恋人だと思っていたのは私だけだったようです~転移先で女神から後付けでスキルを貰えたので、気分を切り替え何とかやっていきます

ゆうぎり

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林の中での攻防戦

6 願いは叶わず

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 私は、木屑と水を入れた木の鉢を避けた、平坦にした場所に魔法を掛けてみた。
 木屑は、初期燃焼の役に立つから一応残している。
 クルトさんが魔法を使うか、火をおこす道具を持っているか不明だからね。

「浄化!」

 うん、殆ど魔法はかかっていない気休め程度かな。
 やっぱり、昼間の魔法の出力は低い。

 掃除のスキルは上手く発動しなかった。
 料理をした時もスキルは発動していないから、条件があるのかもしれない。

 ベンが水汲みをしている隙間を狙って、検証を始めたり止めたりを繰り返した。

 いざという時、使える様になっておきたかったから頑張った。

 その内木の鉢は水がいっぱい溜まり、ベンは水汲みを切り上げた。
 同じ頃、クルトさんは獣を狩って戻ってきた。
 私が解体が苦手な事を知っているからか、獣の血が他を呼ぶのを恐れてか、既に解体済みだった。

 クルトさんにも、力作を披露した。

「どう、凄いでしょう。頑張って作ってみたの」
「そんな便利なもん出来るなら、先に言っとけ!」

 クルトさんには、そう言われ怒られた。
 私も今知ったとは言えず、とりあえず謝った。

 前もって知っていたら、言ったと思うよ、多分……。

 私はこの世界の魔法やスキルの位置づけが、イマイチ分かっていない。
 何を人に言っていいのやら、知らせていいやら分からないのだ。
 まぁ、これだけではないけれど。

 一年間街で何をしていたんだ、と自分でも思わないでもないけど、まさか魔法が使える様になるとは思わなかったもの。
 この世界の生活に馴染むので、いっぱいいっぱいだった。
 自分に関係の薄いものは、全て後回しにしていた。

 一番の理由は恋人だと思っていたアルバンが、私が魔法の話をすると嫌がった事かもしれないけどね。


 クルトさんは私が収納から出した木や木屑に、道具を使って火をおこした。

 獣の肉は木を細い串状に削り刺し、直火で炙りながら焼いた。
 外は焦げる手前の濃いきつね色で、歯を当てるとカリッと音がした。
 中からは旨みを含んだ肉汁が、じんわりと舌を喜ばす。
 塩の風味も効いて、この怒涛の一日が嘘の様に幸せな一時を運んできた。

 肉は、街の中でも外でも贅沢品。
 街中は需要と供給が追いつかず、街の外では獣は殆ど全て売り払っていたから。

「そういえばクルトさん。街の中の人はこの林で狩りをしないんですか?」

 私は、疑問に思った事を聞いた。
 林に獣がいる事を知っていれば、狩りに来る人もいるよね?

「あぁ、しないな。街の奴らは、この林を毛嫌いしているからな。教会でその様に教えているのさ」

 そうだったんだ。
 私が教会で勉強を受けられない時にでも、教えていたんだろうか。

「でも、王族が連れてきた先遣隊や騎士は狩りをしていたんですよね?」
「あいつらは別格だな。何をしても神が許してくれる。王都を離れ遠方に行く場合、そういう儀式を済ませるのさ」
「クルトさんって物知りですよね」

 さすが元聖騎士ですね、と言う言葉は飲み込んだ。

「……そうだな」

 口が滑ったとでも言うように、しまったと言う顔をしてクルトさんはそっぽを向いた。


 夜は星を見て眠った。

「カーリ、地面に寝転がるなよ。ここは洞と違って、下に何も敷いてない。これで寝ちまうと、体温をうばわれぞ」

 カラッとしていない地面は、座るのと違って長時間寝るのは向いていないらしい。

「じゃあ、どうするの?」
「岩壁に持たれて寝るんだよ。最初は寝づらいがその内慣れる」

 そんなやり取りの後、星を見ながら私は目をつむった。


 翌朝は簡単な汁物を作り、サッと済ませた。
 クルトさんは狩りに、ベンは水汲み、私は掃除に料理と分担して動いていた。
 今日も皆無事に過ごせる様、私は願った。


 そんな私の願いなどは、一つも叶わないと思い知らされたのはその昼過ぎ。

 ヨハンが血を流しながら、戻ってきたのだ。






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