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翌朝、朝食の席に着いたら、いつもは笑顔で挨拶だけはしてくれる義母から、冷たい目を向けられた。
それに対して、ニコニコと私に笑いかけてくるティエリ。
いつもならティエリにほっこり癒されるだけだけど、今日は居心地が悪い。
ティエリは何か良からぬことを言ってしまったんじゃないだろうか?
「サシャ」
しかも、今まで話しかけてこなかった父が話しかけてきた。
これまた、冷たい声で。
嫌な予感しかない。
「何でしょうか」
こくり、と唾を飲む。
早くもここで、ざまぁが行われないことだけを祈る。
「お前は、ティエリとの結婚を考えているのか?」
「いいえ、お父様。そんなこと、考えたこともありません」
やっぱり、ティエリ言っちゃってる!
あれだけ止めたのに。
「嘘よ。ティエリを唆したのでしょう?」
義母から睨まれる。
「お義父様、お母様! 僕がお義姉様と結婚はできないのか聞いただけです。お義姉様は関係ありません!」
ムッとするティエリは、単純にかわいい。
状況が違えば、微笑ましく眺められるのに。
だけど今は、火に油だ。
私は小さく息を吐いた。
「ティエリ。将来、ティエリはきっと、凄く素敵なご令嬢との縁ができるわ。だから、自分が誰とも結婚できないんじゃないかって、心配することはないのよ? 現に、ティエリはこの家で、一番愛されているんだもの」
私の言葉に、ティエリが、え、と声を漏らす。
ティエリの言いたいこととは違うのはわかるけど、最悪私は、二度とティエリに会わせてもらえなくなる。
癒しがなくなると困る。
「ティエリ、そんな心配をしていたの? そんな心配をしなくても大丈夫よ。私のティエリは、誰からも好かれるに決まっているわ」
義母が愛おしそうにティエリに視線を向けた。
ティエリが眉を下げて私を見るから、私は父に顔を向ける。
これ以上変なことを言われて、両親に不興を買うのは避けたかった。
「ティエリは、次期ミストラル伯爵です。ですから、ミストラル伯爵家を盛り立てていくのにふさわしい令嬢と結婚して欲しいですわ。私だって、実家が廃れてしまっては困ります」
きっぱりと告げる。
正直、ミストラル伯爵家がどうなるか、よりも、ティエリが路頭に迷うと困る、ってことしかない。
私は、市井に下るつもりでいるのだし、私の将来には実家がどうなっていようと無関係だ。
父は訝しそうに私を見る。
――信頼はされてないのだと突き付けられて、心が重くなる。
既にわかっていたとしても、やっぱり目の前に突き付けられると、堪える。
「それはわかっているのね」
安堵した様子で口元を上げた義母の隣で、ティエリが目を伏せる。
伏せる前の涙目に、キュンとしちゃったことは許してほしい。
泣かせたくてティエリを拒否したわけではないけど。
だけどティエリの気持ちは、一番身近にいる異性に対する憧れだと思うから。
「お父様、お願いがあります」
いい機会だと、私は父に声を掛けた。
少なくとも、それまでの食事の時間に、私が父に話しかけられそうな雰囲気はみじんもなかったし、言い出していいものなのか迷っていた。
「……何だ」
娘のお願いに、警戒心むき出しって……。
でも、このお願いは、私はティエリを狙っていなくて、外で結婚するつもりだよアピールにもなると思う。
唾を飲むと、カラカラになった喉が少しだけ潤う。
「私に、家庭教師と刺繍を教えてくれる方をつけてくださいませんか」
予想外のお願いだったのか、父がぽかんと口を開けた。
それに対して、ニコニコと私に笑いかけてくるティエリ。
いつもならティエリにほっこり癒されるだけだけど、今日は居心地が悪い。
ティエリは何か良からぬことを言ってしまったんじゃないだろうか?
「サシャ」
しかも、今まで話しかけてこなかった父が話しかけてきた。
これまた、冷たい声で。
嫌な予感しかない。
「何でしょうか」
こくり、と唾を飲む。
早くもここで、ざまぁが行われないことだけを祈る。
「お前は、ティエリとの結婚を考えているのか?」
「いいえ、お父様。そんなこと、考えたこともありません」
やっぱり、ティエリ言っちゃってる!
あれだけ止めたのに。
「嘘よ。ティエリを唆したのでしょう?」
義母から睨まれる。
「お義父様、お母様! 僕がお義姉様と結婚はできないのか聞いただけです。お義姉様は関係ありません!」
ムッとするティエリは、単純にかわいい。
状況が違えば、微笑ましく眺められるのに。
だけど今は、火に油だ。
私は小さく息を吐いた。
「ティエリ。将来、ティエリはきっと、凄く素敵なご令嬢との縁ができるわ。だから、自分が誰とも結婚できないんじゃないかって、心配することはないのよ? 現に、ティエリはこの家で、一番愛されているんだもの」
私の言葉に、ティエリが、え、と声を漏らす。
ティエリの言いたいこととは違うのはわかるけど、最悪私は、二度とティエリに会わせてもらえなくなる。
癒しがなくなると困る。
「ティエリ、そんな心配をしていたの? そんな心配をしなくても大丈夫よ。私のティエリは、誰からも好かれるに決まっているわ」
義母が愛おしそうにティエリに視線を向けた。
ティエリが眉を下げて私を見るから、私は父に顔を向ける。
これ以上変なことを言われて、両親に不興を買うのは避けたかった。
「ティエリは、次期ミストラル伯爵です。ですから、ミストラル伯爵家を盛り立てていくのにふさわしい令嬢と結婚して欲しいですわ。私だって、実家が廃れてしまっては困ります」
きっぱりと告げる。
正直、ミストラル伯爵家がどうなるか、よりも、ティエリが路頭に迷うと困る、ってことしかない。
私は、市井に下るつもりでいるのだし、私の将来には実家がどうなっていようと無関係だ。
父は訝しそうに私を見る。
――信頼はされてないのだと突き付けられて、心が重くなる。
既にわかっていたとしても、やっぱり目の前に突き付けられると、堪える。
「それはわかっているのね」
安堵した様子で口元を上げた義母の隣で、ティエリが目を伏せる。
伏せる前の涙目に、キュンとしちゃったことは許してほしい。
泣かせたくてティエリを拒否したわけではないけど。
だけどティエリの気持ちは、一番身近にいる異性に対する憧れだと思うから。
「お父様、お願いがあります」
いい機会だと、私は父に声を掛けた。
少なくとも、それまでの食事の時間に、私が父に話しかけられそうな雰囲気はみじんもなかったし、言い出していいものなのか迷っていた。
「……何だ」
娘のお願いに、警戒心むき出しって……。
でも、このお願いは、私はティエリを狙っていなくて、外で結婚するつもりだよアピールにもなると思う。
唾を飲むと、カラカラになった喉が少しだけ潤う。
「私に、家庭教師と刺繍を教えてくれる方をつけてくださいませんか」
予想外のお願いだったのか、父がぽかんと口を開けた。
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