24 / 47
24 通報しないで
しおりを挟む
「通報って……警察に⁉︎」
お姉ちゃんの声がひっくり返った。
通報する。警察に。手錠をかけられたユウマくんの姿が頭に浮かんで、次の瞬間、私は床を蹴ってイスから立ち上がっていた。
ヘトヘトになった体のどこに、こんな力が残っていたのだろう。手が、お父さんのケータイを奪い取ろうとすばやく動いた。
「め、芽衣、何するんだ⁉︎」
「お父さん、やめて! なんで警察なんか……ユウマくん、何も悪いことしてないのに!」
「違う、違う! 警察には言わないよ」
ケータイをかばうお父さんは、イスからずり落ちそうになりながら叫んだ。
「でも、通報するんでしょ?」
「そうだけど、警察じゃない。ジソウだよ」
「ジソウ?」
「児童相談所。芽衣が聞いた話が本当なら、すぐにでも児相に伝えて、ユウマくんたちを保護してもらわないと」
よくわからないけれど、保護ということは、ユウマくんたちを助けてくれるんだろうか。でも……。
「そのジソウっていうところに保護されたら、どうなるの?」
「それは……」
お父さんは眉を八の字に下げて、困ったように目を泳がせた。
「ねえ、ユウマくんとタクマくんはどうなるの?」
もう一度聞くと、お母さんが答えた。
「今の状況だと、ご親戚に引き取られるかもしれないわ」
「ユウマくん、親戚はいないって言ってたよ」
「それじゃ、施設かしら。どうなるにしても、不憫ねえ……」
お母さんは目を伏せて、悲しそうにつぶやいた。
「フビンって、どういう意味?」
「かわいそうってこと」
そう言ったお姉ちゃんは、親子丼を口に入れて、「冷めちゃった」と顔をしかめた。
「なんで、ユウマくんたちがかわいそうなの?」
「そりゃそうだよ。たとえば、うちの家に誰かを住まわせるとしても、1人が限界でしょ?」
何が言いたいの? と私が首をかしげると、お姉ちゃんは、親子丼をモグモグしながら半目でこっちを見た。
「つまりさあ、ユウマくんの親戚が見つかっても、兄弟一緒に引き取られるとは限らないんだってば。施設も、家族だけどバラバラになることがあるって、何かのニュースで聞いたよ」
「えっ!」
体をめぐる血が、ぜんぶ氷になったみたいに、頭から足の先までが冷たくなった。
「ジソウっていうところに通報したら、ユウマくんとタクマくん、一緒に暮らせなくなるの? 離れ離れってこと?」
お父さんを見ると、私とは目を合わせずに「どうかな」と言った。
「それじゃ……ユウマくんのお母さんも? ユウマくんたちと一緒に暮らせなくなるの?」
「……ちょっと、むずかしいだろうね」
それを聞いて、私は今度こそお父さんの手からケータイをひったくった。
「ちょっ……芽衣! 返しなさい!」
「やだ!」
アワアワと腕を振り回すお父さんから、飛びすさって離れる。
「だってユウマくん、お母さんに帰ってきてほしいと思ってるのに! お母さんに会えなくなったらかわいそうじゃない!」
「何言ってるの、今のほうがかわいそうでしょ?」
眉を寄せるお母さんの目の中へ、次第にいら立ちが生まれていく。
「勉強についていけなくて、弟さんの面倒も見て……そんなに古いアパートなら、お風呂にもまともに入れてないと思うわ。何より、きちんとごはんを食べられないのよ?」
「じゃあ、私のごはん、ユウマくんたちにあげる!」
勢いに任せて叫ぶと、お父さんたちは変な顔になった。さっきまでの、気まずそうな感じじゃなくて、「ほとほと呆れた」と言いたげだ。
「芽衣……それじゃ、根本的な解決にならないわよ」
お母さんが、おでこを押さえてため息をついた。お姉ちゃんは「バカじゃないの」と言い捨てて、バクバクとごはんを食べている。
そして、お父さんは。
「芽衣、例え話をしようか」
