2つの世界の架け橋

明人

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優しい手

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現状リラに出来ることはなく、お風呂を済ませ自室に戻った。思ったよりも疲れが溜まっていたのか、ベットに倒れ伏すなり眠気がリラを夢の世界へ誘った。
夢を見ていた気がする。とても悲しい夢を。泣き叫ぶ黒髪の人は何処か王に似ている気がした。
あなたは...?
リラの問いが相手に届く前に、頭に触れられる感触で目を覚ました。
リラの視界に映ったのはベットに腰掛け、手を伸ばしてきている王の姿だ。
「起こしてしまったか」
「...え!?」
寝起きで回らなかった頭が回転を初め、ようやく王が何故かリラの部屋にいる事実に驚くことになった。
慌てて飛び起きたリラに王は眉間に皺を寄せてつぶやく。
「鍵はちゃんと閉めておけ。何のためにについていると思っている」
「す、すみません...」
部屋に戻った途端に安心感からか鍵もかけずにベットにダイブしたことを思い出した。
正直危険だとは思っていないが、散々周りの者に気をつけろと言われている手前反論などできない。
「魔力の供給ですよね。どこからでもどうぞ!」
両手を広げるリラに王は片手で顔を覆ってため息をつく。何故ため息をつかれているのかと困惑しているリラを王はベットに押し倒した。
「本当に何処からでも構わないのか?」
王の手がリラの首筋をなぞり、鎖骨に触れる。そしてその手が少しずつ下に下がろうとしたところで、慌ててリラは王の手を掴む。
「け、軽率でした!!すみません!!」
「分かればいい」
王はリラの胸元に置いていた手でリラの頭を優しく撫でた。
リラは数度瞬きを繰り返した後、王を見上げる。
「陛下?魔力の方は・・・」
「お前も今日は疲れているだろう。明日からでいい」
そう言いながらリラを撫でる手は止めない。
「あ、あの・・・この時間は・・・」
「俺がしたいからしているだけだ。不快か?」
「そんなことはないのですが・・・」
魔族らしい獣の手で驚くほど優しく触られるものだから少しむず痒いような、それでいて伝わる心地良さにリラは自然と目を閉じた。
「・・・そんなに隙を見せていいのか?」
「え?」
王の言葉に疑問の声とともにまぶたを押し上げれば、目の前に王の顔があり一瞬フリーズする。だが、理解すると自然と顔に熱が集まった。
「ち、近いです陛下!!」
慌てて両手で顔を覆えば先程と変わらぬ優しい手つきで頭を撫でられた。
「誰にでもそのような隙を見せるなよ」
「へ、陛下の撫で方が気持ちよくてつい・・・」
「そんなに良かったか?」
「はい。下手したら寝てしまうんじゃないかと思うほど」
「俺の前でなら構わん。その後については一切の苦情は聞かんがな」
「何があるんですか!?」
「何がいいんだ?」
少し悪戯心も含まれたような笑みにリラは誤魔化すように口を開く。
「へ、陛下もお疲れでしょう!!陛下がしてくれたことをお返ししますので寝てください!!」
リラは横に避け、パンパンとベットを叩く。
「・・・寝ていいのか?」
「?はい。構いませんよ」
王は深いため息をつき、少し考えるそぶりをした後、ベットに横になった。
「お前の匂いがするな」
「臭いですか!?」
「いや、落ち着く匂いだ」
自然と目を閉じた王の頭をリラは恐る恐る撫でる。思ったよりもフワフワな毛並みに思わず感動した。その毛並みを堪能することに必死になっていると王が身をよじる。
「おい。くすぐったいぞ」
「あ、すみません。陛下の毛並みがあまりにも良くて夢中になりまして・・・」
「・・・もっと堪能したいか?」
「いいのですか?」
「ああ」
王は返事をするのが早いか、リラの腕を引くのが早いか、リラを自身の胸元に抱き寄せた。
「これなら堪能出来るだろう」
「へ、へ、陛下!?!?」
「これ以上は何もせん」
「これ以上!?」
男性の腕の中というだけで緊張してしまうというのに、王はリラの心を弄ぶような発言まで付け加えてしまう。
「元々お前のベットだ。ゆっくり休め」
ドキドキして休めませんよ!!!
と叫びたかったが、魅惑のフワフワな毛並みが心地よくリラは自然と目を閉じていた。
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