友だちは君の声だけ

山河千枝

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14 お母さんの怖いもの

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「何……? 怖いものって」

 私は、ゴクンと唾をのみこんだ。バックミラーに映るお父さんの顔も、だんだんとこわばっていく。
 お母さんは両肩を抱きしめて、震える声で叫んだ。

「あそこの道……野良猫がたむろするようになったのよ!」
「……猫?」

 お父さんは、私と一緒にポカンとしたあと、淡々とサイドブレーキを戻してハンドルを握り直した。

「そうか、猫か……うん、それは怖いな」
「そうだね、とんでもないホラースポットだね……お母さんにとっては」

 そう言って、私は座席の背もたれに体を預けた。目の前の信号が、青に変わったからだ。
 
「そうでしょ⁉︎ ああ、恐ろしい……あそこを通ったあとは、なんとなく鼻がムズムズするのよ。体のどこかがかゆい気もするし、冬は時々くしゃみが出たの!」
「うん……大変そうだけど、でもな、母さん」

 ゆっくりとアクセルを踏んだお父さんは、

「とりあえず、最後のはアレルギーじゃなくて、寒いからだと思うよ」

 と、困ったように笑った。

 大騒ぎするお母さんが落ち着いた頃、ムツバスーパーの駐車場に着いた。予定通り、私とお母さんだけが車を降りる。

 入り口の自動ドアをくぐると、お花売り場の湿った匂いと、のんびりとした音楽が、私を包んだ。
 お母さんはカートを取ってくると、上と下に買い物カゴを置いた。
 まずは上のカゴへ、トイレットペーパーと箱入りティッシュをどかどかと積み上げていく。

「お母さん、こんなに買ってどうするの? 誰かにあげるの?」
「まさか。こういうのは、セールでまとめ買いした方がお得なのよ」
「ふうん」

 ぼんやりと返事をしながら、

(ユウマくんに教えてあげたら、お金を節約できるかな? そうしたら、毎日3食、ごはんを食べられるようになるかな)

 と、考えた。それは、とてもいい考えのように思えた。
 早くしてよ、とイライラしてお母さんとケンカになるくらいなら、今できることをしておいたほうがいい。

(お弁当より安いごはんがあったら、それも教えなくちゃ)

 私は観光しに来たみたいに、スーパーのあちこちをキョロキョロ見回しながら、お母さんのあとをついて歩いた。

(ユウマくん、お弁当を買ってるなら、きっと料理はできないんだよね)

 真っ白な照明を浴びて並ぶ、つやつやのお惣菜を順々に見ていると、飲み物の棚が目に入る。

(わっ、スポーツドリンクが半額だって)

 商品の値段を気にしたことなんて、今までなかった。ちょっと大人になったような気がして、店内のBGMに合わせて鼻歌を歌っていると、

「芽衣、お会計するよ」

 と、前を歩くお母さんが背中で言った。

 レジの列に並んでいる時も、私は四方八方に視線を飛ばした。そうしていたら、近くの棚に並んでいる、あるものが目に入った。

(これ、ユウマくんのうちに置いてあるのかな。もしタクマくんが風邪だったら……熱が出て暑がってるなら、あったほうがいいよね)
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