アーサーはムッと顔をしかめた。その反応を見ても、彼女はニコッと笑うだけだ。
「私たちはね、何度かヴィクス王子と会ったことがあるんだよ~。一年前の、あなたたちの暗殺を指定依頼されたときも、ちゃんと王城でヴィクス王子と対面して受けたの~。その時に彼ね、謁見の間でだよ? 彼に逆らった臣下の一人の首をはねたの」
「っ……」
「ヴィクス王子は命令しただけで、首をはねたのは衛兵だったけどね~。彼は臣下を殺してもニコニコ笑ってた。もうあれは、人の心を捨てたとしか思えなかったよね~」
ミントに同意を求められたサンプソンが大きく頷く。
「ああ。人のことを人とは思っていない様子だった。命令に逆らったらこうなると、僕たちに見せつけるためだけに臣下を殺したようにも見えたよ。分かるかいアーサー? 彼はそのくらい平気で人を殺せる人なんだ」
「その上、今のバンスティン国民が苦しめられているだって政策だってヴィクス王子の命令だと聞くし、他にも色々と……ね?」
アーサーとモニカは言葉を失った。二人が知っているヴィクスは、アーサーの腹に短剣を刺すだけでこの世の終わりのような表情を浮かべて、泣きながら謝っていた。そんな子が、人を殺すことなんてできるわけがない。
双子が納得していないことは分かっていたが、クルドは話を続けることにした。
クルドパーティはアイテムボックスに武器を全て放り込み、モニカに預けた。隠し武器がないことを確認させてもまだモニカが怖がっていたので、マデリアが自分の手首を折った。
「な、なにしてるの!?」
「私レベルの魔法使いになると、杖がなくても無詠唱で魔法を放てるでしょ。でも手首を折ったから術式に沿って手は動かせなくなったわ。念のため沈黙の状態異常をかける薬も飲むから――」
「そこまでしなくていい!! ごめんなさい、マデリア! わたしが疑ったばっかりに無茶させて……」
「モニカ。あなたたちの立場であれば、私はむしろそのくらいがいいと思うわよ。人を無条件に信じることは美しいわ。でも、それで自分の命を危険に晒すくらいなら、美しくなくたっていいもの」
「分かった! 分かったから、もうそれ以上はしないで! ああ、ごめんね。わたしの回復魔法でも、骨折はすぐには治せないの……」
「大丈夫よ。すぐに治るもの」
モニカは預かったアイテムボックスを抱きしめて項垂れた。そして、マデリアの折れていない方の手を握る。
「ごめんねみんな。ありがとう。アジトへ連れて行って」
双子が素材の査定を待っていると聞いたクルドは、買取受付に声をかけた。彼の「できるだけ早く支払いを済ませてくれ」という一言だけで、五分後には双子に金貨七十枚が支払われた。
その後、クルドパーティと双子は、冒険者ギルドを出て二十分ほど歩いた。町のはずれにある大きな家が、クルドパーティのアジトだった。
アジトへ入ったミントは、暖炉とランプに火魔法を放ち、部屋いっぱいに温風の風魔法を流し込んだ。部屋があっという間に温まり、寒さに震えていた双子はほぉっと息を吐いた。
リビングのソファにクルドたちと双子が腰かける。ミントが淹れてくれた温かい飲み物を啜りながら、クルドが口を開いた。
「お前らがアウス王子とモリア王女だってのは、間違いねえか?」
「うん……」
「だよな。俺たちは一年前から、王子と王女暗殺の指定依頼を受けてたんだ」
「……」
「依頼元は、ヴィクス王子だった」
「え……」
双子はクルドの言葉に耳を疑った。
ヴィクスがそんな依頼をするはずがない。なぜならウィルクが、ヴィクスが今でも双子のことを慕っていると言っていたからだ。
「クルド……。国王か王妃の間違いじゃないの? ヴィクスがそんなことするはず――」
「いや、間違いなくヴィクス王子からだ」
クルドは即座にアーサーの言葉に首を振った。
サンプソンは、不思議そうな目でアーサーを見ている。
「どうして君は、ヴィクス王子がそんなことするはずないと思うんだい? 僕は正に王子が依頼しそうなことだと思ったよ。冷酷非情なヴィクス王子だからこそ、血のつながっている兄と姉の暗殺を依頼するだろうし、なにより第一王位継承権を奪われる恐れもあるじゃないか。そりゃ、殺したいと思うよねえ。僕がヴィクス王子の立場であっても、暗殺の依頼をしたかも」
「ヴィクスはそんな子じゃないもん……」
「アーサーはヴィクス王子のこと、本当に知ってるのかな~?」
ミントの言葉に、アーサーはムッと顔をしかめた。その反応を見ても、彼女はニコッと笑うだけだ。
「私たちはね、何度かヴィクス王子と会ったことがあるんだよ~。一年前の、あなたたちの暗殺を指定依頼されたときも、ちゃんと王城でヴィクス王子と対面して受けたの~。その時に彼ね、謁見の間でだよ? 彼に逆らった臣下の一人の首をはねたの」
「っ……」
「ヴィクス王子は命令しただけで、首をはねたのは衛兵だったけどね~。彼は臣下を殺してもニコニコ笑ってた。もうあれは、人の心を捨てたとしか思えなかったよね~」
ミントに同意を求められたサンプソンが大きく頷く。
「ああ。人のことを人とは思っていない様子だった。命令に逆らったらこうなると、僕たちに見せつけるためだけに臣下を殺したようにも見えたよ。分かるかいアーサー? 彼はそのくらい平気で人を殺せる人なんだ」
「その上、今のバンスティン国民が苦しめられているだって政策だってヴィクス王子の命令だと聞くし、他にも色々と……ね?」
アーサーとモニカは言葉を失った。二人が知っているヴィクスは、アーサーの腹に短剣を刺すだけでこの世の終わりのような表情を浮かべて、泣きながら謝っていた。そんな子が、人を殺すことなんてできるわけがない。
双子が納得していないことは分かっていたが、クルドは話を続けることにした。
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