70 / 132
Mission2 げきまじゅおくちゅりを克服せよ!
70.あたしの涙
しおりを挟む
あたしの回復を確かめたデイラル先生は、毎日だった往診を三日おきにすると提案した。
アドルミデーラ家から迎えの馬車をだしているらしいが、デイラル先生もそこそこなお年だし、あまり無理はさせたくない。
お祖母様の専属とはいえ、デイラル先生には後進の育成やら医療技術の普及をがんばってもらいたい。
バッドエンドのひとつに疫病の蔓延があるのだから、デイラル先生にはなおさら頑張ってもらわないと困る。
お祖母様もあたしもデイラル先生の申し出に承知したのだけど、ライース兄様は首を縦に振らなかった。
ライース兄様のたっての希望……というか、ワガママで、デイラル先生は二日おきに別荘を訪れ、あたしとお祖母様の具合を診てくれている。
相手が老人であろうとも、ライース兄様は容赦がなかった。
「まじゅいです――っ!」
あたしは、さらにまずくなったデイラル先生太鼓判の劇薬を飲みきると、プリン・ア・ラ・モードを口の中に放り込む。
残り、ひとくち、ふたくちくらいになって、舌の痺れがなくなり、ようやくプリンの甘さを感じるようになっていた。
昼間の食堂では、あたしとライース兄様が食事をしていた。
カルティが給仕の補助として部屋に残っているだけで、メイドは空になった皿を下げに退出していた。
お祖母様は、早々に食事を終えて、爺やに車椅子を押してもらって自室に戻られた。
なので、あたしの薬の飲み方が美しくない、と怒るヒトはいない。
慌てて口直しのデザートを頬張っても、はしたないと注意されることもない。
あたしは涙を流しながらプリンを食べる。
悲しくて泣いているのではない。
プリンの美味しさに感動して泣いているのでもない。
デイラル先生の激まずお薬が、鼻から喉のあたりを刺激して、生理的な涙が止まらないのだ。
「……レーシア……。おれのデザートも食べるか?」
ライース兄様が自分の前にあったプリン・ア・ラ・モードをそっとあたしの方へと移動させる。
「はひぃ。いたふぁきみゃふ」
はい。頂きます。というあたしの返事を正確に聞き取ったカルティが、ライース兄様の側に移動してプリン・ア・ラ・モードの皿をあたしの前に置き直す。
空っぽになったあたしの皿は、すみやかにワゴンの上へと移動していた。
「いたひゃきまふぅ」
遠慮はしない。
ようやく、プリン本来の味がしだしたのだ。
あたしはプリンの有り難みをしっかりと噛み締めながら、ライース兄様のデザートを完食する。
「レーシア……午後はどうするつもりだ?」
ライース兄様は食後のコーヒーを飲みながら、あたしに質問する。
午前中は、ライース兄様に勉強を教えてもらった。
もう少し、あたしの体力が回復したら、マナーやダンスの練習などもそれに加わる予定だ。
ダンスもライース兄様が教えてくれるそうだ。
午後からはライース兄様は領地のお仕事をするとかで、自分の部屋で書類仕事をするらしい。
「ちょっとだけ、カルティとさんぽをしたら、本をよみたいとおもいます」
あたしの返事に、ライース兄様は頷いた。
あれ?
ライース兄様の表情が……ちょっとヘンだ。
眉間にシワができてる。
「レーシアは、本が好きなのだな」
「はい。いろいろなことがわかって、おもしろいです。おーとのおうちには、あまり本がなかったので、うれしいです」
「そうか。しかし、ここの書庫にある本は、子どもには難しすぎないか?」
「ちょっとだけむずかしいですが、わからないところは、カルティがいろいろおしえてくれるので、よめます!」
穏やかな転生ライフを満喫するための三箇条の二番目『ゲームとこの世界の差分に注意する』だ。
ライース兄様の超絶厳しい監視下の元、行動制限が発令されている現在、世界設定の差分を知るためには、読書が最も効果的だ。
下手に屋敷にいる使用人に質問して、おかしなことを口走っていると思われては困る。
ここは別荘地なので、書庫もさほど大きくないし、収蔵されている本も、滞在中の無聊を慰めるためが大前提となっているので、内容に偏りがある。
そこに少しばかり不満はあるが、そういう不満をぶつけるのは、書庫の中の本に全て目を通してからでもよいだろう。
ちなみに、この世界の文字は……なんと、ローマ字表記だった。
もちろん、前世で見慣れたアルファベッドではなく、楔形みたいなアルファベッドを崩してミミズがうごめいているようなアレンジされた文字だが、ヘボン式表記とばっちり重なったのだ。
さすが乙女ゲームのなんちゃって設定だ。
アドルミデーラ家から迎えの馬車をだしているらしいが、デイラル先生もそこそこなお年だし、あまり無理はさせたくない。
お祖母様の専属とはいえ、デイラル先生には後進の育成やら医療技術の普及をがんばってもらいたい。
バッドエンドのひとつに疫病の蔓延があるのだから、デイラル先生にはなおさら頑張ってもらわないと困る。
お祖母様もあたしもデイラル先生の申し出に承知したのだけど、ライース兄様は首を縦に振らなかった。
ライース兄様のたっての希望……というか、ワガママで、デイラル先生は二日おきに別荘を訪れ、あたしとお祖母様の具合を診てくれている。
相手が老人であろうとも、ライース兄様は容赦がなかった。
「まじゅいです――っ!」
あたしは、さらにまずくなったデイラル先生太鼓判の劇薬を飲みきると、プリン・ア・ラ・モードを口の中に放り込む。
残り、ひとくち、ふたくちくらいになって、舌の痺れがなくなり、ようやくプリンの甘さを感じるようになっていた。
昼間の食堂では、あたしとライース兄様が食事をしていた。
カルティが給仕の補助として部屋に残っているだけで、メイドは空になった皿を下げに退出していた。
お祖母様は、早々に食事を終えて、爺やに車椅子を押してもらって自室に戻られた。
なので、あたしの薬の飲み方が美しくない、と怒るヒトはいない。
慌てて口直しのデザートを頬張っても、はしたないと注意されることもない。
あたしは涙を流しながらプリンを食べる。
悲しくて泣いているのではない。
プリンの美味しさに感動して泣いているのでもない。
デイラル先生の激まずお薬が、鼻から喉のあたりを刺激して、生理的な涙が止まらないのだ。
「……レーシア……。おれのデザートも食べるか?」
ライース兄様が自分の前にあったプリン・ア・ラ・モードをそっとあたしの方へと移動させる。
「はひぃ。いたふぁきみゃふ」
はい。頂きます。というあたしの返事を正確に聞き取ったカルティが、ライース兄様の側に移動してプリン・ア・ラ・モードの皿をあたしの前に置き直す。
空っぽになったあたしの皿は、すみやかにワゴンの上へと移動していた。
「いたひゃきまふぅ」
遠慮はしない。
ようやく、プリン本来の味がしだしたのだ。
あたしはプリンの有り難みをしっかりと噛み締めながら、ライース兄様のデザートを完食する。
「レーシア……午後はどうするつもりだ?」
ライース兄様は食後のコーヒーを飲みながら、あたしに質問する。
午前中は、ライース兄様に勉強を教えてもらった。
もう少し、あたしの体力が回復したら、マナーやダンスの練習などもそれに加わる予定だ。
ダンスもライース兄様が教えてくれるそうだ。
午後からはライース兄様は領地のお仕事をするとかで、自分の部屋で書類仕事をするらしい。
「ちょっとだけ、カルティとさんぽをしたら、本をよみたいとおもいます」
あたしの返事に、ライース兄様は頷いた。
あれ?
ライース兄様の表情が……ちょっとヘンだ。
眉間にシワができてる。
「レーシアは、本が好きなのだな」
「はい。いろいろなことがわかって、おもしろいです。おーとのおうちには、あまり本がなかったので、うれしいです」
「そうか。しかし、ここの書庫にある本は、子どもには難しすぎないか?」
「ちょっとだけむずかしいですが、わからないところは、カルティがいろいろおしえてくれるので、よめます!」
穏やかな転生ライフを満喫するための三箇条の二番目『ゲームとこの世界の差分に注意する』だ。
ライース兄様の超絶厳しい監視下の元、行動制限が発令されている現在、世界設定の差分を知るためには、読書が最も効果的だ。
下手に屋敷にいる使用人に質問して、おかしなことを口走っていると思われては困る。
ここは別荘地なので、書庫もさほど大きくないし、収蔵されている本も、滞在中の無聊を慰めるためが大前提となっているので、内容に偏りがある。
そこに少しばかり不満はあるが、そういう不満をぶつけるのは、書庫の中の本に全て目を通してからでもよいだろう。
ちなみに、この世界の文字は……なんと、ローマ字表記だった。
もちろん、前世で見慣れたアルファベッドではなく、楔形みたいなアルファベッドを崩してミミズがうごめいているようなアレンジされた文字だが、ヘボン式表記とばっちり重なったのだ。
さすが乙女ゲームのなんちゃって設定だ。
4
あなたにおすすめの小説
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!
何やってんのヒロイン
ネコフク
恋愛
前世の記憶を持っている侯爵令嬢のマユリカは第二王子であるサリエルの婚約者。
自分が知ってる乙女ゲームの世界に転生しているときづいたのは幼少期。悪役令嬢だなーでもまあいっか、とのんきに過ごしつつヒロインを監視。
始めは何事もなかったのに学園に入る半年前から怪しくなってきて・・・
それに婚約者の王子がおかんにジョブチェンジ。めっちゃ甲斐甲斐しくお世話されてるんですけど。どうしてこうなった。
そんな中とうとうヒロインが入学する年に。
・・・え、ヒロイン何してくれてんの?
※本編・番外編完結。小話待ち。
公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。
ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。
小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる