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行方不明
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「アリスがいない!」
ハースの言葉に、教室に緊張感が走る。
クラスメイトたちは各々に目配せをして、何もなかったかのように、いつもと同じ行動をとる。
つまり、アリスバカスルーだ。
「誰か、アリスの居場所を知らないか?!」
こんなに焦っているハースは珍しい。手帳を落とした時くらいにしか見ない光景だ。
「教員室にでも行ったんじゃないのか」
マークが答える。
皆も、コクコクと頷いていて、異論を唱える人間は誰もいなかった。
──ハース以外は。
「今の時間、アリスが教員室に行くわけがないんだ。行くとしたらもっと前の時間か、もっと後の時間。今までの傾向からして、ありえない!」
クラスメイトは、アリスの行動パターンを知り尽くしているハースに、尊敬と、同じくらいの呆れの感情を持った。
「じゃあ、トイレじゃないか?」
「この時間には行かない」
クラスメイトは、詳細にトイレパターンを知っているハースに、反応しづらかった。
「アリスはどこに行ったんだ!?」
「荷物があるんだから、帰ってくるだろう」
ものすごく真っ当なことをマークが告げる。
だが、ハースに半目で見られた。
「今、どこにいるのか知りたいんだ!」
みんなが気まずそうに目配せをする。
「……もしかして、皆、アリスがどこにいるのか、知っているのかな?」
ハースの背中に、冷気が漂う。
ピキリ、と教室の空気が固まる。
クラスメイト達は、心の中で祈る。
早く!
皆の気持ちは、一緒だった。
ガラッ
ドアが開く音に、クラスメイト達は安堵した。
「あれ、ハースどうしたの?」
アリスがケリーと共に入って来た。
「……アリスこそ、どうして……」
冷気を消し去ったハースが、アリスの目の前まできて、首を傾げる。
アリスは制服ではなく、ドレスを着て着飾っていた。
「着飾ってる方が、ハースが喜ぶだろうって、みんなが」
ハースが教室を見回すと、みんなは目を逸らした。
「どうして?」
ハースの疑問に、アリスがクスリと笑う。
「自分の誕生日、忘れちゃった?」
「え、あー。まあ、アリスの誕生日じゃないから、どうでもいいと言うか……」
ハースは曖昧に返事をした。いままで、自分の誕生日にそれほどこだわりもなかった。ただ、アリスが祝ってくれることが嬉しいだけだったからだ。
「いつもいつも、興味がなさそうだから、今年はちょっと変わったことがしたいって思ったの」
アリスはドレスをつまんで礼をとった。
クラスメイト達が並んでいる机を動かして、教室の真ん中にスペースを作る。
「1曲踊っていただけますか?」
上目遣いのアリスに、ハースが照れる。
「勿論。俺以外にアリスのパートナーはあり得ないからね」
教室に曲が流れ始める。見れば、クラスメイトの一人がバイオリンを奏でていた。
教室の真ん中で、ハースにリードされてアリスが踊り始める。
二人の息は、当然のようにピッタリだった。
「ハース、誕生日おめでとう」
アリスが告げると、ハースの顔がほころぶ。
「こんな美しいアリスがもらえるなんて、すばらしい誕生日になったよ」
「私がプレゼントじゃないんだけど」
アリスが笑う。
「いや、俺にとっては、アリスが俺のために準備してくれて着飾ったりしてくれたっていうことが、一番のプレゼントだよ」
「ハースが生まれて来た日を、一緒に喜びたかったから」
アリスが微笑む。
と、ハースがアリスを突然横抱きにする。
「ちょっと、ハース! どうして?!」
「やっぱり、こんなに美しいアリスを他の人の目にできるだけ触れさせたくないんだ!」
教室に残されたクラスメイト達は、ある意味予想通りの行動をとったハースに呆れを通り越して、笑いがこみ上げてきた。
やはりハースは、ハースだった。
1曲踊ってハースを驚かすと言うアリスの案は、見事に失敗した。
