2つの世界の架け橋

明人

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後見

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リラはドキドキと激しい動悸に襲われながら全力で廊下を走っていた。
この動悸は恐怖からなのか、それとも異性に触れられたことに対してなのか、それとも王だからなのかあらゆる全てが分からず発散したかった。
がむしゃらに走っていたリラは前も見ておらず、角から出てきた相手に勢いよくぶつかり、尻餅をついた。
「す、すみません。大丈夫です...か...」
尻餅をついた、リラに対して相手は微動だにしていなかったが、謝罪も兼ねて顔を上げそこにいた相手に驚いた。
そこに居たのは猫人団団長。獅子のレオンだった。
初めて会った時彼は他と同様リラに対して好意的ではなかった。シルヴィアの顔に免じてリラの逗留を認めたのだ。
そんな相手に全力でぶつかるという失礼をしてしまった事実にリラは震える。
「ま、ま、ま、前を見てなくて...す、すみません...」
とりあえず謝るしか出来ないリラはなんとか他の言葉を探そうと頭を巡らせるが、そんなリラを知ってか知らずかレオンがリラに手を差し伸べた。
リラは見下ろしてくるレオンの鋭い瞳と鋭い爪のついた手を交互に見比べながら、おずおずと手を重ねる。
その結果強い力で引き上げられ、リラは強制的に立ち上がった。
「このようなところで走るな」
「は、はい!すみません!!」
レオンはそれだけ言うとリラの横を通り過ぎて行き、リラはお咎めなしかとホッと胸を撫で下ろす。
「人間」
「はい!?」
安堵した直後声をかけられ、怒られるのだろうか、斬られるのだろうかと身構える。レオンは振り返らず言葉を続けた。
「嬢の命の恩人だと言うから貴様の存在を許した。だが、貴様の働きを見て少し考えが変わった。貴様は闇の魔法も使える。水の聖地の防衛の際、犬人族の若いのに殴られた時貴様はそいつを消し、実力で奴らを黙らせることもできた。しかしそれをせず、貴様は自身の仕事ぶりで荒れる奴らを黙らせた。その実力、その覚悟、その心意気に敬意を持って宣言する」
「宣言?」
何のことかと首を傾げるリラにレオンは振り返った。
「猫人団団長レオンは。貴様の後見となる。この言葉を嬢に伝えておけ」
「は、はい」
レオンはそう言って去って行った。
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