お姉ちゃんの声がひっくり返った。
通報する。警察に。手錠をかけられたユウマくんの姿が頭に浮かんで、次の瞬間、私は床を蹴ってイスから立ち上がっていた。
ヘトヘトになった体のどこに、こんな力が残っていたのだろう。手が、お父さんのケータイを奪い取ろうとすばやく動いた。
「め、芽衣、何するんだ⁉︎」
「お父さん、やめて! なんで警察なんか……ユウマくん、何も悪いことしてないのに!」
「違う、違う! 警察には言わないよ」
ケータイをかばうお父さんは、イスからずり落ちそうになりながら叫んだ。
「でも、通報するんでしょ?」
「そうだけど、警察じゃない。ジソウだよ」
「ジソウ?」
「児童相談所。芽衣が聞いた話が本当なら、すぐにでも児相に伝えて、ユウマくんたちを保護してもらわないと」
よくわからないけれど、保護ということは、ユウマくんたちを助けてくれるんだろうか。でも……。
「そのジソウっていうところに保護されたら、どうなるの?」
「それは……」
お父さんは眉を八の字に下げて、困ったように目を泳がせた。
「ねえ、ユウマくんとタクマくんはどうなるの?」
もう一度聞くと、お母さんが答えた。
「今の状況だと、ご親戚に引き取られるかもしれないわ」
「ユウマくん、親戚はいないって言ってたよ」
「それじゃ、施設かしら。どうなるにしても、不憫ねえ……」
お母さんは目を伏せて、悲しそうにつぶやいた。
「フビンって、どういう意味?」
「かわいそうってこと」
そう言ったお姉ちゃんは、親子丼を口に入れて、「冷めちゃった」と顔をしかめた。
「なんで、ユウマくんたちがかわいそうなの?」
「そりゃそうだよ。たとえば、うちの家に誰かを住まわせるとしても、1人が限界でしょ?」
何が言いたいの? と私が首をかしげると、お姉ちゃんは、親子丼をモグモグしながら半目でこっちを見た。
「つまりさあ、ユウマくんの親戚が見つかっても、兄弟一緒に引き取られるとは限らないんだってば。施設も、家族だけどバラバラになることがあるって、何かのニュースで聞いたよ」
「えっ!」
体をめぐる血が、ぜんぶ氷になったみたいに、頭から足の先までが冷たくなった。
「ジソウっていうところに通報したら、ユウマくんとタクマくん、一緒に暮らせなくなるの? 離れ離れってこと?」
お父さんを見ると、私とは目を合わせずに「どうかな」と言った。
「それじゃ……ユウマくんのお母さんも? ユウマくんたちと一緒に暮らせなくなるの?」
「……ちょっと、むずかしいだろうね」
それを聞いて、私は今度こそお父さんの手からケータイをひったくった。
「ちょっ……芽衣! 返しなさい!」
「やだ!」
アワアワと腕を振り回すお父さんから、飛びすさって離れる。
「だってユウマくん、お母さんに帰ってきてほしいと思ってるのに! お母さんに会えなくなったらかわいそうじゃない!」
「何言ってるの、今のほうがかわいそうでしょ?」
眉を寄せるお母さんの目の中へ、次第にいら立ちが生まれていく。
「勉強についていけなくて、弟さんの面倒も見て……そんなに古いアパートなら、お風呂にもまともに入れてないと思うわ。何より、きちんとごはんを食べられないのよ?」
「じゃあ、私のごはん、ユウマくんたちにあげる!」
勢いに任せて叫ぶと、お父さんたちは変な顔になった。さっきまでの、気まずそうな感じじゃなくて、「ほとほと呆れた」と言いたげだ。
「芽衣……それじゃ、根本的な解決にならないわよ」
お母さんが、おでこを押さえてため息をついた。お姉ちゃんは「バカじゃないの」と言い捨てて、バクバクとごはんを食べている。
そして、お父さんは。
「芽衣、例え話をしようか」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる