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街の外

閑話 我が国は不滅なのだ2

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―――アードルフィオ国第二王子ファービリアンから見たこの世界の説明回


 我が国の歴史は、豊穣の賢女様は必要だと語っている。

 我が国が誕生した当初はとても小さく、今とは比べ物にならない位の弱小国だった。
 そこで初代王は神に願ったのだ。

 答えてくれたのは、愛と慈悲と豊穣を司っている二神の男神・・だったという。
 古い記述には肉親だったとか兄弟だったとか、ありえない事に夫婦だったとかがある。

 どう見ても記載間違いだろうな。
 神には男神しかいない。

 記載間違いと言うのは他にもある。
 神は一つの事象を司るものだからだ。

 今では愛の神と豊穣の神が答えてくれた、というのが大方の認識だ。
 実際に、慈悲の神などいないのだから。

 まぁ、古い書物などはどうでも良いか。
 問題は今、発生している事。
 豊穣の賢女様が行方知れずなのだ。

 最初の女性は、儀式をした王都の大神殿の中に降臨されたとある。
 その頃は儀式をすれば呼べたとの記述が残っているのだ。

 ただ大規模な魔力が必要だった為、それ程頻繁に儀式は行われなかった。
 作物の育ちが悪く、魔法でもどうにもならない不作に陥った時に儀式が行われたようだ。

 何代も降臨があり、いつしか豊穣の賢女様と呼ばれる様になっていたという。
 考え方も、降臨された際の服装も我々と違ったからだろう。

 だが、いつの頃からか儀式をしても降臨されなくなった。
 何度も失敗をするが、不思議な事に後々王都から離れた場所で見つかる様になったとある。
 それもずっと後の忘れた頃に、我が国に大変な事態が起こった時だというのだ。

 今がそうなのだ。
 以前より、この国の魔力が減ってきている。
 近年特に酷い状態なのだ。
 だから神が、豊穣の賢女様を遣わしたのだろう。

 ただ最初の頃の豊穣の賢女様と違い、言葉が不自由だったり魔法が使えなかったりと不完全での降臨が続いた。
 回を追うごとに王都から離れていき、不完全な状態は酷くなった。

 しかし、我々王族の近くで過ごすといつしか力を取り戻したと、王族の伴侶達の記録が残っている。

 賢女様は一目で分かる。
 お姿は黒髪黒目がとても目を引くと、様々な書物に記されている。
 しかし、鑑定持ちなら一発だ。

 ステータスに『異世界から神に招かれた者』や『異世界人、神からの世界への贈り物』などの称号が与えられているからだ。

 街の住民登録や各ギルドで作る身分証明書で、分かる様になっているがまだ見つからない。

 ステータスが分かるというのも、神がこの国に特別に与えた叡智であり恩恵だ。

 それがいつの間にか広がっていったと伝えられている。

 我が国ではステータスの恩恵は神殿が管轄しており、今でも成人の儀式などで民たちに分け与えている。

 異国ではステータスが分からず、無駄な努力や無為な時間を送っている者もいるというが、信じられん事だ。

 そういう奴らは、この国の街へ入る事は一度限りとし、後は拒否している。
 神の恩恵がない者など、我が国に必要ないからな。

 街に配置した犯罪識別の道具が、ステータス表示不能な人物も跳ねてくれる。
 便利な道具だが、まず一度登録させなければならないのが欠点だ。

 まぁ、異国民でも幼少であれば関係がない。
 我が国でも成人の儀式を経てから、ステータスは表示されるのだから。
 我が国に対し、有能な者ならば受け入れもできよう。

 我が国の為に、死ぬまで働いてもらえば良い。



 豊穣の賢女様と王族の関係は密接だ。
 初代王と神との契約にあったらしいのだが、残念ながら資料としては残っていない。
 口伝として伝えられていたらしいのだが、今では失われてしまった伝説だ。

 信じられない事に、我々王族は神が遣わした豊穣の賢女様に認められる事で、至上の喜びを感じるというのだ。

 それは恋に似ている・・・・・・と例えられた。

 最初の出会いの一瞬で分かるという。
 男と女になれば、後々不仲になる事はあると言うがそれは別の話だろう。

 王族の血が濃いほど、影響されるという。
 だが、初代王の血は年代を重ねる程薄くなっている。
 この状態で豊穣の賢女様を見つける事は、より王族として相応しいと示せる最大の方法だ。

「アールン、貴様の弟のアルバンだったか?この街の騎士をしているのだったな」
「はい、ファービリアン殿下。不肖の弟ですが、騎士として励んでおります」

「弟からは、黒髪の女の報告はないのか?」
「申し訳ございません。今の所は何も……しかし、我らが血眼になって探しております。きっとすぐにでも見つかるでしょう。我が殿下が王冠をかぶる日も近いと確信しております」

 どこに現れたのか分からない豊穣の賢女様を見つける方法として、少しでも王族の血を継いだ派閥の者をそれとは分からずに遠方に配置した。

 本人に知らせれば、我こそは王になどと愚かな事を言い出すやもしれん。
 豊穣の賢女様が絡むのだ、慎重に事に当たらねばならないからな。

 アールンは侯爵家の嫡男で、数代前に王女が降嫁している家だ。
 その弟となれば期待もしよう。
 特に女の好みが、豊穣の賢女様を探すには秀逸だと聞いていたからな。


 そう、これは既に王位争奪戦でもあるのだ。
 国に、いや私に豊穣の賢女様は必要なのだ。




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