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「どうしてアンドレ殿下はそちらのフィリ殿と正式な形で添い遂げる方法を自ら切り開こうとしないのです?」
ティエリがニコリと笑う。
もちろん、天使の笑顔で。
私は心の中でハラハラしている。
もちろん、笑顔は崩さないけど。
問題は、ここがミストラル伯爵家ではなく、王宮ってことだろうか。
殿下のミストラル伯爵家への襲撃の翌日、早速王宮へのお誘いが来た。
もちろん、私だけが呼ばれたんだけど。
いい機会だと、ティエリが駄々をこねたふりをして、王宮についてきたってわけだ。
「……サシャ嬢。弟君は、何を言っているのかな?」
笑顔で私を見る殿下の目は、一切笑ってない。
傍に立つ騎士の放つ圧は、当然強まった。
「先日の私の提案を、より具体的にする案だと存じます」
だけど私は、このプロジェクトを遂行するため、そんなもの知らないふりしてニコリと笑った。
こっちだって、伊達に前世で社会人経験積んできたわけじゃない。
私たちの目的は、殿下が騎士と添い遂げられるよう、新しい法律を作るように働きかけることだ。
「ミストラル伯爵家は、次の代で貴族位をはく奪されたいのかな?」
冷たい視線が私とティエリに刺さる。
「殿下がそうしたいのであれば、それで構いません」
今、正式なミストラル伯爵家の跡継ぎは、ティエリだ。
だから、ティエリが答えた。
元々ミストラル伯爵家から出るつもりだった私は、ティエリが必要ないというのであれば、それで構いはしない。
……本当にいいのかな、と思ってはいるけど。
「……一体、どういうことかな。サシャ嬢」
「聞こえませんでしたでしょうか? ティエリの答えた通りですわ」
「ミストラル伯爵家を取り潰すことで、サシャが殿下の婚約者になることも、王家に輿入れすることもあり得なくなりますからね。その方がいいのかもしれません。私の隣に、サシャがいる未来を作るためなら、ミストラル伯爵家の存続など、どうでもよいのです」
ティエリは言い切ると、私に視線を向けた。
ティエリの一途な気持ちが、胸に迫る。
でも殿下は頭を振った。
「ティエリ殿、幼い恋心を守りたいという気持ちは、よくわかるよ。だが、恋など、一時の気の迷いだ。ミストラル伯爵家が取り潰されたら、君たちが、君たち家族がどうなるのか、よく考えた方がいい」
ティエリに向かって、優しく説き伏せようとする殿下の口調は、まだティエリが幼いと思っているせいもあって、どこか馬鹿にしたような空気がある。
私のティエリを馬鹿にするって?
沸々と怒りが湧く。
「殿下のフィリ様へのお気持ちは、一時の気の迷いでしかありませんのね? だから、フィリ様の目の前で、私に婚約しようと簡単に言えてしまえるのですね?」
殿下を見ると、殿下の顔がカッと赤らむ。
「何を!」
「殿下」
殿下が腰を浮かそうとするのを、騎士が声で制する。
「一時の気の迷いですもの、ね? 流石にフィリ様は、ご自分の立場をよくわかっておられるわ。殿下の戯れに耳を傾けるのも、騎士の役目なんでしょうね」
私が視線を騎士に向ければ、騎士は目をそっと伏せた。
「サシャ嬢、口を慎みたまえ」
殿下の声は苛立っている。
「あら、どうしてかしら?」
「ありもしないことで、私とフィリを貶める発言はどうかな」
「ああ。今殿下は、もうフィリ様にお気持ちがなくなってしまわれたのね? だから、私が掘り返すのが都合が悪いんでしょう? ごめんなさい。フィリ様。そういうこと、らしいわ」
視界に入った騎士の手は、小さく震えている。
「違う!」
殿下の声が焦る。
「殿下、何が違うのです?」
「サシャ嬢、もうこれ以上、フィリを傷つけないでくれ」
どうやら、私はとりあえず勝ったらしい。
ティエリがニコリと笑う。
もちろん、天使の笑顔で。
私は心の中でハラハラしている。
もちろん、笑顔は崩さないけど。
問題は、ここがミストラル伯爵家ではなく、王宮ってことだろうか。
殿下のミストラル伯爵家への襲撃の翌日、早速王宮へのお誘いが来た。
もちろん、私だけが呼ばれたんだけど。
いい機会だと、ティエリが駄々をこねたふりをして、王宮についてきたってわけだ。
「……サシャ嬢。弟君は、何を言っているのかな?」
笑顔で私を見る殿下の目は、一切笑ってない。
傍に立つ騎士の放つ圧は、当然強まった。
「先日の私の提案を、より具体的にする案だと存じます」
だけど私は、このプロジェクトを遂行するため、そんなもの知らないふりしてニコリと笑った。
こっちだって、伊達に前世で社会人経験積んできたわけじゃない。
私たちの目的は、殿下が騎士と添い遂げられるよう、新しい法律を作るように働きかけることだ。
「ミストラル伯爵家は、次の代で貴族位をはく奪されたいのかな?」
冷たい視線が私とティエリに刺さる。
「殿下がそうしたいのであれば、それで構いません」
今、正式なミストラル伯爵家の跡継ぎは、ティエリだ。
だから、ティエリが答えた。
元々ミストラル伯爵家から出るつもりだった私は、ティエリが必要ないというのであれば、それで構いはしない。
……本当にいいのかな、と思ってはいるけど。
「……一体、どういうことかな。サシャ嬢」
「聞こえませんでしたでしょうか? ティエリの答えた通りですわ」
「ミストラル伯爵家を取り潰すことで、サシャが殿下の婚約者になることも、王家に輿入れすることもあり得なくなりますからね。その方がいいのかもしれません。私の隣に、サシャがいる未来を作るためなら、ミストラル伯爵家の存続など、どうでもよいのです」
ティエリは言い切ると、私に視線を向けた。
ティエリの一途な気持ちが、胸に迫る。
でも殿下は頭を振った。
「ティエリ殿、幼い恋心を守りたいという気持ちは、よくわかるよ。だが、恋など、一時の気の迷いだ。ミストラル伯爵家が取り潰されたら、君たちが、君たち家族がどうなるのか、よく考えた方がいい」
ティエリに向かって、優しく説き伏せようとする殿下の口調は、まだティエリが幼いと思っているせいもあって、どこか馬鹿にしたような空気がある。
私のティエリを馬鹿にするって?
沸々と怒りが湧く。
「殿下のフィリ様へのお気持ちは、一時の気の迷いでしかありませんのね? だから、フィリ様の目の前で、私に婚約しようと簡単に言えてしまえるのですね?」
殿下を見ると、殿下の顔がカッと赤らむ。
「何を!」
「殿下」
殿下が腰を浮かそうとするのを、騎士が声で制する。
「一時の気の迷いですもの、ね? 流石にフィリ様は、ご自分の立場をよくわかっておられるわ。殿下の戯れに耳を傾けるのも、騎士の役目なんでしょうね」
私が視線を騎士に向ければ、騎士は目をそっと伏せた。
「サシャ嬢、口を慎みたまえ」
殿下の声は苛立っている。
「あら、どうしてかしら?」
「ありもしないことで、私とフィリを貶める発言はどうかな」
「ああ。今殿下は、もうフィリ様にお気持ちがなくなってしまわれたのね? だから、私が掘り返すのが都合が悪いんでしょう? ごめんなさい。フィリ様。そういうこと、らしいわ」
視界に入った騎士の手は、小さく震えている。
「違う!」
殿下の声が焦る。
「殿下、何が違うのです?」
「サシャ嬢、もうこれ以上、フィリを傷つけないでくれ」
どうやら、私はとりあえず勝ったらしい。
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