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Mission1 前世を思い出せ!

30.理想的なお兄ちゃん

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「父上にも困ったものだな。色々と……。さっきは疲れただろう? 食事が用意されるまで眠ったらどうだ?」

 食事の準備ができたら起こしてあげるから……とライースは言うが、あたしは首を横にふる。

 愛しのライースに見守られながら眠るなんて、いくらなんでも難易度が高すぎる。
 ライースのタペストリーの前では『見守られている』感じがして、ぐっすり眠れた。
 だが、生ライースの前で眠れなど、ライースの願いであっても、緊張して眠れるわけがない。
 目がギランギランに輝いてしまいそうだ。

 ゲーム上では、ほとんどモブに近い存在だけど、ライースはあたしを家族のイチ員として扱ってくれている。
 異母兄弟なのに、破格の待遇だ。

 あたしに対する口調と視線は、とても優しく、いたわりに満ちていた。
 なんだか、ライースが、乙女が夢見る『理想的なお兄ちゃん』になっている。

 ライースは興味のない他人にはとことん冷たいのだが、どうやら、あたしはめでたくも『大切なヒトたち』の部類にカテゴライズされているようだ。

 だからこそ、ライースの攻略が失敗してバッドエンドの『一家が罠にかかって、一族、使用人もろとも惨殺されてしまう』を迎えると、生き残ったライースは復讐に走ってしまう。
 そして、悲しみのあまり歯止めが効かなくなったライースは、やりすぎてこの国までも滅ぼしてしまうのだ。

「…………」
「…………」

 しばし、沈黙の時間が流れる。

 兄の言うことをきかない、かわいくない小娘とでも思われてしまったのだろうか……。
 ちょっと心配になる。

 ライースはしばらくの間、無言であたしを眺めていると、なにを思ったのか、あたしの頭の上に手をのせ、ぐりぐりとかき回し始めた。
 勢いがありすぎて、上半身が前後左右にグラングランと揺れまくる。

 病み上がりにこれはちょっと……きつい。
 世界がぐるぐる回っている。

「ライース兄様……? 髪がぐちゃぐちゃに……」

 ちょっとびっくりしてライースの手を振り払おうとするが、十歳近く歳が離れていると、なかなかうまくいかない。

 あたしはライースが納得するまで、わしゃわしゃともみくちゃにされる。

「よくがんばったな」
「え……?」
「レーシアは、よくがんばったよ」

(どういうことだろう?)

 意味がよくわからない、というあたしの表情を読み取ったのか、ライースに苦笑が浮かぶ。

「レーシアは、たくさんがんばった」
「たくさん?」

 ライースは大きく頷いた。

「そうだ。溺れて苦しかっただろうに……レーシアは、抱いていた子猫を離すことなく、水の中でがんばっていた」
「…………」
「おれが助けたときも、レーシアは、最後まであきらめず、生きようとがんばってくれていた」
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