2つの世界の架け橋

明人

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銀貨

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表の大通りは人もそれなりに行き交い、賑やかさがあったが、裏路地は真逆だった。人の姿はほとんど見られず、静かだ。
そんな中、僅かに駆けてくるような足音が聞こえた。
すぐにリオンがリラを背に庇うが、もう一方から来た少年がリラにぶつかった。
「リラ!」
「平気です!」
「追いかけっこしてて、ごめんね!!」
リラにぶつかった少年はそう笑って謝りながら走っていく。
敵ではないかと息を吐いたリオンの前で、リラは先程買ったリンゴを手にし、大きく振りかぶった。
何をするのかリオンの予想のつかないままリラは綺麗なフォームでりんごを投げ、ものの見事に先程ぶつかってきた少年の後頭部にりんごを当てた。りんごは当たった面が砕けるほどの威力があり、少年は勢い余って前のめりに転ぶ。
「いってぇな!何すんだよ!!」
転んだ少年は後頭部を手で押さえながら、涙目で振り返った。
「あら、りんごより硬いじゃがいもの方が良かったかしら?」
じゃがいもを片手ににこりと微笑むリラに少年達はひぃと短い悲鳴を上げた。
リラは転んだ少年にゆっくりと歩み寄り、そのポケットを探る。
少年のポケットからはリラがシリウスから受け取った金貨の入った巾着が出てきたのだった。
「あの一瞬で盗んだのか...」
驚きの声を漏らすリオンにリラはええとため息をつく。
「私の弟や妹にも手癖が悪い子が居たから慣れてるわ。こういうことをしないと生きられないことも知ってる。けどこのお金は人から預かった大切な物なの。代わりに私が稼いだお金を渡すわ。大事に使ってね」
リラは少年に銀貨をいくつか握らせる。
少年は左右にいた仲間達に一枚ずつ銀貨を渡し、残った自分の物であろう一枚をリラに投げつけた。
それはリオンが受け取り、リラに当たることはなかった。
「いらねぇよ!このリンゴ女!!」
その声を合図にしたように子供達は逃げ出し、リラはニッコリ笑って即座に暴言を吐いた少年を捕まえた。
「私が何年弟達と鬼ごっこして来たと思ってるのよ」
「離せよ!!」
リラに掴まれている腕をどうにか解こうともがく少年にリラは優しく微笑む。
「同情や施しを受け取らないって言うなら、この先にある薬屋さんに安全なルートで案内して。そしたらその報酬として銀貨を渡すわ」
リラの提案に少年は少し考え、渋々ながら了承したのだった。
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