だが、忘れられない誕生日にしたいというアリスの願いは、間違いなく成功しただろう。
ハースの言葉に、教室に緊張感が走る。
クラスメイトたちは各々に目配せをして、何もなかったかのように、いつもと同じ行動をとる。
つまり、アリスバカスルーだ。
「誰か、アリスの居場所を知らないか?!」
こんなに焦っているハースは珍しい。手帳を落とした時くらいにしか見ない光景だ。
「教員室にでも行ったんじゃないのか」
マークが答える。
皆も、コクコクと頷いていて、異論を唱える人間は誰もいなかった。
──ハース以外は。
「今の時間、アリスが教員室に行くわけがないんだ。行くとしたらもっと前の時間か、もっと後の時間。今までの傾向からして、ありえない!」
クラスメイトは、アリスの行動パターンを知り尽くしているハースに、尊敬と、同じくらいの呆れの感情を持った。
「じゃあ、トイレじゃないか?」
「この時間には行かない」
クラスメイトは、詳細にトイレパターンを知っているハースに、反応しづらかった。
「アリスはどこに行ったんだ!?」
「荷物があるんだから、帰ってくるだろう」
ものすごく真っ当なことをマークが告げる。
だが、ハースに半目で見られた。
「今、どこにいるのか知りたいんだ!」
みんなが気まずそうに目配せをする。
「……もしかして、皆、アリスがどこにいるのか、知っているのかな?」
ハースの背中に、冷気が漂う。
ピキリ、と教室の空気が固まる。
クラスメイト達は、心の中で祈る。
早く!
皆の気持ちは、一緒だった。
ガラッ
ドアが開く音に、クラスメイト達は安堵した。
「あれ、ハースどうしたの?」
アリスがケリーと共に入って来た。
「……アリスこそ、どうして……」
冷気を消し去ったハースが、アリスの目の前まできて、首を傾げる。
アリスは制服ではなく、ドレスを着て着飾っていた。
「着飾ってる方が、ハースが喜ぶだろうって、みんなが」
ハースが教室を見回すと、みんなは目を逸らした。
「どうして?」
ハースの疑問に、アリスがクスリと笑う。
「自分の誕生日、忘れちゃった?」
「え、あー。まあ、アリスの誕生日じゃないから、どうでもいいと言うか……」
ハースは曖昧に返事をした。いままで、自分の誕生日にそれほどこだわりもなかった。ただ、アリスが祝ってくれることが嬉しいだけだったからだ。
「いつもいつも、興味がなさそうだから、今年はちょっと変わったことがしたいって思ったの」
アリスはドレスをつまんで礼をとった。
クラスメイト達が並んでいる机を動かして、教室の真ん中にスペースを作る。
「1曲踊っていただけますか?」
上目遣いのアリスに、ハースが照れる。
「勿論。俺以外にアリスのパートナーはあり得ないからね」
教室に曲が流れ始める。見れば、クラスメイトの一人がバイオリンを奏でていた。
教室の真ん中で、ハースにリードされてアリスが踊り始める。
二人の息は、当然のようにピッタリだった。
「ハース、誕生日おめでとう」
アリスが告げると、ハースの顔がほころぶ。
「こんな美しいアリスがもらえるなんて、すばらしい誕生日になったよ」
「私がプレゼントじゃないんだけど」
アリスが笑う。
「いや、俺にとっては、アリスが俺のために準備してくれて着飾ったりしてくれたっていうことが、一番のプレゼントだよ」
「ハースが生まれて来た日を、一緒に喜びたかったから」
アリスが微笑む。
と、ハースがアリスを突然横抱きにする。
「ちょっと、ハース! どうして?!」
「やっぱり、こんなに美しいアリスを他の人の目にできるだけ触れさせたくないんだ!」
教室に残されたクラスメイト達は、ある意味予想通りの行動をとったハースに呆れを通り越して、笑いがこみ上げてきた。
やはりハースは、ハースだった。
1曲踊ってハースを驚かすと言うアリスの案は、見事に失敗した。
だが、忘れられない誕生日にしたいというアリスの願いは、間違いなく成功しただろう。
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