95 / 132
Mission3 お祖母様を救え!
95.ライース兄様の願い
しおりを挟む
部屋の空気がさらに重々しいものになる。
あたしは思わず両手で胸のあたりをかきむしる。
画面越しで観ていたシーン。
それがこんなにも苦しいものだなんて、考えもしなかった。
辛い。
苦しい……。
「氷結晶病は、非常に珍しい病気なのです。一番最近では、先代国王の母君がその病に罹られ、3日後に天高き場所へ向かわれました」
デイラル先生は淡々と説明を続ける。
……そうだった。そういう設定だった。
先代国王の母君が発病したのは数十年前。
つまり、数十年ぶりに発症者が現れたというわけだ。
『氷結晶病』は数年、十数年にひとり発病するか、しないかという、実に珍しい病気。
しかも発症したら数日のうちに死ぬので、治療法を色々と試すことができないまま今日に至る……という設定だったはずだ。
先代国王の母君を看取ったのは、デイラル先生のお師匠様。
だから、デイラル先生はこの奇病をお師匠様を通じて『たまたま』知っていた、というストーリーだ。
普通の医者は知らないくらい、とても珍しい病気。
ちなみにこの『氷結晶病』は伝染病ではない。
バッドエンドの前触れで流行する疫病は『結死病』だ。
両方の病気を治す薬草が同じなのは……運営の手抜きか、それとも設定に凝りすぎた結果なのかはわからない。
でも、これだけはわかる。
ゲームの設定では、まだこの時点では、『氷結晶病』を治す薬草は発見されていない。
なぜなら、本編のイベントで初めてヒロインが見つけだすからだ。
ええと……『氷結晶病』を瞬く間に治してしまう薬草の名前は……確か……確か……あれ?
(お、思い出せな――い!)
どういうことなの! と、あたしが悶々としている間も、ライース兄様とデイラル先生の会話は続いていた。
「そんな……どうして、お祖母様がよりにもよって……氷結晶病になられたのだ! 原因はなんだ?」
「わかりません。氷結晶病は発症者数が極端に少ない奇病なのです。……身分の高い女性がかかりやすい病ではないのか……とも云われていますが」
悔しそうなデイラル先生の声に、あたしの胸が押しつぶされそうになる。
気づけば、両目からはぽろぽろと涙がこぼれはじめていた。
6歳のフレーシア・アドルミデーラが泣いている。
「とにかく、発症者数が少なく、治療を試みる時間も限られており、治療法がわからないのです」
「そんな……では、このまま座して死を待つしかないのか!」
苛立ったライース兄様が、応接机に拳を叩きつける。
はずみでティーセットがガチャガチャと揺れ動き、紅茶がこぼれた。
怖い。
ヒロイン不在で、ライース兄様はまだ十代だというのに、怖いくらいにセリフがシナリオどおりだ。
違うのは『お祖母様』という部分だけ。
「デイラル先生! お願いです! お祖母様を助けてください!」
「わたくしも医師として、できる限りのことはいたします。ですが……」
デイラル先生はぎゅっと手を握りしめ、下を向く。
「ライース坊ちゃまは、急ぎ、王都にいらっしゃるジェルバ様にこのことをお伝えください。間に合えばよいのですが……。報告は以上でございます。わたくしはサディリア様の部屋に戻ります」
「デイラル先生……取り乱してしまい、失礼しました。お願いします。お祖母様のことをよろしくお願いします」
ライース兄様が席を立ち、深々とお辞儀をする。
拳を握りしめ、唇を噛み締めている。必死に冷静になろうとしているのがわかった。
あたしも慌てて立ち上がると、同じく、デイラル先生に向かって頭を下げた。
爺やが静かに扉を開ける。
デイラル先生が部屋を出るまで、あたしとライース兄様は頭を下げつづけた。
あたしは思わず両手で胸のあたりをかきむしる。
画面越しで観ていたシーン。
それがこんなにも苦しいものだなんて、考えもしなかった。
辛い。
苦しい……。
「氷結晶病は、非常に珍しい病気なのです。一番最近では、先代国王の母君がその病に罹られ、3日後に天高き場所へ向かわれました」
デイラル先生は淡々と説明を続ける。
……そうだった。そういう設定だった。
先代国王の母君が発病したのは数十年前。
つまり、数十年ぶりに発症者が現れたというわけだ。
『氷結晶病』は数年、十数年にひとり発病するか、しないかという、実に珍しい病気。
しかも発症したら数日のうちに死ぬので、治療法を色々と試すことができないまま今日に至る……という設定だったはずだ。
先代国王の母君を看取ったのは、デイラル先生のお師匠様。
だから、デイラル先生はこの奇病をお師匠様を通じて『たまたま』知っていた、というストーリーだ。
普通の医者は知らないくらい、とても珍しい病気。
ちなみにこの『氷結晶病』は伝染病ではない。
バッドエンドの前触れで流行する疫病は『結死病』だ。
両方の病気を治す薬草が同じなのは……運営の手抜きか、それとも設定に凝りすぎた結果なのかはわからない。
でも、これだけはわかる。
ゲームの設定では、まだこの時点では、『氷結晶病』を治す薬草は発見されていない。
なぜなら、本編のイベントで初めてヒロインが見つけだすからだ。
ええと……『氷結晶病』を瞬く間に治してしまう薬草の名前は……確か……確か……あれ?
(お、思い出せな――い!)
どういうことなの! と、あたしが悶々としている間も、ライース兄様とデイラル先生の会話は続いていた。
「そんな……どうして、お祖母様がよりにもよって……氷結晶病になられたのだ! 原因はなんだ?」
「わかりません。氷結晶病は発症者数が極端に少ない奇病なのです。……身分の高い女性がかかりやすい病ではないのか……とも云われていますが」
悔しそうなデイラル先生の声に、あたしの胸が押しつぶされそうになる。
気づけば、両目からはぽろぽろと涙がこぼれはじめていた。
6歳のフレーシア・アドルミデーラが泣いている。
「とにかく、発症者数が少なく、治療を試みる時間も限られており、治療法がわからないのです」
「そんな……では、このまま座して死を待つしかないのか!」
苛立ったライース兄様が、応接机に拳を叩きつける。
はずみでティーセットがガチャガチャと揺れ動き、紅茶がこぼれた。
怖い。
ヒロイン不在で、ライース兄様はまだ十代だというのに、怖いくらいにセリフがシナリオどおりだ。
違うのは『お祖母様』という部分だけ。
「デイラル先生! お願いです! お祖母様を助けてください!」
「わたくしも医師として、できる限りのことはいたします。ですが……」
デイラル先生はぎゅっと手を握りしめ、下を向く。
「ライース坊ちゃまは、急ぎ、王都にいらっしゃるジェルバ様にこのことをお伝えください。間に合えばよいのですが……。報告は以上でございます。わたくしはサディリア様の部屋に戻ります」
「デイラル先生……取り乱してしまい、失礼しました。お願いします。お祖母様のことをよろしくお願いします」
ライース兄様が席を立ち、深々とお辞儀をする。
拳を握りしめ、唇を噛み締めている。必死に冷静になろうとしているのがわかった。
あたしも慌てて立ち上がると、同じく、デイラル先生に向かって頭を下げた。
爺やが静かに扉を開ける。
デイラル先生が部屋を出るまで、あたしとライース兄様は頭を下げつづけた。
3
あなたにおすすめの小説
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
アルファポリス恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
*他サイトでも公開中
なろう日間総合ランキング2位に入りました!
何やってんのヒロイン
ネコフク
恋愛
前世の記憶を持っている侯爵令嬢のマユリカは第二王子であるサリエルの婚約者。
自分が知ってる乙女ゲームの世界に転生しているときづいたのは幼少期。悪役令嬢だなーでもまあいっか、とのんきに過ごしつつヒロインを監視。
始めは何事もなかったのに学園に入る半年前から怪しくなってきて・・・
それに婚約者の王子がおかんにジョブチェンジ。めっちゃ甲斐甲斐しくお世話されてるんですけど。どうしてこうなった。
そんな中とうとうヒロインが入学する年に。
・・・え、ヒロイン何してくれてんの?
※本編・番外編完結。小話待ち。
公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。
ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。
小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる