友だちは君の声だけ

山河 枝

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7 お姉ちゃんにも嘘をつく

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 ──やばい。

 おでこの奥が、氷が張ったように冷たい。ドクン、ドクンと、1秒ごとに心臓の音が大きくなる。

「み……美咲から、かかってきた」
「またあの子? あんた、この前もそんなこと言ってなかった?」
「そう、だっけ」
「お母さんに聞いた」

 なんでお姉ちゃんに言うの、とお母さんに怒りたいのをこらえて、何でもないフリをして、「ふうん」と返す。
 だけどお姉ちゃんは、すっと目を細めて、

「……本当に美咲ちゃん?」

 と、言った。

「そうだけど」

 私は、カラカラの唇をなめて答えた。
 心臓の音が外に漏れてるんじゃないか、と心配になってきて、意味もなくケータイをぎゅっと握りしめる。
 
「ていうか、なんでいつまでもいるの? 早く出てってよ」

 ジロリと睨んでみせたのに、お姉ちゃんはニヤッと笑って、出ていくどころか、逆に顔を寄せてきた。
 シャンプーの甘い匂いがする。ものすごくイヤな予感もする。

「本当は、電話の相手、男の子なんでしょ?」
「──」

 心臓が止まった、ということはなかったけれど、そう思うくらい、ピタリと息を止めてしまった。
 落ち着け。落ち着け。言い聞かせながら、私は首を振った。

「……違うよ」
「本当にぃ? 芽衣さあ、なーんか最近、ソワソワしてるじゃない。好きな男の子、できたんじゃないの?」
「へ?」
 
 思わず、お姉ちゃんの顔をまじまじと見つめた。そんなことを言われるなんて、まったく予想していなかった。

「あれ?」

 楽しそうに細められていたお姉ちゃんの目が、だんだん大きくなっていく。唇からも、ニヤニヤがすっかり消えた。

「むむ……おかしいな。絶対、男子だと思ったのに」

 口を尖らせたお姉ちゃんの顔と、シャンプーの甘い匂いが、ゆっくり離れていく。

「本当に美咲ちゃんか。なーんだ、つまんないの」

 お姉ちゃんがため息をつく。私も、少しずつ、少しずつ息を吐き出す。

(ご、ごまかせた……?)

 ドッと安心した勢いで、三角のひざを崩して、ベッドに両手をついた。

「だからぁ、言ったじゃん!」

 安心したら腹が立ってきて、きつい声で叫んだ。

「はーい、ごめんごめん。だよねー、お子ちゃまの芽衣には恋愛なんてまだわかんないよね」

 お姉ちゃんはヘラヘラしながら肩をすくめた。口で「ごめん」と言いながら、悪い、とはまったく思っていないらしい。

 いつもなら、「ちゃんと謝ってよ!」と言い返してケンカが始まるところだけれど、今はガマンだ、ガマン。電話の相手が、本当はユウマくんだと勘づいてしまう前に、さっさとどこかへ行ってもらわないと。

「とにかく、芽衣。電話するなとは言わないけど、静かにしゃべってよね」
「わ、わかってるって! もうお風呂入るから、あっち行ってってば!」
「はいはい。あと、あんまり長電話するんじゃないよ。美咲ちゃんに何かしてあげたいのはわかるけどさ。あんたにできることなんて、たかが知れてるんだから。大概にしときなよ。ケータイ、お母さんに没収されても知らないからね~」

 と、お姉ちゃんは言いながら、やっと私の部屋を出て行った。私はベッドの上で、ポカンとしていた。

(美咲に何かしてあげたいのはわかるって……どういうこと?)

 首をかしげて、けれどすぐに「ああ」とつぶやく。
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