2つの世界の架け橋

明人

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余計なこと

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リラは泣き止んで落ち着いたレンと共に薬屋に寄り、手紙と地図を書いて渡した。
「私が暮らしてた孤児院への地図よ。首都行きの行商人の馬車に乗せて貰えばいいわ。お金は私が渡した分で足りると思う。もう一つは院長への手紙。院長なら貴方達が来ただけでも快く招き入れてくれるんだけど、私も長く院長と連絡を取ってないから私が元気にしてるってことだけでも伝えて欲しいの」
レンはリラから受け取った手紙と地図を握りしめ、大きく頷く。
「分かった。必ず渡す」
「うん。お願いね。またいつか会いましょう。レン」
「うん」
レンはリオンに目を向け、少し迷っているように視線を彷徨わせたが意を決めたように真っ直ぐリオンを見て叫んだ。
「俺!!兄ちゃんみたいに強くなるから!!絶対に!!だから、強くなったらいつか俺と手合わせしてくれ!」
リオンは驚きに少し目を丸くし、瞬いていたが、やがてふっと小さく笑う。
「あぁ、楽しみにしている」
リオンの言葉にレンは目を輝かせ、絶対だからな!!約束な!!と再び叫び走り出した。
その背を見送り、リラはニコニコと笑う。
「何を笑っている」
「いえ、なんだか微笑ましいなと思いまして。さて、薬の材料買って帰りましょうか」
「あぁ」
お使いに頼まれた物を買い、シリウスの家に戻る道中リオンが口を開いた。
「人間の世界にはあれほどの貧富の差があるのだな」
「そうですね。あの光景は珍しいものではないです。富むものは肥え、貧しいものは痩せていく。そんな世界が人間の一部ですがあります。その点魔族は飢えるということがないので安心ですよね」
「そうでもない。魔族は力が全てだ。魔族の王ともなれば魔族全てを牛耳ることとになる。嫌いな種を王の号令一つで根絶やしにも出来る。昔、人間を全て根絶やしにしようという危険な思想を持った者が居た。そいつとお...王が一騎討ちをし、王が勝ったために今の魔族の生活が確率している」
「では、陛下が勝ってくださってなければ、私はもう死んでいたかも知れないのですね...」
リラはギュッと手を握り締め、胸元に当てる。この鼓動は院長と、王が守ってくれたのだとそう思うと大事にしなければならないと改めて思った。
「それにしても水不足だとすぐに察するほど人間の王の目が行き届いている割には、貧しい者達には王の目が届かないのだな」
「ええ。確かに不足はしているみたいですが、生死を考えるほどではなさそうでしたね。少し違和感です」
「そうだな...」
シリウスの家の近くまで来ると、不意にリオンが立ち止まった。
「リオンさん?」
「護衛はもう十分だろう」
リオンは代わりに持っていた荷物をリラに預ける。
「え?陛下達にお会いしないんですか?」
「あぁ。俺は別件で来ていると言ったはずだ。それではな」
去っていくリオンを見送り、リラはしょうがないかと荷物を抱えて家へ帰った。
「おお!妹君、おかえり」
「ただいまです。シリウスさん。頼まれてたものは全部買えたと思います」
「うむ!間違いない!では早速吾輩は調合に入る!貴殿らは好きにしていてくれ」
シリウスは薬の材料達を嬉しそうに抱え、奥の部屋へ入りドアを閉めた。
「シリウスさんご飯は!?」
リラの声は聞こえていないのか、奥の部屋では楽しそうな笑い声が聞こえた。
「王はどうした?」
不意にオーリに問いかけられ、リラは首を傾げる。
「陛下ですか?地図を受け取った後別れたんですけど、戻られてないですか?」
「別れた?」
オーリが怪訝そうな顔をしていると、獣の姿をした王が戻ってきた。
「おかえりなさい。陛下」
「あぁ」
「?王、護衛に...」
行っていたのでは?というオーリの問いは王の鋭い睨みによって引っ込められた。
「食事は何を作るのだ?」
「ポテトサラダとハムエッグに、オニオンスープも作ろうかと。全部パンに合うので美味しいですよ」
「俺も手伝えるものは手伝おう」
「え!?陛下にそんな!」
「料理などしたことがない。経験してみたいのだ」
「そこまで仰るなら...」
台所の方に向かっていく2人の姿を呆然と見ているオーリにリヴェアが呟く。
「何でかは知らないけど余計なことは言うなってことみたいよ」
「...そのようだな」
オーリは深いため息をついたのだった。
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