2つの世界の架け橋

明人

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母を呼ぶ声

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「だいじょ…」
ぶですか?と続くはずだった言葉が思わず止まる。そこに居たのは全身が緑の羽毛で包まれた鳥人の魔族だった。胸に剣が突き刺さっているのが確認できる。
敵だ。治療する必要なんてない。分かってる。
だが、彼の胸は確かに上下していた。そして血が零れるくちばしから声がした。
「かー…ちゃん…」
駄目だった。そんな言葉を聞いたら。
放ってなんておけない!!!
「大丈夫ですか!?意識を保ってください!!!」
血の溢れる胸元を押さえる。出血が多い。臓器を傷つけている可能性もある。けど、何もしないなんて出来ない。
「剣を引き抜いてすぐさま治癒魔法をかけます!痛いですが意識飛ばさないでください!!私の全力で貴方を助けます!!!」
虚ろな瞳が確かにリラを映した。剣を引き抜いた瞬間に血が溢れ出すだろう。その瞬間に治癒魔法をかけ、出血を最小限に抑えながら傷を塞ぐしかない。
「『命を紡ぐ糸。集いて繕えこの命。』」
魔法も慣れれば詠唱など必要ない。詠唱は魔法を発動しやすくするためにイメージしやすくしているだけだからだ。
だが、単純な魔法を強力にしたいならば詠唱で魔法の意識を更に高める必要がある。
命を繋ぎとめるイメージを…
「『注ぐ光が癒しをもたらす。流れるものは生きし証の熱きもの。巡りて命を動かそう。君の命を誇りとしよう』
これは人間にとって正しくない行為かもしれない。それでも、ここで見ないふりをすれば一生彼の姿が脳に焼き付いて離れないことだろう。だから、生きて。
「『治癒光ヒーリングシャイン』!!!」
呪文発動前に剣を引き抜く。溢れ出す血を浴びるも、治癒の魔法のイメージを消さない。
カーリラの強い意志を映すように、すぐに出血は収まり、みるみる傷は塞がった。それを見送った後、胸元に耳を当てればトクントクンと確かに生きている音がした。
ほっと胸を撫でおろし、自分の上着をそっとかける。本当ならばもっと体をしっかり温め、傍についていてあげなければならないが。
「ごめんなさい。私はまだ行かなきゃいけないから」
彼はまだボーッとした瞳でリラを見ていたが、リラは軽く頭を下げて走り出した。
剣の交わっている音がしている。その方向へと走れば倒れている人間の兵士と魔族の姿があった。魔族は皆ほぼ死んでいるのが分かったが、人間は足や手などを斬られ、重傷ではあるが生きている者が多い。
「医療団のカーリラです!救護に来ました!!」
そう叫び、近くに倒れていた兵士に応急処置をほどこしていた時、人間の兵の手によって飛んでいく魔族の首が見えた。
歓喜の声を上げる人間の兵士達の姿に
絶句した。
だが、ハッと当たり前のことだと我に返る。敵を討ち取ったんだから喜んで当たり前だ。
その時だった。また激しく大地が震えた。立っていることもままならず地面に膝をついた時、大きな爆発音を耳にした。
見上げた先では街の近くにあった山が火を吹き上げていた。同時に赤く燃えた石が次々と降り注いでくる。
その石が自分の真上から落ちてくる。それをジッと見ながら体は動かなかった。
ああ、死ぬのかと客観的にそう思った。
その時、耳元で声がした。
「やっと見つけた」
とても艶のあるその声と共にカーリラは意識を失った。
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