34 / 46
第五章
3.坂上くんに会う
しおりを挟む
長い時間電車に乗っていると、お尻が痛くなる。赤字路線の古い車両なので快適とは言い難かった。トイレも一応付いているけど、あまり使いたくないような代物だった。ないよりはマシだけど。
そして、やっと目的のh駅に到着した。新幹線の駅があるH駅まであと二駅だけど、無人駅で学校が休みの日は人の乗り降りが少ない様だ。さすがに終点近くで車両内はぎゅうぎゅう状態で、ボックス席の私の横には途中で肥えたおじさんが座って来て密着度が気持ち悪くてたまらず、駅に降りた時にはホッとした。
「おい、降りるぞ」
百家くんが声をかけてくれて、その声でおじさんがよっこいしょと通路に避けてくれた。そのまま彼は私の腕を掴んで、「すいません、降ります」と言いながら、押し合いへし合いしている人を割って外に出してくれた。
尾根山くんは、それがいつもの事なのでわりとケロっとしていた。
「すごいだろ、学校ある日はもっとすごいんだ」
何自慢だとおもいながら、「へー」と気の抜けた声が出てしまったのは仕方ないと思う。
「今日はさ、坂上の祖父ちゃんが退院して家に帰ってるから、そっちに行く予定」
「その友達は?」
百家くんが駅のホームを見回す。
「あ、来た来た」
少し坂になっている住宅地の間を抜ける曲がった狭い路地を、体格の良い男子がやってきた。手を上げて走ってくる。
「あ、尾根山、友達も来てくれてありがとう!」
とても大きい。身長は百家くん位ある172~3センチ以上ありそうで身体の厚みがあり、全体的な風貌がちょっと熊さんみたいだとこっそり思った。顔は優しそうで、眉毛は太くて下がっている。そして、髪の毛が天然パーマらしくふんわりとウエーブがかかっている。
育ちの良い熊さんて感じだ。
「うわ~何?尾根山の住んでるM村って、美人が多い村なの?」
百家くんと私を交互に見ながら、頭に手をやり口をぽか~んと開けて坂上くんはそう言った。
「村じゃないよ、市だから!。それに、この二人は特別なのっ」
「そうだっけ?いっつも田舎自慢するから、ついつい。それにしても、すごい綺麗な友達だなあ、なんか近寄りがたい感じがするよ。え~と二人とも来てくれてありがとう。坂上瑠那です」
人懐こい笑顔で、坂上くんは言った。ここでまさかのきらきらネームだとは思わなかったが、優し気な響きが彼に合っていると思った。
「百家斜陽です。よろしく」
百家くんはいつも通りのそっけなさでそう言いながらも坂上君にむかって手のひらを出した。
「よろしくお願いします」
ふたりは握手をして、今度は私の方へ視線が移った。
「塙宝麻美です。よろしくお願いします」
私は手は出さずにペコリとお辞儀をした。
「わ~なに、超絶可愛い、いや綺麗?こんなお人形みたいな女の子初めて近くで見るから緊張するなあ。今日は来てくれてありがとう」
それでも坂上くんの持つほんわかしたムードで、その場は和んでいて、四人でそのままお祖父さんの家に向かう事になった。
前を坂上くんと尾根山くん、後ろが百家くんと私で歩いて行く。
「お祖父さんの調子はどう?」
百家くんの言葉に坂上くんは振り返った。
「ありがとう。今は落ち着いてるよ。本人はわりと体調に気を付けている人だったから、倒れた時は大騒ぎだったよ。実際、基礎疾患もない人だったから・・・」
どうやら、原因不明の様だ。体調の方は倦怠感が抜けないという話だった。
そして、駅からゆっくり歩いて25分位の所に、平屋建ての落ち着いた感じの和風モダンな家に到着した。有名なホームセキュリティー会社のプレートが玄関にあり、監視カメラが二台見えた。
「先に家の周りを見てから中に入らせてもらっていい?」
「うん、案内するよ」
坂上くんは快く返事をして屋敷の塀の外側を見れる範囲で周る。団地にあるので他の家と塀を挟んで隣接する場所は通れないからだ。それが終わると門を開けて家の庭を周った。とても手入れが行き届いた家だった。
こじんまりとした家には濡れ縁が作られ、計算しつくされた和風の庭。そして外からは見えない屋敷の作りだけに、防犯には気を使ったのだろうと思えた。団地の中だとは思えない程、緑が溢れた静謐な空間がそこにはあった。
庭を周ると死角が出来ない様に何か所か他にも見えにくい場所にカメラがあった。坂上くんによると、彼の父親が老夫婦を心配しての配慮だそうだ。それに関してはお祖父さん側は大変面倒だと言っているらしい。いわゆる『ありがた迷惑』との話だった。
私が住んでいる場所は田舎なので、めったにお目にかかる様な事がない景色だなと思った。百家くんはそういうのを目にしても、いつも通り普通だった。そういえば彼がM市に住む前にはどこにいて、家族がどうで、どんな生活をしていたかなんて考えたこともなかった事に気づいた。
他人に興味がないのでそれが私の通常仕様だったのだけど、それが気になったという事実に驚いた。
「家の中にどうぞ」
重厚な造りの玄関の木のドアが開けられ、玄関の中に入るように勧められて、ふと、奇妙な視線を感じた。
百家くんがそっと私の手を握って、目配せしたので何も言わずそのまま勧められたスリッパを履いておじゃました。
「まあまあ、皆さん、今日は来てくださってありがとう。主人も喜んでいるんですよ、書斎でお待ちしているのでどうぞこちらにいらして下さい」
品の良い綺麗な白髪のおばあさんが迎えに出てくれていた。坂上くんのお祖母ちゃんだ。坂上くんは大きい人だけど彼女は小柄で可愛い感じのおばあちゃんだった。
