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23 白状
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「『ショウジ』じゃない? 同じ学年に、そういう苗字の子、いるよ」
言い方が投げやりだ。おしゃべりができなくて、むくれているらしい。
だけど、お父さんたちはテスト用紙にかじりついて、お姉ちゃんの不機嫌に気づかない。
「『ショウジ』……そうだ、そういえばそんな苗字があった」
お父さんがひざを打つ。そこへ、お母さんが「待って」と戸惑うような声を上げた。
「なんで、そんな名前を芽衣が知ってるのよ? それに、『黒いアパート』だの、『カムギ駅』だの……あっ」
何かひらめいたように、お母さんは大きく息を吸いこんだ。
「『カムギ駅』の近くの、『黒いアパート』に住んでる、『ショウジ』さんってこと……?」
「え……誰よ、それ。変なオッサンとかじゃないでしょうね」
お姉ちゃんが、気味悪そうにつぶやく。それからまた、誰かがリュックを探る音がして──。
「何、これっ⁉︎」
甲高い悲鳴に、私は思わず顔を上げた。
お母さんが、桜色のケータイを凝視していた。恐怖のにじむその目が、ゆっくりと私を見る。
「芽衣……あんた、一体誰と電話してたの? しかも、何回も」
お父さんも画面を覗きこみ、こぼれそうなほど目を大きくした。お母さんの手から私のケータイをひったくると、せわしなく操作し始める。
「……毎回、15分は通話してるな。今日の昼には30分も……」
今日は、ユウマくんとそんなに話していたんだ。少しかすんだ頭で、他人事みたいに思った。
「芽衣。もしかして、この番号の人が『ショウジ』さんかい?」
「芽衣、答えなさい」
芽衣。答えなさい。芽衣。芽衣!
ああ、ついにこの瞬間が来てしまった。
お母さんとお父さん、最後にはお姉ちゃんにまで責められて、私はユウマくんのことを白状した。
✳︎
「……それで、タクマくんの具合が悪そうだから……何か手伝えることがないかと思って、ユウマくんの家に、行こうとした」
そこまで話して、私は口を閉じた。みんなは料理に手をつけず、私に視線を注いでいる。お姉ちゃんまでも。
「なんて言えばいいのか……そもそも、本当なの? ユウマくんって子に、うそをつかれてるんじゃないの?」
お母さんが、眉をひそめて聞いてくる。
気力も体力もなくなった体の中に、ふつりと怒りが生まれて、私はボソボソと言い返した。
「だって、ユウマくん、泣いてたんだよ。うそだったら、どうして泣くの?」
「芽衣、落ち着いて」
お父さんが、こっちに身を乗り出してくる。
「ユウマくんの声は、たしかに小学生くらいだったんだね?」
「うん……タクマくんも、小1か幼稚園くらいだと思う」
「そうか……うーん」
お父さんは天井を見上げて、腕組みをした。
「子どもの作り話にしては、やけにディテールが細かいんだよなあ……裏に大人がいて、指示してる可能性もあるけど」
「でも……本当に子ども2人だけで生活してるなら、大事じゃない」
お母さんは、青白い顔をこわばらせた。お父さんは「そうだな」とうなずき、ズボンのポケットから自分のケータイを取り出した。
「お父さん、何するの……?」
私は尋ねた。不安が胸の中でざわめいている。
お父さんは私を見て、少しためらっていたけれど、口を開いた。
「ユウマくんのお家のことを、通報するんだ」
言い方が投げやりだ。おしゃべりができなくて、むくれているらしい。
だけど、お父さんたちはテスト用紙にかじりついて、お姉ちゃんの不機嫌に気づかない。
「『ショウジ』……そうだ、そういえばそんな苗字があった」
お父さんがひざを打つ。そこへ、お母さんが「待って」と戸惑うような声を上げた。
「なんで、そんな名前を芽衣が知ってるのよ? それに、『黒いアパート』だの、『カムギ駅』だの……あっ」
何かひらめいたように、お母さんは大きく息を吸いこんだ。
「『カムギ駅』の近くの、『黒いアパート』に住んでる、『ショウジ』さんってこと……?」
「え……誰よ、それ。変なオッサンとかじゃないでしょうね」
お姉ちゃんが、気味悪そうにつぶやく。それからまた、誰かがリュックを探る音がして──。
「何、これっ⁉︎」
甲高い悲鳴に、私は思わず顔を上げた。
お母さんが、桜色のケータイを凝視していた。恐怖のにじむその目が、ゆっくりと私を見る。
「芽衣……あんた、一体誰と電話してたの? しかも、何回も」
お父さんも画面を覗きこみ、こぼれそうなほど目を大きくした。お母さんの手から私のケータイをひったくると、せわしなく操作し始める。
「……毎回、15分は通話してるな。今日の昼には30分も……」
今日は、ユウマくんとそんなに話していたんだ。少しかすんだ頭で、他人事みたいに思った。
「芽衣。もしかして、この番号の人が『ショウジ』さんかい?」
「芽衣、答えなさい」
芽衣。答えなさい。芽衣。芽衣!
ああ、ついにこの瞬間が来てしまった。
お母さんとお父さん、最後にはお姉ちゃんにまで責められて、私はユウマくんのことを白状した。
✳︎
「……それで、タクマくんの具合が悪そうだから……何か手伝えることがないかと思って、ユウマくんの家に、行こうとした」
そこまで話して、私は口を閉じた。みんなは料理に手をつけず、私に視線を注いでいる。お姉ちゃんまでも。
「なんて言えばいいのか……そもそも、本当なの? ユウマくんって子に、うそをつかれてるんじゃないの?」
お母さんが、眉をひそめて聞いてくる。
気力も体力もなくなった体の中に、ふつりと怒りが生まれて、私はボソボソと言い返した。
「だって、ユウマくん、泣いてたんだよ。うそだったら、どうして泣くの?」
「芽衣、落ち着いて」
お父さんが、こっちに身を乗り出してくる。
「ユウマくんの声は、たしかに小学生くらいだったんだね?」
「うん……タクマくんも、小1か幼稚園くらいだと思う」
「そうか……うーん」
お父さんは天井を見上げて、腕組みをした。
「子どもの作り話にしては、やけにディテールが細かいんだよなあ……裏に大人がいて、指示してる可能性もあるけど」
「でも……本当に子ども2人だけで生活してるなら、大事じゃない」
お母さんは、青白い顔をこわばらせた。お父さんは「そうだな」とうなずき、ズボンのポケットから自分のケータイを取り出した。
「お父さん、何するの……?」
私は尋ねた。不安が胸の中でざわめいている。
お父さんは私を見て、少しためらっていたけれど、口を開いた。
「ユウマくんのお家のことを、通報するんだ」
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