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20 ユウマくんのもとへ
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家族に見つかるわけにはいかない。リュックなんか持っていたら、「どこかに行くの?」って絶対に聞かれてしまう。うまくごまかせる自信がない。
足音を忍ばせて、階段を降りる。1階の廊下に足の裏をつけて、ほうっと息を吐いた時、すぐ横のトイレから、水を流す音がした。
(しまった、お母さんだ!)
玄関はトイレの先にある。今、外へ出ようとすれば、間違いなく姿を見られる。
私は、とっさに玄関とは反対側へ走った。廊下のいちばん奥にある折りたたみ式のドアを開けて、物置スペースに飛びこむ。
工具や軍手、普段は使わない道具がしまわれたそこに、体をねじこむ。肩を縮こめると、なんとかドアを閉めることができた。指2本分、開いてはいるけれど。
ドアから手を離した直後、トイレのほうで、ガチャ、という音が聞こえた。
(お願い、気づかないで!)
祈りながら、ドアの隙間から外を覗く。
廊下へ出てきたお母さんは、トイレのドアを閉めて、リビングに戻っていった。
(気づかれて、ない……?)
物置スペースのドアを、慎重に開ける。
廊下の小窓から差しこむ光が、物置スペースの中をぼんやりと照らす。すると目の端に、あざやかな青色が飛びこんできた。
何となく気を引かれて、青色のほうを向くと。
(あ! 一応、これも持っていこう)
私は、棚に入った冷却シートの箱をリュックに詰めた。もしかしたら、タクマくんの熱が上がっているかもしれない。
(1枚くらい、もらってもいいよね。おでこに貼ったら気持ちいいもん)
そろそろと廊下を進み、やっと玄関に到着だ。スニーカーにつま先を入れて、音を立てないようドアを開けて……それから私の体は、スイッチを反転させたようにすばやく動いた。
庭に置いてある自転車のカゴに、リュックを放りこむ。スニーカーにしっかり足を入れて、かたく靴紐を結ぶ。自転車のカギを外す。飛び乗る。こぐ、こぐ、こぐ!
景色がぐんぐん流れていく。住宅街から大きな道に出た。ここまで来れば、お母さんたちには見つからないはず。
心臓がドクドクと暴れている。たぶん、今は昼の2時くらいだろう。急げ、急げ。私がいないってバレる前に、帰らなくちゃ。
──と、湧き上がる興奮が一気に冷めたのは、ムツバスーパーの茶色い頭が見えてきた頃だった。
(ど、どうしよう……)
金網の扉と、立ち入り禁止の札が、歩道をふさいでいる。
車道には降りられない。柵でさえぎられていて、自転車では乗り越えられないし、何より、すごいスピードで車が行き来している。少しでも白線からはみ出したら、はね飛ばされるに違いない。
(しょうがない……別の道を探そう)
ひたいの汗と、こぼれそうな涙をゴシゴシふいて、私は道を戻った。
次第に薄暗くなっていく中、ムツバスーパーの頭を見失わないよう、休み休み進んでいくと、四角い茶色が近づいてきた。
(着いた!)
息を切らせて、ムツバスーパーを見上げる。店内から漏れてくる白い光が、目と胸にしみた。だけど、空はもう茜色だ。
私は、リュックからケータイを取り出した。時間を確認したかった。
途中、通り雨に降られてしまって、トンネルの中から動けずにいたから、けっこう経ってしまっただろう。
ボタンを押すと、パッと画面がつく。私は、ぎょっと目をむいた。
(うそっ、5時半⁉︎)
想像以上に時間がかかってしまった。
とはいえ……今すぐUターンすれば、明るいうちに家へ戻れるかもしれない。ここからなら、30分くらいで帰れる自信がある。真っ直ぐの道が多かったし、曲がり角では看板の文字や建物の形を目印として、頭に入れているから。
だけど、黙って出てきてしまったのだ。帰ったら絶対に怒られる。
私が家にいないことは、とっくにバレているらしい。「ケータイを机の裏に落とした」という、お母さんについたうそも。
ズラズラと並ぶ、お母さんからの着信履歴を見て、私は震えた。当然、メールもたくさん来ている。
怒られる。いや、もうすでに怒っているだろう。カンカンに。
帰った瞬間、鬼みたいな顔で問い詰められて、しばらく自転車は禁止かもしれない。
ユウマくんの家へ行けなくなってしまう。
(それなら……夜になっても構わない。このまま、ユウマくんの家に行っちゃおう!)
だけど、お母さんたちは心配しているだろうし、せめてメールだけでも、と思って、「ようじがあってそとにいます。かえるのがおそくなるとおもう、ごめん」と送った。
(漢字の打ち方がわからないから、読みにくい文章になっちゃったけど……わかるよね、たぶん)
私はリュックにケータイを入れて、また自転車をこぎ出した。
足音を忍ばせて、階段を降りる。1階の廊下に足の裏をつけて、ほうっと息を吐いた時、すぐ横のトイレから、水を流す音がした。
(しまった、お母さんだ!)
玄関はトイレの先にある。今、外へ出ようとすれば、間違いなく姿を見られる。
私は、とっさに玄関とは反対側へ走った。廊下のいちばん奥にある折りたたみ式のドアを開けて、物置スペースに飛びこむ。
工具や軍手、普段は使わない道具がしまわれたそこに、体をねじこむ。肩を縮こめると、なんとかドアを閉めることができた。指2本分、開いてはいるけれど。
ドアから手を離した直後、トイレのほうで、ガチャ、という音が聞こえた。
(お願い、気づかないで!)
祈りながら、ドアの隙間から外を覗く。
廊下へ出てきたお母さんは、トイレのドアを閉めて、リビングに戻っていった。
(気づかれて、ない……?)
物置スペースのドアを、慎重に開ける。
廊下の小窓から差しこむ光が、物置スペースの中をぼんやりと照らす。すると目の端に、あざやかな青色が飛びこんできた。
何となく気を引かれて、青色のほうを向くと。
(あ! 一応、これも持っていこう)
私は、棚に入った冷却シートの箱をリュックに詰めた。もしかしたら、タクマくんの熱が上がっているかもしれない。
(1枚くらい、もらってもいいよね。おでこに貼ったら気持ちいいもん)
そろそろと廊下を進み、やっと玄関に到着だ。スニーカーにつま先を入れて、音を立てないようドアを開けて……それから私の体は、スイッチを反転させたようにすばやく動いた。
庭に置いてある自転車のカゴに、リュックを放りこむ。スニーカーにしっかり足を入れて、かたく靴紐を結ぶ。自転車のカギを外す。飛び乗る。こぐ、こぐ、こぐ!
景色がぐんぐん流れていく。住宅街から大きな道に出た。ここまで来れば、お母さんたちには見つからないはず。
心臓がドクドクと暴れている。たぶん、今は昼の2時くらいだろう。急げ、急げ。私がいないってバレる前に、帰らなくちゃ。
──と、湧き上がる興奮が一気に冷めたのは、ムツバスーパーの茶色い頭が見えてきた頃だった。
(ど、どうしよう……)
金網の扉と、立ち入り禁止の札が、歩道をふさいでいる。
車道には降りられない。柵でさえぎられていて、自転車では乗り越えられないし、何より、すごいスピードで車が行き来している。少しでも白線からはみ出したら、はね飛ばされるに違いない。
(しょうがない……別の道を探そう)
ひたいの汗と、こぼれそうな涙をゴシゴシふいて、私は道を戻った。
次第に薄暗くなっていく中、ムツバスーパーの頭を見失わないよう、休み休み進んでいくと、四角い茶色が近づいてきた。
(着いた!)
息を切らせて、ムツバスーパーを見上げる。店内から漏れてくる白い光が、目と胸にしみた。だけど、空はもう茜色だ。
私は、リュックからケータイを取り出した。時間を確認したかった。
途中、通り雨に降られてしまって、トンネルの中から動けずにいたから、けっこう経ってしまっただろう。
ボタンを押すと、パッと画面がつく。私は、ぎょっと目をむいた。
(うそっ、5時半⁉︎)
想像以上に時間がかかってしまった。
とはいえ……今すぐUターンすれば、明るいうちに家へ戻れるかもしれない。ここからなら、30分くらいで帰れる自信がある。真っ直ぐの道が多かったし、曲がり角では看板の文字や建物の形を目印として、頭に入れているから。
だけど、黙って出てきてしまったのだ。帰ったら絶対に怒られる。
私が家にいないことは、とっくにバレているらしい。「ケータイを机の裏に落とした」という、お母さんについたうそも。
ズラズラと並ぶ、お母さんからの着信履歴を見て、私は震えた。当然、メールもたくさん来ている。
怒られる。いや、もうすでに怒っているだろう。カンカンに。
帰った瞬間、鬼みたいな顔で問い詰められて、しばらく自転車は禁止かもしれない。
ユウマくんの家へ行けなくなってしまう。
(それなら……夜になっても構わない。このまま、ユウマくんの家に行っちゃおう!)
だけど、お母さんたちは心配しているだろうし、せめてメールだけでも、と思って、「ようじがあってそとにいます。かえるのがおそくなるとおもう、ごめん」と送った。
(漢字の打ち方がわからないから、読みにくい文章になっちゃったけど……わかるよね、たぶん)
私はリュックにケータイを入れて、また自転車をこぎ出した。
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