でも先ほど感じた視線は彼女ではなかった。
そして、やっと目的のh駅に到着した。新幹線の駅があるH駅まであと二駅だけど、無人駅で学校が休みの日は人の乗り降りが少ない様だ。さすがに終点近くで車両内はぎゅうぎゅう状態で、ボックス席の私の横には途中で肥えたおじさんが座って来て密着度が気持ち悪くてたまらず、駅に降りた時にはホッとした。
「おい、降りるぞ」
百家くんが声をかけてくれて、その声でおじさんがよっこいしょと通路に避けてくれた。そのまま彼は私の腕を掴んで、「すいません、降ります」と言いながら、押し合いへし合いしている人を割って外に出してくれた。
尾根山くんは、それがいつもの事なのでわりとケロっとしていた。
「すごいだろ、学校ある日はもっとすごいんだ」
何自慢だとおもいながら、「へー」と気の抜けた声が出てしまったのは仕方ないと思う。
「今日はさ、坂上の祖父ちゃんが退院して家に帰ってるから、そっちに行く予定」
「その友達は?」
百家くんが駅のホームを見回す。
「あ、来た来た」
少し坂になっている住宅地の間を抜ける曲がった狭い路地を、体格の良い男子がやってきた。手を上げて走ってくる。
「あ、尾根山、友達も来てくれてありがとう!」
とても大きい。身長は百家くん位ある172~3センチ以上ありそうで身体の厚みがあり、全体的な風貌がちょっと熊さんみたいだとこっそり思った。顔は優しそうで、眉毛は太くて下がっている。そして、髪の毛が天然パーマらしくふんわりとウエーブがかかっている。
育ちの良い熊さんて感じだ。
「うわ~何?尾根山の住んでるM村って、美人が多い村なの?」
百家くんと私を交互に見ながら、頭に手をやり口をぽか~んと開けて坂上くんはそう言った。
「村じゃないよ、市だから!。それに、この二人は特別なのっ」
「そうだっけ?いっつも田舎自慢するから、ついつい。それにしても、すごい綺麗な友達だなあ、なんか近寄りがたい感じがするよ。え~と二人とも来てくれてありがとう。坂上瑠那です」
人懐こい笑顔で、坂上くんは言った。ここでまさかのきらきらネームだとは思わなかったが、優し気な響きが彼に合っていると思った。
「百家斜陽です。よろしく」
百家くんはいつも通りのそっけなさでそう言いながらも坂上君にむかって手のひらを出した。
「よろしくお願いします」
ふたりは握手をして、今度は私の方へ視線が移った。
「塙宝麻美です。よろしくお願いします」
私は手は出さずにペコリとお辞儀をした。
「わ~なに、超絶可愛い、いや綺麗?こんなお人形みたいな女の子初めて近くで見るから緊張するなあ。今日は来てくれてありがとう」
それでも坂上くんの持つほんわかしたムードで、その場は和んでいて、四人でそのままお祖父さんの家に向かう事になった。
前を坂上くんと尾根山くん、後ろが百家くんと私で歩いて行く。
「お祖父さんの調子はどう?」
百家くんの言葉に坂上くんは振り返った。
「ありがとう。今は落ち着いてるよ。本人はわりと体調に気を付けている人だったから、倒れた時は大騒ぎだったよ。実際、基礎疾患もない人だったから・・・」
どうやら、原因不明の様だ。体調の方は倦怠感が抜けないという話だった。
そして、駅からゆっくり歩いて25分位の所に、平屋建ての落ち着いた感じの和風モダンな家に到着した。有名なホームセキュリティー会社のプレートが玄関にあり、監視カメラが二台見えた。
「先に家の周りを見てから中に入らせてもらっていい?」
「うん、案内するよ」
坂上くんは快く返事をして屋敷の塀の外側を見れる範囲で周る。団地にあるので他の家と塀を挟んで隣接する場所は通れないからだ。それが終わると門を開けて家の庭を周った。とても手入れが行き届いた家だった。
こじんまりとした家には濡れ縁が作られ、計算しつくされた和風の庭。そして外からは見えない屋敷の作りだけに、防犯には気を使ったのだろうと思えた。団地の中だとは思えない程、緑が溢れた静謐な空間がそこにはあった。
庭を周ると死角が出来ない様に何か所か他にも見えにくい場所にカメラがあった。坂上くんによると、彼の父親が老夫婦を心配しての配慮だそうだ。それに関してはお祖父さん側は大変面倒だと言っているらしい。いわゆる『ありがた迷惑』との話だった。
私が住んでいる場所は田舎なので、めったにお目にかかる様な事がない景色だなと思った。百家くんはそういうのを目にしても、いつも通り普通だった。そういえば彼がM市に住む前にはどこにいて、家族がどうで、どんな生活をしていたかなんて考えたこともなかった事に気づいた。
他人に興味がないのでそれが私の通常仕様だったのだけど、それが気になったという事実に驚いた。
「家の中にどうぞ」
重厚な造りの玄関の木のドアが開けられ、玄関の中に入るように勧められて、ふと、奇妙な視線を感じた。
百家くんがそっと私の手を握って、目配せしたので何も言わずそのまま勧められたスリッパを履いておじゃました。
「まあまあ、皆さん、今日は来てくださってありがとう。主人も喜んでいるんですよ、書斎でお待ちしているのでどうぞこちらにいらして下さい」
品の良い綺麗な白髪のおばあさんが迎えに出てくれていた。坂上くんのお祖母ちゃんだ。坂上くんは大きい人だけど彼女は小柄で可愛い感じのおばあちゃんだった。
でも先ほど感じた視線は彼女ではなかった。
14
あなたにおすすめの小説
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる